油断大敵、新技炸裂
「ボクはへいきだもん!」
「あのな……」
城壁の上から強気なまなざしで見つめてくるルカ。
「もうすぐ怖いのが来るんだぞ」
「へーきだもん!」
どうしても戦いを見たいようだ。しかし危険である。
子供のくせに生意気いうな、と強引に帰してしまう事も考えた。
だがルカはおとなしい気性の子供ではない。
そうやって押さえつけてしまうと、今後は大人の目が届かないところで無茶をするようになるだろう。
この子は特殊な才能を持つ子供だ。力が暴走した時に対応できる大人がいないようではまずい。
だから勇輝はこの場に残って見学することを許した。
危険な可能性はあるが、そこは自分たちが守ろう。
「エッガイ! ルカを守ってやれよ!」
『了解』
ルカの真後ろに立っていたベータが手をあげて返事した。
「よーし、じゃあやるぜ!」
勇輝はクリムゾンセラフの両手を組み合わせ、敵がくるであろう海岸側へと向けた。
新型機兵のアイデアはまだ完成していない。
今回は試験的に手から魔法を撃ってみよう。
「エッガイチーム! 俺の両手に貯めたエネルギーを送るんだ!」
『ダー!』
なにやらこぶしを突き上げ、おかしな返事が飛んできた。
前回調子に乗って「三、二、一、ダー!」とかやったのが良くなかったかもしれない。
しかしながら、魔力そのものはちゃんと送られてくるのを感じた。
「おっ、おっ、それなりに集まってんじゃん?」
エッガイを設置してまだわずかな時間しか経っていないわけだが、多少は集積してくれていたらしい。
試射としては十分だろう。
『ユウキ様』
ここまで静かに従っていたセラが話しかけてきた。
『危険はないのでしょうか?』
「えっ、大丈夫じゃね? ルカに被害は行かないと思うよ?」
『いえ、ルカの話ではなく』
セラはまだ何か言おうとしていたが、その前に敵がやって来てしまった。
「来た来た来た!
ルカぁ! 怖くないか!?」
「へ、へいきだもん!」
見苦しく砂地の上をもがきながら、トビサメたちがこちらに近づいてくる。
上空から銀の鷹や神鳥の攻撃をうけ続け、すでに全滅寸前だ。
とことん悲惨な状況だというのに、サメたちはそれでもクリムゾンセラフだけを目指して向ってくる。
本当になにを考えているのだろう?
「よーしみんな! 新技を試すから離れてくれ!」
城壁付近で身構えたクリムゾンセラフが異様な雰囲気をまとっているのを察し、味方は全機上空に退避した。
攻撃がやんだのでここぞとばかりにサメたちは向ってくる。
勇輝はガッチリと組んだ両拳を突きだし、そこに魔力を凝縮させていく。
魔力は緑色に輝き、バチバチと空間がスパークする。
『大丈夫なのでしょうか。私の計算結果によると……』
「いーっくぜえーーー!!」
セラの忠告を、ノリノリの勇輝は無視してしまった。
「くらえぇ! クゥリムゾォン・ビィィィィムッ!!」
まばゆい閃光が一直線にはなたれる。
閃光があたりを染める中、勇輝は悲鳴をあげた。
「ぐっ!? ギャアアアアッ!?」
両手に凄まじい激痛が走る。
魔法の威力に耐えかねて左右の拳が融解してしまったのだ。
鋼鉄をも溶かす超高温で両手が破壊されていく苦しみは、とても我慢できるようなものではない。
たまらず勇輝は意識を失った。
クリムゾンセラフがはなった緑色の光線は、地面に着弾しあらゆるものを吹き飛ばす。
サメ型の悪魔も。
大量の砂も。
クリムゾンセラフ自身も。
『ああっ!
だから申し上げたかったのです!』
砂煙の中でセラが嘆いている。
『この手足では新技の熱量に耐えられません!
ユウキ様、ユウキ様!』
大声で呼びかけるが、彼女の主人は返事をしてくれない。
勇輝は完全に意識を失っていた。
――あいつがいた!
――この海の向こうに、あの羽根のはえた天使が!
――地上にもいたのか!!
邪竜は憎き仇を発見し、歯ぎしりをした。
宇宙の果てからやってきた自分を手ひどく拒絶した、許せない天使ら。
かつて百以上もあった頭をすべて潰してくれた天使ら。
まるで太陽のように熱い炎でこの身を焼いてくれた天使ら。
あの赤い目の女に従う、小さいくせに生意気な天使ら。
――許せない!
――我の誇りを傷つけたあの羽根のはえた天使!
――絶対に殺してやる!
邪竜は復讐の炎を瞳に宿らせ海中で吼えた。
あのトビサメの群れは、邪竜が周囲を探るために体内から作り出した、肉体の一部だったのである。
憎き敵と再会したと思った邪竜は理性を失い、とにもかくにもクリムゾンセラフを襲わせたのだった。
邪竜の敵対者であったエウフェーミアとその十二天使。
それと同じ熾天使タイプの守護機兵であるクリムゾンセラフ。
不倶戴天の敵を見つけたのだと、邪竜はそう考えた。
――殺す! 絶対に、絶対に、絶対に!
――今度という今度こそ殺してやる!
――あいつの住む世界も徹底的に破壊しつくしてやる!
邪竜は海上に浮上し、そして聖都にむかって動き出した。
「なんだ化物、貴様も聖都をねらっていたのか?」
邪竜に対してひとり言のように話しかける異形の男がいた。
白い髪、金色の妖眼をもつ怪人、グレーゲル。
「ゴチャゴチャと策を練っていたのが無駄になってしまったなあ。
目的地が同じだったとは。
ゲッゲッゲッゲッゲ!!」
邪竜はこの奇怪な人間もどきの相手などせず、真っ直ぐに聖都へと向かう。
そんな邪竜の背中をみて、怪人は大いに笑うのだった。





