狂気の執着心
「ったくっ!、アアアアア痛ってえなあアア、もおお!」
片足を食いちぎられたクリムゾンセラフは砂浜までみっともなく逃げてきた。
ドザアアーッ!
片足だけではうまく着地できず、ずっこけたかのように前のめりに着地する。
「フンガー!!」
いささか格好の悪い気合の声。
勇輝は砂地に魔力を流し込み、砂を機兵の足として再構築する。
完全に失われていた脚が元通りに修復されていくのを見て、第一騎士団の三人組は思わずため息をついた。
『これが名高い聖女の超魔力……。
見事すぎてなんとも言葉にできませんな……』
普通ならしかるべき工廠で根元から部品交換しなければならない損傷である……いや、損傷であった。もう修理は完了している。
「ふぃ~」
何事もなかったかのようにクリムゾンセラフは立ち上がり、生身の人間のように手で砂を払っている。
損傷が直ってしまえば痛みも消える。ケロリとしたものだ。
『油断するな、まだ来るぞ!』
上空からランベルトの警告。
例のトビサメ軍団たちは数も減ったし魚であるし、陸までは追って来ないだろうと思っていたのだが、甘かった。
全軍海から飛び出して、勇輝に襲いかかってくる。
着地のことなど何も考えていない猛烈な勢いで。
「なんなんだよホントにこいつらは!?」
目と鼻の先に魚群がせまる。
勇輝はクリムゾンセラフを後方へ跳躍させ、空へ避難した。
砂の上に自ら突っ込んだサメたちは、もはや跳ぶこともできなくなってドタバタともがきだした。
「バ、バカなのか……?」
ここまで極端だともはや恐れるべきか、あきれるべきか。
もともと悪魔とは狂気に支配されたものだが、こいつらは異常すぎる。
なぜクリムゾンセラフだけを狙うのか。
もう少しくわしく検証してみたい気もするが、捕獲できるほど甘くもあるまい。
トビサメの群れは陸の上でもがきながら、それでも空中のクリムゾンセラフににじり寄ろうとしている。
執念だけは凄まじい。
「よしっこうなったらお前ら、新兵器の実験台にしてやる!」
勇輝は西門の城壁まで後退する。
サメの群れはジリジリと砂の上を這って追ってくる。
「兄貴、エッガイの配備は終ってるんだろ?」
『ああ、置くだけは置いてあるが』
今日のランベルトは神鳥の練習がてら、城壁にエッガイを配備していた。
三人組にケンカを売られたのは置き終えたあとである。
「ならいい、もうエネルギーを貯めているはずだ。
集まれエッガイたち!」
主に呼ばれた西門付近のエッガイたちは、卵モードから人型モードにチェンジ。
ドスドスドス……と城壁の上を走って集まってくる。
「よーしよしよし、いい子だぞお前ら。
……ん?」
エッガイたちの中に一体、小さな女の子を背負っている者がいた。
最近親しくなった元・男の子、ルカではないか。
「ルカじゃねえか! こんな所でなにしてんだお前!」
「え、エヘヘヘ……」
ルカは気まずそうに笑ってごまかした。
「おねえちゃんたちがディアブルとたたかってるってきいて、ベータにつれてきてもらったの」
ルカに預けていた試作一号機・ベータは誇るように両手を上げた。
住宅街からここまで走ってきたのだろうか。
「おまえ、遊びじゃねえんだぞ」
「エヘヘ……」
ルカは舌をだして笑う。
やんちゃなお年頃というやつか。





