好きにできる、という贅沢な悩み
「うーむ……」
もはや定番のように庭先にシートを敷き、勇輝はあぐらをかいて座っていた。
仮に正面から覗く者がいたら聖女のパンツを目撃したことだろう。
だが広い庭内にそういう不届き者はいない。
今、勇輝の目の前には数々の小さな模型が並んでいた。
どれも大型の射撃武器を持つタイプばかりである。
「アカン、どれがいいか決められん!」
グラリグラリと勇輝の体が左右にゆれる。
目線は宙を泳ぎ、口はへの字にゆがむ。
心の迷いが動きに現れていた。
「なにをそんなに考えてるんですかあ~?」
屋敷の中からバスケットを抱えたジゼルが近づいてきた。
「わあ~、子供たちにあげるオモチャでも作ってたんですね~?」
足元に転がる模型をよけながら、ジゼルは靴をぬぎシートの上に座る。
「いやそうじゃないんだ」
「はい~?」
「こないだエッガイ作ったじゃん?」
「はい~」
「集めたエネルギーをぶっ放す機体のデザインが決まらないんだ」
「すごいですね~」
「…………」
ときどき勇輝は思うことがある。
ジゼルはいつも笑顔でハイハイうなずくが、本当に話を理解しているのだろうか、と。
「じゃあコレなんてどうすか~?
顔がこわくて強そうですよ~?」
ジゼルは大きな盾と大型のバス―カを持つ白い機体を指でツンツンとつついた。
「うん、そいつは俺もかなり好きなやつなんだ」
「じゃあこれにしましょ~?」
「うーん……、いやしかし他のも捨てがたいやつらが色々……」
両手の爪で機体を固定してビームを放つ機体もある。
クリムゾンセラフのように白い翼をはやした青い機体もある。
超大型の狙撃銃を構えた細身の機体もある。
リアル系だけでも大火力兵器を持つものはたくさんあって、さらにスーパーロボット系まで加えるとバラエティ豊かすぎて際限がない。
これらの機体を丸パクリするにせよ、いいとこ取りするにせよ、基本方針が決まらないとどうにもこうにもやり様がなかった。
「基本的には陸戦用の移動砲台みたいな使いかたをイメージしてるんだけど……」
だからといってただ単に『大砲に足つけただけ』みたいなのにはしたくない。それじゃ面白くもなんともない。
人々の希望になるようなカッコイイものを作りたいのだ。
「ふえ~大変ですね~」
分かっているのかいないのか、ジゼルは気楽なノリでそんなことを言う。
「とりあえずお茶にしませんか~?」
彼女は持って来たバスケットをあけて、ティーセットを取り出した。
勇輝の返事も聞かずテキパキと準備を進めてしまう。
うん、やっぱり話は聞いていなかったようだ。
「まあ、そうしよっか」
勇輝は大型バズーカを持った模型に魔力を送って、待っている間の手慰みとした。
小さな機体の目がキラリと輝き、盾と砲門をかまえる。
発射。
ポンッ!
可愛らしい音とともに、小さな弾頭が発射される。
反動で機体の方はコテっとこけた。
「ははっ、これじゃうまく当たらねえな」
理想と現実のギャップを目の当たりにしたような気がして、勇輝は苦笑した。
それからしばらく、ジゼルを話し相手にして勇輝はささやかなお茶会を楽しんだ。
きょうは陽射しもおだやかで過ごしやすい。
ときおり吹く風が心地よく身体をくすぐる。
最近はランベルトやルカにあわせてばかりで自分の時間が取れなかったが、たまにはこういうノンビリした日があってもいいだろう。
……などと考えていた時だった。
『ユウキ様』
セラが指輪の中から話しかけてきた。
『クラリーチェさんから通信です』
「んー? 珍しいな?」
勇輝はタブレットを作り出して、セラに通信を中継してもらった。
「どしたの、クラリーチェ?」
『助けてユウキ!』
緊迫した声で彼女は助けを求めてきた。
『ランベルトが殺される!』
なにかまずい事態が発生したようだ。





