聖女よりもくらんぞん
無事(?)お母さんの許可を得られてのち、勇輝はルカと同世代の子供たちを紹介してもらった。
「うおーほんものだー!」
「せいじょさまだ! せいじょさまだ!」
「おめめが赤いよ、いたくない?」
「なんでもまっ赤にみえてんのかその目?」
ギャーギャー騒ぐ小さい子供たちにかこまれ、手足や髪の毛を引っ張られる勇輝。
「うおお、み、みんなスゲー元気だな」
子供特有の遠慮ないにぎやかさに圧倒されてしまう。
自分にもこういう時期があったなんて、正直信じがたい。
「ルカがいってたのウソじゃなかったんだー」
「ウソじゃないっていったじゃん!」
ルカがなにやら友達に抗議している。
「だっておまえいきなりオンナになるしさー。
セージョとともだちだとかいったって、しんじるわけねーじゃん」
「ぶー」
ふくれっ面のルカ。
どうやら聖女と知り合いだとこの子たちに言ったが、信じてもらえていなかったらしい。
子供社会にもいろいろとあるようだ。
腕を組んでルカたちの様子をながめていると、一人の子供が勇輝の服をグイグイと引っ張ってきた。
「ねえねえ」
「ん?」
「くらんぞんは?」
「は? くらんぞん?」
なんだそのブラックホール作りそうな奴は……などと考えていると、子供は急に興奮しはじめた。
「くらんぞん! くらんぞんだして!」
「い、いやだから何だそれ」
「くらんぞんー! くらんぞんー!」
まわりの子供たちもつられて謎の『くらんぞんコール』をはじめた。
「くーらんぞん♪ くーらんぞん♪」
「くーらんぞん♪ くーらんぞん♪」
「な、なに言ってんだこいつら?
くーらんぞんって何だよ?」
困ってしまった勇輝の横にルカがきて、謎のコールをやめさせた。
「ちがうよ! くらんぞんじゃなくってクリムゾン!
クリムゾンセラフだよ!」
「じゃだせよその『くらんぞんせらふ』!」
「クリムゾンだってば! バカ!」
そういうことか。
勇輝はようやく納得した。
しかしどうしてもこの子たちはクリムゾンじゃなくてクランゾンと呼びたいらしい。
本当に作ってやろうか。ブラックホールぶっ放す凶悪機体を。
「まあいいか、じゃあ見せてやるよ。
みんな離れてな!」
子供たちから距離を置いて、頭上に右手の指輪をかざす。
「セラ、出てきてくれ。
ゆっくりな!」
『はい』
指輪からまぶしい光があふれ出し、光とともにクリムゾンセラフが巨体を現した。
セラは勇輝の後ろに立ち、よいこのみんなに挨拶する。
『こんにちはみなさん』
子供たちは瞳をキラキラと輝かせ、クリムゾンセラフの足にむらがった。
勇輝よりはるかに人気者だったようだ。
『というわけでみなさん、私の家族ベータと仲良くしてあげて欲しいのです』
「はーい!」
セラの言葉に子供たちは素直に返事をする。
勇輝が相手をしていた時は手のつけられないクソガ……活発なお子様たちだったのに。
『ベータ、ご挨拶して』
『ハイ』
なにやらお姉さんみたいな口ぶりのクリムゾンセラフの手の上で、エッガイ試作一号機『ベータ』が不格好なボウアンドスクレープ(右手を胸に、左手を真横にのばした礼)の姿勢をとる。
『べーた、デス、コンゴトモヨロシク』
どっから湧いてきたんだそのセリフ。
勇輝は心の中でツッコミを入れる。
だが子供たちが盛り上がっていたので水を差すようなことは言わずにおいた。
何はともあれベータの存在を好意的に受け入れてもらえそうだ。
わざわざ子供に名を売る理由はちゃんとある。
これくらいの小さな子供たちは大人ほど遠慮をしない。生の感情をむき出しで行動している。
エッガイたちの人工知能を育てる上で、大人だけにターゲットをしぼるのは得策でない。
こういう生の感情むき出しの子供たちにも触れさせたほうが良いのだ。
クリムゾンセラフは身をかがめ、ベータを地上におろした。
「わーっ!」
子供の一人がベータに飛びついた。
ドカッ!
小さな子供のタックルを受け止めて、一瞬ベータの姿勢がゆらぐ。
「ベータ! ベータ!」
どういうつもりなのかバシバシ叩く子もいる。
バン! バンバンバン!
「ワーイ!!」
気をよくした子供たちがどんどんベータに襲いかかっていく。
「だ、大丈夫……だよな?」
勇輝はちょっと心配になった。
倒れた拍子に子供を押しつぶしたりしたら大変だ。
表面の卵は柔らかいフワフワスポンジ状に改良しよう。
足回りも転倒予防にもっとタフにするか。
(いざ現実に行動してみると、頭の中で考えていた以上に問題はおこるものですよ)
脳内にヴァレリアの言葉がよみがえる。
なるほどこういうものか、と納得させられてしまった。





