ロボットアニメとおかあさん
空から舞い下りた巨大な天使は、周辺住民たちの耳目を釘付けにした。
遠目にも色鮮やかな赤い機体。白い翼。
さらに中から救国の聖女が出てくるとなればもうお祭り騒ぎである。
『ユウキ様、タマゴはここへ置けばよろしいですか?』
「うん、オーライオーライ!」
クリムゾンセラフに内蔵された人工知能・セラが地面にデカい卵を置く。
乗って動かすこともできるし、外から指示して動かすこともできる。それがクリムゾンセラフという守護機兵の個性的なところだ。
勇輝は置かれた卵、スリープ状態のエッガイにコンコンとノックして、起動をうながした。
「起きろ、ベータ」
『……リョウカイ』
ガション、ガシャガシャガシャ!
けたたましい金属音をたてて、ベータと名付けられたエッガイ一号が真の姿を現した。
ザワザワ……。
あやしげなその姿に、住民たちから疑惑の声が上がる。
そりゃそうだろう。
卵に手足がはえたようなロボットである。
何だアレ、と思うのが自然だ。
「で、ルカ、お前の家はどこなんだ?」
「こっちだよ!」
ルカはウキウキと陽気な足どりで勇輝を案内しようとする。
「あ、ちょっと待った」
勇輝はルカを待たせ、右手の指輪にクリムゾンセラフを回収する。
巨大な機兵が聖女の手に吸い込まれていく。
信じられない光景に周囲のギャラリーは驚きの声をあげた。
シュオオオ……。
五秒もかからず紅の天使は姿を消してしまう。
伝説の聖女の力を目の当たりにして人々は騒いでいる。
「お待たせ」
「うん!」
ルカは古びた一軒家に案内してくれた。
「ああ聖女様! こんな汚い所にわざわざ……!」
ルカのお母さんが応対してくれる。お父さんは仕事に出ているようだ。
「急にすいません。実はお願いしたいことがありまして……」
勇輝はルカのお母さんに自身の聖都防衛構想を説明しはじめた。
例によって自作タブレットを作り出し、ロボットアニメ調の動画を見せる。
なにやら巨大で悪魔的な色調の影と、それに立ち向かう昭和臭いデザインのロボット軍団。
『グワーッハッハッハ!
貴様らごときの力などこのワシには通用せぬわぁ!』
『くっ、このままでは……』
『死ねええい!』
『うわーっ!』
なんだかよく分からないビームをあびてバタバタと倒れていくロボット軍団。
別にどこも折れていなければ砕けてもいない。
黒いシミがちょこっとついた程度だが大ピンチらしい。
クリムゾンセラフは手首切り落とされても目玉えぐられても戦い続けたものだが、このロボットたちはもう戦えないらしい。
死屍累々のロボット軍団。
しかし一機だけ諦めていない奴がいた。
主人公っぽい男が乗った、主人公機っぽいロボットが立ち上がる。
『ククク……往生際の悪い奴よ。
もがいたところで苦しみが増すだけだというのに』
『オレは絶対にあきらめない!
お前を倒して世界を平和にすると約束したんだ!
オレたちの帰りを待っている人たちがいるんだ!』
プワアアアアンン……。
なんだかよく分からない効果音とともに、暖色系の良さげな光につつまれる主人公機。
『こ、これは!?』
世界中から人々の思いがあつまってくる。
これまでに出会ってきた様々な人たちの善のエネルギーが一つとなって、主人公機の剣をとてつもなく巨大な光の剣へと変える。
『わかる、わかるぞ!
これはみんなの力。
平和を願うみんなの心だ!』
主人公機は剣を大上段に構える。
『ま、待て、待つのだ』
突然弱気になるラスボス。
『ファイナルホーリースラアアッシュ!!』
初めて触る武器なのにちゃっかり名前まである最終奥義がラスボスをまっぷたつに叩き切る。
『ウギャー!』
悪は滅びた。
ハッピーエンド。
「ってな感じの事をやりたいので、エネルギーを集めるロボットを開発中なんです」
「………………はあそうですか」
お母さんの反応はすこぶる冷ややかだった。
大人の女性にロボットアニメみせても心に響かなかったらしい。
「聖都の中で効率よく活動させるために、この小型機『エッガイ』の頭脳に人間との共存に必要な知識を勉強させる必要があるんです」
「はい」
「で、ルカ君が協力してくれるっていうんですが……」
チラ、とルカの顔を見る。
「ねえーいいでしょーおかあさーん!」
ルカは母のひざにしがみついた。
「いやそんな急に……」
当然というかなんというか、お母さんはあまり気がすすまないご様子。
「ねえーおねがーい!
ベータといっしょにあそぶって、やくそくしたんだもーん!」
「そんなこと言ったってねえ……」
頬に手をあてて、困り顔のお母さん。
勇輝は言い忘れていたことを思い出した。
「あ、ヴァレリア様からお礼のお金について話せって言われてたんだった」
瞬間。
お母さんの目はギラリと光った。
「いくらですか!」
「と、とりあえず前金として、これ」
ちょっと引き気味の顔で、勇輝はズッシリ中身のつまった革袋を差し出した。
「終了時に、もう一度同額をお支払いします」
お母さんは満面の笑みになった。





