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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第四章 ボクの夢は聖女さま!

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ヴァレリア・ベルモンドは静かに勝利する

 案の定というかなんというか。

 エッガイを市街に配置しようという案を、ヴァレリアは賛成しなかった。


「とりあえず試験運用という形で、軍施設のみに設置というわけにはいきませんか」

「ええー!」


 露骨に不満がる勇輝に対し、ヴァレリアは落ち着いたものだった。


「様々な場所から苦情が来そうですし、それに……」

「それに、なんです?」

「少々、今は時期が悪いのです」

「はい?」


 なんのことやら、勇輝には分からない。

 ヴァレリアは静かに語りはじめた。


「今、騎士団内で再編成がおこなわれようとしているのは分かりますね?」

「はい、リカルドさんが第三騎士団長になって、遊撃隊長はランベルトの兄貴になるって」

「そうです。しかし変わるのは上層部だけではなく、人数が不足してしまった第三騎士団の戦力を補うために各騎士団からの異動をつのり、新入団の騎士たちの割り当ても第三騎士団に多く人員をあてがうことになります」

「はあ」


 なんの意味があってこんな事を聞かされているのやら。

 サッパリ分からないので勇輝は面白くもなんともない。


「人事異動をした後の組織が形になってきた時、どういう事がおこるか想像できますか?」

「さあ……? 形になったなら強い戦力になるんじゃないですか?」

「ただ単に軍事力が増すだけではありませんよ?」

「はあ」

 

 ヴァレリアは教え子を指導する教師のような顔で言葉をつづる。


「軍内部でのわたくしたちの力が増すことを意味します」

「んん……? もともとトップはヴァレリア様じゃないですか?」


 勇輝は首をかしげた。

 ヴァレリアは苦笑し、眉間にしわを寄せる。


「まあまあ、グスターヴォさんのことを思い出してください。

 身分がトップだからと言って、簡単に忠誠を誓ってくれるような方々ではありませんよ」

「ああ、はい」


 グスターヴォ元団長がひきいていた、旧第三騎士団。

 聞き分けがなさすぎてテロ行為までやらかした連中である。

 ヤバいほど強い集団だったが、故人に忠誠を誓ったまま古い価値観にこだわりすぎていたのは問題だった。

 

「新生第三騎士団をリカルドが、遊撃隊をランベルトが引き継ぐことで軍内部での勢力図は大きく変動します」


 ヴァレリアが長官にいたばかりの時、情勢は五大騎士団長に対してヴァレリア一人。5:1という圧倒的不利な状況でのスタートだった。

 教皇から軍の財務状況を改善することを厳命されていたヴァレリアは、まず孤立無援の状況を改善するところから始めなくてはいけなかった。

 そこで生まれたのが騎士団長と同格の身分を持つ直属部隊、遊撃隊である。

 これによって5:1であった勢力比率は5:2となった。


 そして今、第三騎士団長の地位をリカルドが継ぐことで比率は4:3になる。

 あと一手で情勢はひっくり返る。ようやくここまでこぎ着けたのだ。


「……まあ、その先のことはいずれまた」

「はあ、そうですか」


 ヴァレリアは指で眼鏡を直した。 

 布石ふせきはすでに打ってある。

 他ならぬ救国の聖女、目の前で間抜まぬづらをさらしている相沢勇輝である。

 勇輝は魔王戦役で聖都に住む百万の民すべてを救った、命の恩人である。

 今回新たに騎士となる者たちも同様であり、必然、勇輝や勇輝の保護者であるヴァレリアに悪い感情は抱いていない。

 これからはそんな人間が毎年続けて入団してくるようになる。

 彼らは潜在的な親ヴァレリア派であり、彼らの上司たちも今後はこれまでのように公然とヴァレリアを批判するような真似はできなくなってくるだろう。


 時間がたつほどに自身の勢力は強くなり、相手の勢力は弱くなっていく。

 そういう形が出来上がろうとしている。

 だからこそ今やる行動は慎重でなくてはならぬ。

 今、この時こそ敵は最強であり、待てば待つほど弱体化していくのが分かっているのだ。

 付け入るスキをあたえるべきではない。


「新しい事をしようとする時に騒ぎをおこすのは避けたいのですよ。

 なのでせめて外部の人々を困らせることは無いようにお願いします」

「そ、そうですか」

 

 勇輝は残念そうだ。


「けっこう色々と考えてたんですけど……。

 人工知能の育成がうまくいったら街のボディガードとして役に立てるかなって。

 最近また治安が悪くなってきてるじゃないですか。

 悪い気を吸収するのと同時に、エッガイの格闘技で街を守れたらメッチャ良いんじゃないかなって……」


 最近聖都の復興事業に区切りがついて、いわゆる復興バブルが終ってしまったようなのだ。

 一時的には廃材はいざい撤去てっきょなどの肉体労働でお金をかせいでいた浮浪者たちも、ふたたび元の無職に戻ってしまった。

 そのせいでまた犯罪に手を染めるものが出てきて、治安が悪化し始めている。


「そこまで深く考えているのでしたら、なおさら入念に開発しませんと」


 むしろヴァレリアに突っ込まれてしまった。


「いざ現実に行動してみると、頭の中で考えていた以上に問題はおこるものですよ。

 やはりうちの屋敷と軍施設ていどの小規模で実験してみるのが賢明です」

「う、うーん、それだと学習データがかたよっちゃう恐れが……」


 勇輝は悪い実例を知っている。

 エウフェーミアの十二天使たちだ。

 あの連中は世界の片隅でエウフェーミアしか知らずに生きてきたからか、どうにも思考回路がいびつだ。

 人工知能の育成に多様性は必須。間違いない。


「だったらさ!」


 これまでずっといい子で静かにしていたルカが勇輝にズイッと顔を近づけた。


「だったら、ボクの家なんてどう!?

 ボクんちで一個あずかってあげるよ!」

「お前んちで?」


 ルカの家は一般市民の住宅街にある。

 意外といいアイディアかもしれない。

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