タマゴの戦士エッグ・ガイ
「ねー、このおっきいタマゴなーにー?」
子供らしい素直な好奇心でルカがたずねてくる。
勇輝は上機嫌をよそおって答えた。
すぐ後ろでクラリーチェが不機嫌そうににらんでいる。
彼女に口を開く時間をあたえないほうが良い。
「フッフッフ、これこそ我が新必殺技システムの基礎部分なのだ!」
「えーっ、しんひっさつわざ!?」
目をキラキラさせるルカ。
これは見せてやらねばなるまい!
「出ろおおおお! エッガアアアイッ!!」
勇輝は指をペチっと鳴らした。
本当はもっとカッコいい音を出したかったのだが、あいにく指パッチンがヘタだった。
しかし合図には十分だ。
目の前にならぶ五十個の卵が一斉に動き出した!
ガシャッ! ガシャガシャガシャ!
卵のカラのいたるところに穴があき、頭・両腕、両足がニョキニョキニョキっとはえた。
エッガイと呼ばれた彼らはその場に立ち上がり、直立不動のかまえ。
「卵の戦士エッグ・ガイ、略してエッガイだ!
すごいだろ!」
得意げに胸をはる勇輝。
しかし、観客たちの反応はイマイチだった。
「……なんか、あんまりかっこよくないかも」
ルカの寸評に大人たちもうなずいていた。
「え、ええー? ダメかあー?
デザインは、まあ……」
某有名アニメにアッ〇イという敵ロボットがいる。
対戦ゲームなんかでもチョコチョコ走り回る姿が可愛らしくて、ひそかに人気のある機体だ。
このエッガイは卵のコスプレをトッピングしたアッガ〇をイメージして作ったもの。
たしかに格好良くは……ない。
「こんなもの作るために朝から頑張ってたの」
クラリーチェがあきれ顔でつぶやいている。
「こんなもの言うな! こいつらがこれからの聖都を守るんだからよ!」
「はあ……?」
バカにしきった顔でクラリーチェはエッガイたちを見つめる。
「よしじゃあやってみようじゃねえか、こんな場所でもそこそこ効果はあるはずだ」
気合一閃。
勇輝は追加で新しいものを作った。
黒い鉄でできた、丸い筒が地面からはえてくる。
土台はやけにガッシリとしていて、騎士二人はただならぬ気配を察した。
キリキリキリキリ……と筒は仰角を上げていって、ついには真上を向いてしまう。
「ちょっと待ったユウキ。これは何だい?」
良からぬ気配を感じたランベルトが止めに入る。
この赤い目をした末妹、必ずしも役に立つものを作るとはかぎらないのだ。
先日も変形する機兵をつくって、自分自身を半殺しにしたばかりである。
「大砲だよ」
そう言いながら勇輝はさらに人数分、防音具を作り出した。
「全員、これを耳につけて。危険かもしれないから」
手渡されたランベルトは戦慄した。
この相沢勇輝、普段はこういう配慮ができなくてさんざん周囲から叱られている。
いつもそそっかしい相手が慎重になる、これは本当に危ないということだ。
「ほい、ほい、ほい」
勇輝はその場にいたクラリーチェ、ルカ、ジゼルに次々と防音具を手渡し、自分も身につけた。
「さあ離れて! 離れて!」
大声を出しながら両手で押す仕草をする。
全員指示に従って数十メートル離れた。
「よしやれ、エッガイチーム!」
勇輝が命令を下すとエッガイたちが駆け足で大砲をかこむ。
意外と走るのは速い。
そして全機、両手を大砲にむけて身動きしなくなった。
エッガイたちの手から魔力が飛び出て、大砲の中に溜まっていく。
力を送り終えたエッガイは地面にうずくまって、対ショック態勢をとった。
そうして同じ事がくり返され、すべてのエッガイが作業を終える。
「イクゾー!!」
勇輝は人間たちにむけて三本指を立てた。
「三!」
「二!」
「一!」
コールごとに一本ずつ指を減らしていき、そしてゼロになる。
「ダーッ!!」
拳を天に突きあげた瞬間。
大砲が天空めがけて閃光をはなった。
ドオオオオン……!
地を震わす振動。
腹に響く重低音。
目もくらむ閃光。
はなたれた光は高く高く飛んでいき、そして弾けて消えた。
勇輝は防音具を外し、皆にも外すよう身振りで指示した。
「どうせだったら夜に実験するんだったね。
きれいな花火が見れたかもしれない」
そんなことを言った。





