金色の暴走少女
「とりあえず見てみんことにはなんも分らんな」
勇輝はルカに近づき、頭をクシャッとなでた。
「お前すげえ力があるんだろ?
どんな事ができるんだ?」
「んー、わかんない」
ルカはなでられながら首をかしげる。
「ワーッときてバーンって感じ」
「よしっ、外へ行こうぜ。見せてくれ!」
細かい事は大人たちにまかせて、勇輝たちは屋外へ出ることにした。
おそらく壊された場所は勇輝が直して解決という事にするだろう。
壊れた物が無くなるのだから罪にも問われずに済むのではないか。
なんにせよ勇輝の興味はそんなところにはない。
『壊れた物』より『壊した力』のほうが重要だ。
自分に憧れて目覚めた力なんて、興味がわくに決まってるじゃないか。
というわけで二人が再会した時と同じ、裏口にやって来た。
「さ、ここなら思い切りやっていいぞ。
命以外は全部直せるから、何をどれだけぶっ壊してもオッケーだ!」
「う、うん」
ルカは不安そうな顔で両手を握った。
なにが始まるのかと勇輝は期待の目で見つめる。
しかし。
「んーっ」
ルカはただ唸りながら力むだけだった。
「んーっ! んーっ!」
顔を真っ赤にして全身に力をこめているが、これは違う。
あきらかに見当はずれなことをしている。
これじゃ魔力ではなく筋力だ。
「はあ、はあ、はあ……」
ルカはあっという間に疲れて息が続かなくなった。
「おいおい、なにやってんだ」
勇輝は跪き、ルカと目線をあわせる。
「それじゃ力んでるだけだ。
魔法をつかうのは魔力だよ、腕力じゃない」
「う、うん……でもよくわかんない……」
ルカは泣きそうになってしまった。
「そっか、お前はまだ初心者なんだな。
前できた時のことを思い出してみろよ。
力が出たのはどんな時だった?
頭の中をそん時と同じにしてみろよ」
魔力というのは十人十色で、一人一人感覚が違う。
だから勇輝と同じ感覚でやれとは言えないのだ。
勇輝の場合、魔力とは身体の中心からあふれ出す宇宙。
宇宙が渦を巻きあふれ出して、世界を手当たりしだいに変化させていく感覚なのだ。
しかしこんなことを口でつたえても意味はない。
ルカにはルカの感覚があって、それを実感させる必要がある。
「うん……」
ルカはグッと目を閉じた。
「……」
何を想像しているのか、唇をとがらせて不機嫌そうな顔になる。
そのまま何も起こらないかと思えたが、数秒後、ルカの髪の毛がザワザワと動き出した。
「おっ?」
かすかに全身が光り出した。
髪のざわめきはさらに激しくなってくる。
「お、いいぞいいぞ!」
光はさらに強さを増し、遠くから見てもハッキリわかるくらい明るく輝いている。
「う、う、うわああああああん!!」
ルカは叫んだ。
正しくは泣き叫んでいた。
「ウエエエエン! エエエエーン!」
感情の爆発とともに魔力が爆発している。
爆発した魔力は金色に輝いているが、強風にあおられた炎のようにメチャクチャにゆれ動いていてまったく安定していない。
「ボクは!」
ルカの目から涙がこぼれる。
涙は重力にさからい、魔力の奔流と共に飛び散った。
「ボクはウソなんか言ってないもん!
ウソツキなんかじゃないもん!」
どんなことがあったのか、事情は知らない。
だがとにもかくにもルカは非常に興奮していた。
興奮し、涙を流す。
泣きながら閉じていた眼を開く。
ルカの両眼は、勇輝のように赤い色になっていた。
「こ、これか……!」
たしかにこれは赤い目の少女だった。
はげしく荒れ狂う金色の魔力に包まれていて、栗色の髪もちょっと金髪のように見える。
勇輝の特徴とよく似ていた。
「ワアアアアアアアッ!!」
ルカが叫ぶ。
全身をつつむ魔力は一つの束になって、頭上から勇輝に襲いかかった!
「セラッ!」
とっさに勇輝はセラを呼んだ。
右手の指輪からクリムゾンセラフの腕が飛び出してくる。
襲いかかる光の束をガッシリとブロック。
光は巨大な腕となっていた。
クリムゾンセラフの腕とよく似た、同じくらい大きな腕。
どうやらこれが正門を破壊した魔法の正体。
「……はあっ」
突然ルカは力つきた。
金色の腕はパーンと音を立て、破裂して消えてしまう。
倒れる少女を勇輝はあわてて抱きとめる。
「おっとっとっ!?」
「うう……」
力なく息をはくルカの目は元の栗色に戻っており、金のオーラも消失していた。
「おい大丈夫か、おい!」
ルカは意識朦朧としていた。
魔力の使いすぎだ。
『ご無事ですかユウキ様』
「ああ助かったよ。しっかし全然コントロール出来ねえんだなこいつ」
ほんの一瞬だけの大出力。
まさに爆発的な魔力の持ち主だった。





