まさかすぎる再会
執務室を出て、建物内をうろつく勇輝。
神鳥の修理をランベルトが待っているだろうし、そろそろ帰らなくてはいけない。
しかしこのまま帰るのも味気ないなと思い、フラフラとあてもなく廊下を歩いていた。
新しい兵器がほしい。
そのためのアイデアを求めていた。
適当になんとなく歩いていると、職員用の出入口をみつけた。
軽い気持ちで外に出てみる。
そこは敷地の裏側だった。
すぐ近くに馬の厩舎を大きくしたような、屋根あり壁なしの独特な建物がある。
中には緊急用なのか、小型機兵兵卒が十体待機していた。
市街戦むきの小型機兵。
人間と同じ四肢の陸戦型なので使いやすく、手先が器用なため様々な武器をあつかうことができる。
「うむむ……」
過去の戦いを思い出して、自分のノドをさすった。
この兵卒と一騎打ちをして、クリムゾンセラフのノドを突き刺されたことがある。
小さいからってなめていたらひどい目にあわされた相手だ。
あの敵が使っていたのは槍だった。
勇輝はもう少し近づき、壁に設置されている武装を一つ一つ見てまわった。
格闘武器は剣、槍、斧が多い。
射撃武器は弓とクロスボウ。
予備の武器として短剣や鎖つき鉄球などもあった。
中でも興味がわいたのは弓矢だった。
矢の先端、鏃に爆裂魔法が付与されている。
突き刺さった相手の内側から爆発するという、なかなかにエグイ武器だ。
思えばこの世界に来てすぐ、この爆発する矢に命を救われたのだった。
勇輝を襲う灰色狼を一撃で消し飛ばし助けてくれたものだ。
「刺されば強いよな、刺されば」
勇輝は赤竜との戦いを思い出していた。
あの巨大な邪竜にこの弓矢ではおそらく戦いにならない。
表面をおおう竜の鱗、これを破壊できる大火力兵器が欲しい。
たとえばそう、日本のロボットアニメで見た、国中の電力を全部集めたビームライフルみたいな。
もっと古く、数々のスーパーロボットたちが使っていた必殺技みたいな。
でも今さらクリムゾンセラフにゴテゴテとした追加武装をくっつけるのには抵抗がある。
機動力を落としたくはない。バランスと対応力の高さが売りの機体だ。
「んー、しかし《自由》みたいに腰にビームつけるのはアリか?
頭にバルカンつけて『こんなところにバルカンが!』ってのをやってみたい気も。
ううむ……」
研究なのか妄想なのかどちらともつかない事を、ブツブツとつぶやき続ける。
考え事をしていると、すぐ横でガサッと物音がした。
「ん?」
見ればそこに、栗色の髪をした小柄な女の子が立っている。
「い、いたー!!」
女の子はキラキラした瞳で勇輝を見つめていた。
「ボク、女の子になりました!」
キラキラスマイルで謎の言葉を投げかけてくる。
「ボクも聖女にしてください!」
勇輝は反応に困った。
(やべえ、なに言ってんだかまったく分からねえ)
子供の言うことである。
合理性もなにも無い可能性と、有る可能性の両方があった。
だからこういう時、一方的に決めつけて否定するのは、ダメな大人のすることだ。
無意味な言葉と決めつけずに、冷静に話を聞いてみよう。
「えっと、きみ、お名前は?」
「ルカ!」
「ルカちゃんかー。
何歳かな?」
「九さい!」
「そっかー」
ルカと名乗った少女はキラキラした笑顔で勇輝を見つめる。
「ねえねえ!」
「ん?」
「きょうは天使はもってきてないの!?」
「天使?」
一瞬ぺネムのことかと誤解した。
「うん、セラフ! ボクもう一回セラフが見たい!」
クリムゾンセラフのことだった。
もう一度、ということはどこかで見たことがあるらしい。
「あ、見たいか? ちょっとだけな?」
勇輝はまわりをキョロキョロと確認した。
まあここならちょっとくらい邪魔にならないだろう。
「セラ、出てきてくれ」
『はいユウキ様』
右手の指輪から閃光があふれ出る。
光とともに紅の天使がその巨体をあらわした。
『こんにちわルカさん』
セラがサービス精神を発揮してお辞儀してみせた。
ルカは大喜びだった。
「わーっ、わーっ! ボクの名前よんだ!
しゃべるんだ! すごーい!」
手をあげてはしゃぐルカ。
「ボクねえ、あの公園でお姉ちゃんが来てくれるのずっと待ってたんだよ」
「ん?」
なんの話かわからない。
「でも来てくれないから、ずっとお姉ちゃんのことばっかり考えてたから、ボクもお姉ちゃんみたいになれたの、だから会いにきたの!」
「なんのこった?」
「ボクもわるいやつをやっつける人になったよ!」
少女が勇輝を見上げて笑う。
勇輝は少女の笑顔を見下ろす。
この笑顔と位置関係に、強い既視感を抱いた。
「あれ、どっかで、どこでだ?
俺ときみ、会ったことあるよな?」
分からない。
こんな年頃の女の子に知り合いなんて居ないはずなのに。
だがこの子を自分は知っている気がする。
「えっ!! ボクのことわすれちゃったの!?」
ルカは悲しそうな顔をする。
「おぼえてる。おぼえてるから分からねえんだ」
脳内で過去の記憶がめまぐるしく切り替わっていく。
この子が泣いていた。
自分は泣くこの子をなぐさめた気がする。
しかしどこでだ?
しつこいようだが、小さい女の子に知り合いなんていないのだ。
それなのになんだこの記憶は?
記憶にあるこの子は、たしか騎士の人形を持っていて……。
「もう!」
ルカは怒りだした。
「お姉ちゃん公園でディアブルやっつけたでしょ!」
「!?」
やはり。
やはりこの子はあの時の……男の子。
この子がいたから。
この子がいなかったら、自分は。
「お前、女の子だったのか!?」
「だーかーらー! 女の子になったの!」
勇輝の知らないところでなんだか妙なことになっていたようだ。





