三つ子の魂
翌朝。
勇輝はとんでもない大音と振動によって目覚めた。
ズドドオオオン!!
地震のような衝撃で屋敷全体がゆれる。
勇輝の部屋も派手にゆれて、埃が上からパラパラと降ってきた。
「なんだっ!?」
勇輝は跳ね起きた。
かつて魔王が生まれた瞬間に状況が似ていたので緊張感が走る。
「ぺネム! おいヘボ天使!
何がおこった!」
だが天使からの返事はない。まだ寝ているのだろうか。
「使えねえなあもうっ!」
パジャマ姿のままベランダに出る。
「セラ! 出てくれ!」
右手にはめた指輪を天にかざし、相棒に呼びかける。
指輪からまばゆい閃光がはなたれた。
『はい、ユウキ様』
指輪の中から閃光とともに愛機クリムゾンセラフが姿を現す。
「なんなんだ一体!」
空へと飛びあがり、周囲を見回す。
聖都の街はまったくなにも問題なさそうだった。
「あれ?」
どこも破壊された形跡がない。
さらに上昇して、視認できる限界距離までチェックする。
やはり何ともないようだ。
「……もしかして俺、寝ぼけてた?」
たしかに大きな振動を感じたのだが。
『いえ、私も地震らしき揺れを確認いたしました。あなたの夢ではありません』
「え……?」
寝ぼけた可能性もセラに否定されてしまう。
分からない。
大空で一機、首をかしげていると天使ぺネムがようやく近づいてきた。
『オーイ朝っぱらからなに騒いでんだオメー?』
「あ、ぺネム! さっき地震がなかったか!?」
『は、んなモンねーよ』
言いながらぺネムは真下を指さした。
『壊れてるのはオメーん家だけだよ』
「えっ」
灯台もと暗し。
問題はベルモンド邸でおこっていた。
屋敷の一部で粉塵が舞っている。
巨大な何かが上から降ってきて、屋敷を破壊したらしい。
じょじょに煙がおさまってきて、破壊したものの正体が明らかになった。
銀色の機体。
守護機兵神鳥。
「もしかしてランベルトか!?」
クリムゾンセラフは急降下していった。
『ふー、やれやれ……』
不良天使が頭上で冷笑しているのは、このさい無視だ。
この破壊状況、機体も中身もただですむわけがない。
迅速な救助が必要だった。
事件のきっかけは何のことはない。
朝早くから起きたランベルトは神鳥に乗って軽い自主練習をしていた。
今朝は特に調子が良かったので、つい空を飛んでみようと翼を羽ばたかせた。
屋敷を越えられるかどうかというところまで高度を出せたが、そこでバランスを崩し、横転した姿勢で屋敷に突っ込んでしまった。
協力者なしで新しい練習メニューを始めてしまったこと。
その慢心が事故を生んだ。
「まったく、三つ子の魂なんとやらですねランベルト」
ヴァレリアは魔法で治療しながら、ランベルトに説教していた。
「子供のころからあなたはよくそうやって背伸びしようとして、怪我して帰ってきたものです」
「面目次第もございません」
養母に叱られてランベルトは落ち込んでいた。
とりあえず肉体に後遺症などは残らずにすんだようだが、やはり機兵は大きく損傷していた。
ランベルト本人も助け出した時は全身打撲のうえ頭から血を流していて、一瞬『まさか』と思ったほどだった。
幸い屋敷の主が回復魔法のスペシャリストだったおかげで事なきを得たものの、普通の家庭環境ならどうなっていたか分からない。
「とりあえず今日一日は大事をとってお休みなさい、最近あなたは根を詰めすぎています」
「い、いえそれは!」
ガバっと起き上がろうとする彼を、クラリーチェが押しとどめた。
「全然体に力が入ってないじゃない、そんなでは無理よ」
同じ強化魔法の使い手どうし、力くらべなら男のランベルトのほうが勝るはずだ。
しかし今は一方的にクラリーチェに押さえつけられていた。
やはり何らかのダメージは残っているのだ。
「くっ……」
それでも未練たらしい顔をしているので、勇輝がとどめを刺した。
「どっちにしろ機兵を直さなきゃなんもできねーだろ。帰ってから直してやるよ」
機兵は壊れたままだ。確かにこれではイメージトレーニングしかできない。
ランベルトはとうとう諦めた。
勇輝が学校へ行って、そして放課後。
まっすぐ帰宅するのではなく、軍務省本部へ寄り道することにした。
例の変身聖女もどきの話が気になっていたからだ。
「ありゃ、なるほどね……」
正面ゲート前にボッコリと謎のクレーターができていた。
ゲートを構成していた鉄柵や金具などはひしゃげて破壊されており、完全にダメになっている。
「これ、良かったら俺が直そうか?」
門兵さんたちにそう申し出るが、断られた。
「いえ、お気持ちはありがたいのですが警察の調べもありますので」
「なるほど」
大人には色々と都合があるらしい。
さて用事はすんでしまったが、せっかくだから中で見学させてもらう事にした。
実はカラドリウス以外にも作ってみたい機兵のアイデアがいくつかあって、微調整用のネタを探しているのだった。





