変身、そういうのもあるのか
その日は一日ずっとランベルトの訓練で終った。
リカルドから助言をもらったものの新しい訓練法というものも思いつかず、地道な歩行訓練を続ける。
元々初心者ではなかったので、歩くことに関しては問題なく行えるようになってきた。
きっと明日は走れるようになるだろう。
日が暮れてきたので、今日はここまで。
クリムゾンセラフと銀の鷹につかまって、神鳥はベルモンド邸に空輸された。
「今日の晩飯はなにかな~」
美しい茜色にそまる聖都を見下ろしながら、勇輝が胃袋を鳴らす。
街のいたるところで炊煙があがり、中には庭でバーベキューを楽しむ人々もいる。
どこも夕食の時間だ。
今夜はどんなごちそうが自分たちを待っているのだろう。
心躍る気分で三人は帰宅した。
しかし、屋敷で待っていたのはなんと警官隊だった。
「お待ちしていました聖女様」
どうやら勇輝に用があるらしい。
「本日はどこで何をなされていましたか?」
「えっ、聖都の外でずっと訓練していたけど」
「それを証明できるかたはいらっしゃいますでしょうか?」
「……ここにいるランベルトとクラリーチェがずっと一緒だった。
途中、遊撃隊のリカルド隊長たちに会ったよ」
話しかけてきた警官はしきりにメモを取っている。
なんだというのだ一体。
「ご協力感謝いたします。実は……」
言いにくい内容なのか警官はコホンとひとつ、咳ばらいをした。
「実は本日午後、軍務省本部の正門を『赤い目をした少女』が破壊する、という事件がありまして……」
その場にいた全員の目が、勇輝の顔に集中した。
「現場が混乱する中、問題の少女は逃走。
現在行方を捜索中なのです」
「い、いやちょっと待って、俺ずっと今日は外にいたぞ!?」
今まで色々なものを壊してきた勇輝だが、いわれのない罪まで着させられる覚えはない。
「いえこれはあくまで形式的なもので、他意はございません」
ありふれたテンプレ発言が返ってくるが、こんなのはもちろん嘘である。
「失礼」
横からランベルトが会話に割り込んできた。
「少女、と言いましたが、軍の人間ならばユウキの顔を知っていてもおかしくないはずです。
正門を警備していた者はユウキに破壊されたと証言しているのですか?」
「いえいえ、そういう話ではないのですよ」
警官は首を横にふった。
何を言いたいのかよく分からない。
「どういうことです?」
「その少女は『聖女さまに会わせてくれ』と門兵に要求したらしいのです」
「えっ」
ランベルトは驚きをかくせない。
勇輝に顔をむける。
「この子以外に、赤い目の少女が?」
しかし警官は困ったような顔になった。
「いやそれが、我々にとっても雲をつかむような話でして」
グダグダと要領を得ない会話が続く。
ランベルトたちはイライラしてきた。
こちらは空腹でストレスがたまりやすくなっているのだ。
「はじめは栗色の髪と瞳をした、普通の少女だったというのです。
しかし話しかけられた門兵は仕事中ですし相手は子供だったので……」
まともに相手をせず邪魔者あつかいした、ということらしい。
「あまりにしつこかったので、まあ多少、乱暴にあつかったらしいのですな。
ケガをしない程度に、こう」
警官は片手を低い位置に持って行って、叩くそぶりをした。
尻を叩いたらしい。
「そんなこんながありまして、女の子が怒るわけです」
「はあ」
どっちもどっちだ。やったほうにもやられたほうにも問題がある。
「怒りだしたとたん、女の子が変身したと、そう言うんですよ、これが」
「はっ?」
思わぬ発言が飛び出して、ランベルトは間抜けな声を出した。
警官も困り顔で自身の手帳を読み返す。
「突然全身が光り出して、髪は金髪に、目は真っ赤になった……そういうんですよねえ、被害者が」
オレは怒ったぞー!!
勇輝の脳裏にそんなシーンが浮かんだ。
「で、その女の子の光が正門を破壊したと、そう言うんですな。
どうでしょう、そういう女の子に心当たりとか、ありませんか?」
あるわけない。
勇輝は困惑しきった顔で否定した。
「ないですよ、そんなの」
過激派のファンか何かなのかもしれない。
やたら強い力を持っていそうだが、そんなのまで勇輝に話を持ってこられても責任は負えない。
「なるほど、分かりました。
ご夕食時にお邪魔してしまい申しわけありませんでした。
何かお気づきの点がございましたらご一報ください」
そういって警官隊は帰っていった。
「変身型の聖女……?」
首をかしげる勇輝。
クラリーチェが横でつぶやいた。
「そういうファッション系の魔法を得意とする娘も、まあ世の中にはいるけどね」
「ファッション系、そういうのもあるのか」
自分にしか分からないパロネタで返事をしたとたん、腹の虫がグウ~と鳴った。
「そうだ俺は腹が減っているんだ。そんなことは後だ後」
何はともあれ三人とも空腹である。
食堂へ急行した。





