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「我が名はオトマージ。魔界に住む悪魔だ。」
張り倒され床でもんどりうってからのセリフである。靴は脱がせて玄関に置かせた。我が家は土足厳禁。
偉そうにソファに座って足組んでるけど、余ってたピンクのふわふわスリッパを履かせた足で台無しだ。
悪魔というそいつを改めて観察する。
やはり黒い。肌は白め、目は赤いが他は真っ黒。
「悪魔、ねえ…。」
疑っているわけではない。
召喚例は少ないがいないこともないからだ。
なぜ少ないかというと悪魔は利己的な者が多いため扱いにくく、わざわざ呼びだすのは面倒だからである。別に大昔のように魔女だから、悪魔使いだから悪いとかなんだなんてことはない。
「やっぱり私が呼び出しちゃった…んだよね。」
ばっちり契約紋も右手の甲に浮かんでいる。
バラの蔓のような刺々しい線で描かれた黒く複雑な模様。毒々しくてすごく嫌だ。
これは契約の証で、なんとなく相手の位置がわかったりするだけなのと、まあ大事なのは対等だという証なのでお互い命を脅かすことはできなくなる。らしい。
召喚なんて縁がなかったため一般的なことしか知らない。もしかしたら他に出来ることがあるのかも知れないが。
「お前以外に誰がいるのだ。供物も用意してあるだろう。」
「私の夜食だよ。」
「酒と肉。」
「ビールと半額の刺身で呼び出される悪魔とか安いな…。」
「そして魔導書に垂らされた血。」
「溢したのはうどんのツユなんだけどどこに血の要素が!?」
悪魔はテーブルをみて、食べかけのうどんを一瞥した。こいつ、目つきめちゃくちゃ悪いな。
「まあ…液体という要素はあっている。」
「むしろ液体しかあってないわ。」
こんどはパラパラと古本…魔導書らしいそれをめくって眉をしかめる。やめろ、悪人面が増すぞ。
「なんだこれは…擦り切れて欠如しているな。」
「つまり?」
「魔導書がバグってたせいでうどんのつゆで我は呼び出された。」
「魔導書ってバグるの…。」
「なってしまったのだから仕方ない。まあ我を呼び出せたことを幸運と思うがいい。」
「いや…帰ってほしいんだけど…。」
「なに!?」
カッ、と目を見開いた悪魔は立ち上がりこちらを見下ろした。
「何故だ!」
「いや、必要ないし…。」
そうだ。全く必要ない。
毎日仕事で大変なのだ。悪魔に付き合ってなどいられない。
どうせならふわふわな召喚獣がいい。それなら契約してみたいと思ってたのだ。かわいいし、癒される。
「断る。」
かわいくないし、癒されないな。