97話 不滅の刃
誤字報告感謝です!(*´▽`*)
翌日の早朝、俺はジャックさんの住まう超高層マンションの前でジャックさんを待つ。
昨日は予めジャックさんが予約しておいてくれたホテルに一泊した。
勿論そのホテルは他と一線を画す場所で、緊張して逆にあまりゆっくりできなかった気がする。
まあ、今日はわざわざ俺が動く必要もないだろうから寝不足でも構わない。
それよりもはやく麗しいお嬢様方を救わねばと息巻いていると、目端にマンションの自動ドアが開くのが見える。
「ふぁ~ 早いねえ少ね・・・」
欠伸をしながらドアから出てきたジャックさんは俺の姿を見ると言葉を詰まらせる。
「・・・今日は仮装パーティーでもあるのかい?」
「何言ってるんですか、これは今日の仕事着ですよ」
まあ、困惑するのも分かる。
何せ俺は今、頭にアヒルの着ぐるみを被っているのだから。
おっと、勘違いしないでいただきたい。これには至極真っ当な理由がちゃんとあるのだ。
「絶対者が二人いるとばれれば、相手が引きこもってしまう可能性もあるじゃないですか。これはその対策です」
「一理ある・・・のかな? まあいいや、何はともあれ早く行こうか。最悪全滅しているかもしれないけどね」
「滅多な事を言わないで下さい。相手を釣るつもりなら必ず何人かは生きてますよ、それが全員であってほしいですが」
「確かにそうだね。じゃあ今から走って現場に向かうから後ろを付いてきてくれ。こちらの方が車より早いからね」
「了解です」
そう言うや否や、ジャックさんは膝を曲げると空高く飛び上がり、家の屋根に飛び乗る。
俺も能力を発動し、ジャックさんの後に続く。
アヒルの被り物を着ている人間が屋根の上を走っているのを見られたら、色々と誤解をされてしまうのでは、と少々不安に思うが、そこは後でなんとかしてもらおう。
特に何もすることが無いので、屋根の上を走りながら、ジャックさんに質問を投げかける。
「そう言えば、昨日調べものがあると言ってましたが、なにか見つかりました?」
「ああ、見つかったよ。あまり嬉しくない情報だが聞くかい?」
「・・・聞いた方がいいなら聞きますが」
どうやらあまり望ましくない結果のようだ。
聞きたくはないが、必要であるならば聞いた方がいいだろう。戦闘における情報は出来るだけあった方が楽だからな。
「ならば言った方がいいだろうね。単刀直入に言おう、どうやら今回の件はテュポーンが関わっているようだ」
「・・・」
聞き間違いか?
今、世界に四体しかいないSSランク級の怪物の名を聞いたような気がするが・・・
いや、ありえないだろう。
テュポーンはアフリカ大陸の北部で今も居座り続けているはずだ。ここはイギリスだぞ? どれだけ距離が離れていると思ってる。関与できるはずがない。
「まあ、疑う気持ちも分からなくもないよ。僕も信じられないからね・・・ しかし、消滅した女学園の周辺に僅かだが確実にテュポーンの力の残滓が見つかった。ありえないと考えるよりはありえると考えた方が幾らか覚悟が決まるんじゃないかな」
「・・・まじっすか。俺、戦うつもり全くなかったんですけど」
「それは安心してくれていいよ。先程確認したが、テュポーン本体は今もアフリカの北部に居座っているようだからね。本体でなければ僕の敵ではないさ。少年は震えているだろう被害者達を守ってくれていればいいよ」
「・・・」
堂々と言い切り、口の端を吊り上げる【剣聖】。
しまった・・・不覚にもかっこいいと思ってしまったじゃないか!
なるほど俺とジャックさんの違いは安心感だろうか? つまりは俺も他者が安心を抱けるほど器の大きい人間になれば女性のハートをゲッツ出来る訳だな。
「とは言え、遂にSSが動き出したな。今までは奴等はたいして動かず、奴等よりも他の怪物の方が日常的に被害を出していたため後回しにしていたが・・・近々ぶつかる事になるだろうね」
その決戦は俺無しでやって頂いてもよろしいでしょうか。
八人もいるんだから俺いらないでしょ。わざわざ九位が出張らなくても変わらないはずだ。
・・・このままでは俺の胃に穴が空いてしまう。
話題を変えよう。
「そ、そろそろ着くんじゃないですか? 結構走ってますけど」
「ああ、もう見えてきたね。見えるかい、前方に大きなクレーターがあるだろう。あの一帯全てが消滅したらしい」
確かにジャックさんの言うように前方の一帯が丸々消滅している場所が少しずつ見えてくる。
(範囲が広いな。俺が考えていた二倍はあるぞ・・・)
そのまま現場に到着すると、屋根から勢いよく着地する。
「着いたね。異界に吸い込まれるか分からないけれど、とりあえず敷地に入ろうか」
「分かりました」
自ら別次元に飛び込もうとする日がこようとは思っていなかった。
記憶にある迷宮にいた木の怪物が空間に引きずり込む奴だったが、あのレベルが襲い掛かっているのだとすれば生存者は、必要数以外は殺されているだろう。
「・・・なにも感じませんね。ジャックさんはなにか見つけました?」
「いや、僕も同じだ」
仕方ない。
あちらからこないのであれば。
「こじ開けますか」
「そちらの方が早そうだね」
呟きと同時に、お互いの闘気と剣気が爆発的に膨れ上がる。
「来てくれ、不滅の刃」
それは聖剣。
物語の中では、シャルル王がシャルルマーニュの聖騎士ローランに授けられたとされる剣とされている。
一メートル程の長さを誇る刃から放たれる威光は相対する相手を畏怖させ、逆に後ろに立つ民の心を奮い立たせる希望となる。
ここに、不滅の剣が蘇った。
「少年は休んでいてもいいんだよ」
「まあまあ、これくらいは手伝わせてくださいよ、後で楽させてもらいますから。それよりも怪物が創り出している異空間はこの場所から動いていないってことでいいんですよね?」
「ああ、空間に不自然な澱みがあるから間違いないだろう」
「了解です。じゃあ問題ないですね」
俺は右腕を引き絞って構えを作り、ジャックさんは不滅の刃を両手で握り上段に構える。狙いは正面の空間。
ジャックさんの呼吸に合わせる。
彼が柄を強く握ると同時に、俺は左足を前面に踏み出す。
「切り裂け、不滅の刃!」
「絶拳」
一寸の狂いもなく、閃光の刃と破壊の拳が同じ空間に叩きつけられる。
衝撃が辺りの砂を吹き飛ばし、上空に浮かぶ雲が飛散する。
そして、ピシッ!という音を立てて、空間に亀裂が入った。
「お? いけましたね」
「ああ、しかしどうやら復元しているようだ、早く中に入ろう」
「ほい」
警戒しながら亀裂の中へと足を踏み入れる。
そして目に映ったのは、コンクリートの地面と周囲を囲う柵。
「屋上、ですかね」
「そのようだね」
ただ屋上から見る光景は日常のものとは違い、青ではなく黒い空が広がっていた。
そして下に目を移すと、辺り一面に広がる無数の骨の怪物と戦っている女学園の生徒と教師らしき姿があった。
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