72話 獅子奮迅
多くの感想感謝です(*´▽`*)
ちょいと暇が無く返信出来てないですが、全部目を通してやる気を頂いております!
戦闘開始から既に三分。
この時点でレオンさんの力は俺と同等かそれ以上。
拳をいなし、利用する事で何とか均衡は保てているが決め手に欠ける。
“絶拳”を放つ隙を作ろうとするが、猛攻が激しい為どうにも隙を作り出せない。
「らぁッ!」
相手の呼吸に合わせる。
高速で迫るレオンさんが間合いに入った瞬間に床を踏み抜き、その衝撃で動きを止める。
「ちっ!」
振りあがった状態の右腕を掴むとこちらに引きつけながら腕を捻る。結果、レオンさんは俺に背を向ける形で地に伏すことになる。合気道の正面打ち一教と呼ばれる技だ。これで相手を完全に抑え込める・・・はずなのだが。
レオンさんの腕を捻り上げながら引き付ける。が、流れに逆らわずレオンさんはそのまま体ごと前方に回転足が宙に浮くと、そのまま俺の顔目掛けて蹴りを炸裂させる。
俺は掴んでいた腕を離し防御する。
(上手過ぎんだろッ!)
これだ、この超反応と圧倒的な戦闘技術が技を封殺してしまう。
空手、柔道、ムエタイ、太極拳、そして合気道、戦闘の中で既に百以上の技を出しているがその全てが上手く捌かれ、逆に奇天烈な攻撃が俺に降りかかっている。
「技は使わない方が良さそうだな・・・」
こんなタイプと闘うのは初めてだ。
しかも時間経過で進化する? ふざけんなよマジで。
俺は右足を曲げ、鶴のように構える。
「ほう? 次は何を見せてくれるんだ?」
武術を攻撃に使うのは止めだ、防御だけに絞る。
「上昇」
位階を限界ギリギリまで上昇させる。
そして蹴りを一発。レオンさんとの距離は五メートルはあるが関係ない。
パンッ!
と、空気が破裂する音と共にレオンさんの背後の壁に穴が空く。
「少しずれたか。調整が必要だな」
レオンさんは僅かに目を見開いた後、左の頬を触る。
温かみを帯びた液体、触れた手を確認しそれが血であることを理解する。
「へえ、まだ楽しめそうだ」
「当然です」
半身になって構えるレオンさん。
受けに回っては駄目だ。こちらからも攻めないと倒せない。
一息に距離を詰め、右足を構える。
「ふッ!」
俺の脚とレオンさんの拳が衝突する。
即座に足を引き、更に連撃。大砲の如く空気を重く震撼させ、互いにぶつかり合う。
十合目、両手で攻撃を繰り出すレオンさんの腕から血が噴き出す。
脚力は腕力の三倍はあると言われている。
いくら化け物じみた耐久性があるとしても流石にこの威力は耐えられないだろう。
「やるなあ!」
笑いながら俺から距離を離そうとバックステップを取る。
あらかじめ予想していた動作だ、俺は更に距離を縮める。
「見えてるぞ」
【先見】によりあらかじめ俺の動作を見たレオンさんの拳が俺に降りかかる。
が、これはブラフだ。俺は攻撃することなくレオンさんの背後に回る。頭部の右側面を狙い横薙ぎに振るう右足。
「それもな」
後方を確認することなく上体を下げる事で回避される。
(まあ、これもブラフだが)
ここまでが三秒。
右足を振りかぶった状態から、体を強引に斜め左に回転させることで空中で左足を上げた踵落としの体勢になる。
「ッ?!」
咄嗟に体を左に逃がすことでレオンさんは回避を試みるが、こちらの方が一歩速い。振り下ろした踵がレオンさんの右肩口に直撃する。足に伝わる骨を砕く感触。
(よしっ! これで右は潰した)
「いってぇなあ!」
苦悶の表情も一瞬、振り返りざまに放たれる左の剛腕を空手の回し受けで流し、続けざまに回し蹴りを繰り出す。まともに蹴りを受けたレオンさんは地面に揉まれながら回転し、壁に衝突、ダメージが残っているのか立てずにいる。
「このまま畳み掛け・・・!」
疾走し距離を詰めるが、あと一歩で間合いに入る場所で俺は後方に飛びのく。
(何だ・・この悪寒は・・・?)
あれ以上踏み込めば、確実にやられていた。
根拠はない。しかし、体中の細胞が訴える。
目の前の人間から漂う『死』の予感を。
倒れていたレオンさんがゆっくりと立ち上がる。
「楽しかったぜ、隼人。ここまで派手にやれたのは久しぶりだ。だが、まあ、残念なことに・・・五分が経過しちまった」
直後、レオンさんの体に変化が訪れる。
全身から黄金色の毛が伸び始め、歯が鋭く伸び、瞳は金色に変色し俺を睥睨する。骨の骨格までもが変化しているのか百八十センチ程度であった身長が二メートルを超え、俺を優に見下ろす高さに成長した。
黄金色の毛を靡かせ、猛々しく立つその姿はまさしく、
「・・・獅子」
俺はその姿を見てデータベース上に載っていた情報を思い出す。
【獅子奮迅】、レオンさんが一度しか使用していない能力。その姿を見た人達は総じてこう言った“獅子の王”であったと。
「行くぞ」
上体を倒し、突進の構えを取る獅子。
(まずは能力を確認してそれから――)
・・・
「は?」
俺はいつの間にか空を見ていた。
風を感じる。外に出されたのか?
数秒後、地面に体が衝突し、衝撃が体を襲う。
どうやら空中に滞空していたようだ。
「ぁ、がっ・・・げほっげほっ!」
口から吐きだされる血塊。
内臓が負傷したようだ。骨も所々折れ、左腕は逆方向に曲がっている。
(全く見えなかった・・・いつ攻撃されたんだ)
「ま、ずい・・・呼吸が・・・」
視界がぶれる。
何とか立ち上がるが、レオンさんの姿が見当たらない。
「後ろだ」
「ッ?! 崩星!」
周辺諸共吹き飛ばす闘気を拡散させる。
場所は把握した。これで一度態勢を整えて・・・
「双牙」
左右で輝く漆黒のガントレットの爪が振るわれる。
赤黒いオーラが尾を引きながら闘気を削り取り、俺の技が破られる。Sランク級の怪物すら消し飛ばす理不尽が更なる理不尽によって呑まれたのだ。
(これが・・・絶対者か・・・)
右腕も完全に回復しているようで、先程の頑張りは何だったのかと文句を言いたくなる。
思考の隙に腹に撃ち込まれる右足。
「がはッ!」
直撃をくらい、受け身も取れずに木々を薙ぎ倒しながら吹き飛ばされる。
「はあ・・・はあ・・・」
満身創痍。
最早、まともに戦えるかも分からない。
最後の気力を振り絞ればあと一撃は放てるかどうかだ。
霞む視界に悠然と歩く獅子の姿が映る。
俺の前に立つと、右腕を振り上げる。
震える足を無理に立たせ、対峙するが正直次の攻撃を受けきれる自信はない。
「楽しかったぜ、隼人」
そして振るわれる一撃。
空間を捻じりながら、可視化出来るほどに闘気を収束しているそれは、防御する事など不可能であると本能が理解する。
(ヤバい、死・・・)
それは生存本能と呼ばれるものだろう。
満身創痍の体。死の手前この場で己を生き残らせる最終手段。
隼人は無意識に能力を使い、限界を超えて存在を上昇させた。
レオンの一撃が隼人に直撃する。
衝撃で砂塵が巻き上がり、木々が薙ぎ払われる。
誰もが終了したと確信する中、レオンだけはその目を見開き体を硬直させる。
そして困惑を含んだ声で尋ねた。
「お前は・・・誰だ?」
砂塵の中から一つのシルエットが浮かび上がる。
二本足で尚も立ち続ける少年の姿が。
完全に砂塵が晴れると、レオンの渾身の一撃を右手一本で完全に止めている隼人の姿がスクリーンに映される。
隼人はゆっくりと目を開く。
そして何故かその右目は金色に変色していた。
口の端を吊り上げると、こう発した。
「成程、これは隼人が手こずる訳だ・・・なあ、人間?」
明日辺り活動報告の方にレオンの能力数値と怪物のランクごとの目安数値を載せます。
これで比較が出来るはず(*´▽`*)