71話 異常な少年
作者、やれば出来るじゃん・・・
ちょい短いかもですが、今日はこの辺で(*´▽`*)
いよいよお兄ちゃんの試合だ。
他の観客の人達は試合そっちのけで喋り合っている。見る価値すらないと思っているのだろう。
それでも構わない。どうせ直ぐにお兄ちゃんの戦いに魅了される事になるだろうから。
「ああ~ ドキドキする」
久しぶりにお兄ちゃんの本気の戦いが見てみたい。
命を掛ける訳でもなく、守るものがある訳でもない純粋な闘争。
この戦いにはお兄ちゃんの枷となるものが何一つとしてないのだ。
最初はいつものように全力は出せないかもしれないが、徐々に力を引き出すはずだろう。何せ相手は絶対者。全力で挑まずして勝てる程甘い存在ではない。
「お母さんはどっちが勝つと思う」
隣でレモンティーを飲んでいるお母さんに尋ねる。
「・・・六割の確率で隼人が負けるでしょうね」
「えっ?!」
予想もしなかった回答に驚く。てっきり“隼人が勝つに決まっているわ”と言うと思っていた。
「あの子はまだ力を使いこなせていないようだから。勝てる可能性があるとすれば、戦闘の間に劇的に成長するか、後は・・・」
『続いて準決勝二試合目を開始します! たった一人で四十三名の能力者を僅か数分で倒した絶対者、アーベル・レオン! 対するは日本支部所属、柳 隼人! 僅か十六という歳で準決勝まで上り詰めた今大会最年少選手です!』
お母さんの言葉を遮るようにナレーターの声が会場に響く。
「・・・まあ、私達は隼人が勝つことを祈って見守っていましょ」
「う、うん・・・」
気になる・・気になるが、今はお兄ちゃんの試合を全力で応援しよう!
お兄ちゃんがフィールドに移動し、カウントがゼロに近づいていく。
「お兄ちゃん頑張ってー!!」
「柳君頑張るっす!!」
私が大声で応援するのと後ろの鈴奈さんの声とが被る。後ろを振り返るとお兄ちゃんの名前が書かれた旗を振り回す鈴奈さんの姿があった。
(お兄ちゃん愛されてるな~)
あの死んだ魚の目をしたお兄ちゃんが、と感慨深くなり涙が零れる。
目があった鈴奈さんと互いに顔を合わせ笑い合うとすぐにモニターに顔を移す。
そして遂にカウントが、ゼロになった。
その速さを認識できたのは一体何人だろうか、残像を残す勢いで移動したお兄ちゃんは一息で相手との距離を詰め一秒程の溜めの後、眼前の相手を吹き飛ばした。
どこぞの有象無象ではなく、理外に存在する人類の最強格を吹き飛ばしたのだ。
会場中の音が消える。
理解出来ぬ事態に直面した時、人間は意図せず硬直してしまうものだ。
誰もが動きを止め、モニターに映る拳を振りかぶった人物を確認し何度も瞬きする。
その姿は絶対者ではない。
歴戦の猛者を思わせるものではない。
年端も行かぬ少年で、強大な力を持っているようには見えない。
しかし、その瞳が、漏れ出る覇気が、前に進む意思が、会場中の観客を一瞬で呑み込んだ。
◇ナタリー視点
「「「・・・は?」」」
ジャックの楽しそうな姿に興味を惹かれ、同じ妻であるアリサ、ナノと一緒に暇つぶしに来た大会だった。
予選は予想通りジャックとレオンさんの圧勝であった。
二人が終わった後、残りの二つのフィールドも確認してみたが、何処にも二人のような理不尽な存在はおらず、強者が時間をかけながらも他の選手達を薙ぎ払っていく試合だった。
それはそうだ。そうそうジャックみたいな存在がいるはずもない。
ワクワクしているジャックには悪いけど、今回の大会はレオンさんとの試合以外で彼を満足させる事は出来ないだろう・・・と数分前までは思っていた。
そして現在。
『な、な、殴り飛ばしたー!! 一瞬! 刹那の間の攻防! 柳選手がレオン選手との距離を詰め、右腕で殴り飛ばしたー! 十六歳の少年が絶対者を・・・信じられません!』
「あり、えない」
口から漏れ出るのは否定の言葉だ。
私は絶対者の強さを、その理不尽をよく知っている。
攻撃を当てるどころか間合いに入る事すら常人には不可能に近い。
それをあの少年は、変色した白髪を風に靡かせ追撃に疾走する少年は、いとも容易く、無遠慮にその領域に踏み込み、それどころかあの理不尽相手に通用する攻撃を放ったのだ。
私は夢を見ているのだろうか。
頬を叩いてもらおうとアリサとナノを見やる。
「う、うっそ~」
「あの少年・・・異常」
が、どうやら私の夢ではなかったらしい。
アリサは首を傾けながら苦笑し、いつもは無表情な蒼髪の女性――ナノは目を見開き驚愕を露わにしている。
「一体あの子は・・・えっ?」
一体あの少年は何なのかとVIP席でこの試合を眺めているだろうジャックに視線を向ける。そして信じられないものを目撃した。
――笑っていた。
いつもは微笑するだけで内の気持ちを全く出さない彼が、口の端を吊り上げ獰猛に笑っていたのだ。
彼の口が動く。
この場所では聞き取れないが、その動きで何を言っているかは分かった。
――そうだ、君を待っていたんだ。だから僕とやる前に倒されないでくれよ?
◇ライル視点
どう、なってやがる。
あの餓鬼は戦闘力百の雑魚だったはずだ。
それが俺を倒し、絶対者とやり合っているだと? それも互角以上に。
『ラッシュラッシュラッシュ! 柳選手の拳が止まりません! まさに流星群! これにはレオン選手もたまらないか?!』
「マナ! あの餓鬼が戦闘力百なわけねえだろ! 一体どうなってんだ?!」
相棒に叫びかけるが当の本人は何かあり得べからずものを見ているのか瞳を揺らし体を僅かに震わせている。
「ど、どうした!」
その反応が余りにも真に迫っていたので敵でもいるのかと辺りを見回すが何処にもそのような存在は見当たらない。
「あ、ああ・・・」
「どうしたマナ! 敵がいるのか!」
マナは指を震わせながらある一点を指す。
それはあの餓鬼が戦っているモニターだ。
「どんどん・・・上がって・・・あんなの人間じゃ」
「いや、レオンさんの数値が上昇していくのは誰でも知ってるだろ? 一体それが・・・」
「違うの! 上がってるのは・・・あの少年なの!」
数値が上昇していく能力者。
観測されている中ではレオンさんだけだという話だったが、どうやら二人目がいたようだ。
俺を軽く掃った実力。
不意にその数値がどれほどのものなのか、知りたくなった。
「・・・一体、いくつだ」
気付いた時には口からその質問が出ていた。
マナは呼吸を落ち着けながらゆっくりと口を開く。
「今・・・六十万を超えたわ」
戦闘力と能力数値はほぼイコールです。
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