70話 破壊の舞踏
遂に始まりました!
「ちッ!」
攻撃が浅い事に思わず舌打ちが漏れる。
俺の拳が当たる瞬間に合わせ地面から足を離すことで後方に威力を流されたのだ。
それでも“星穿”であれば体に風穴を開ける事は容易であるはずだが感触はイマイチだ。やはり四つ目の能力があるとみて行動するべきだ。
「邪魔だ」
レオンさんが通過し破壊した城壁を拳で破壊しながら突き進む。
刻一刻とその力を増すレオンさんを前に余裕など存在しない。
速攻で片を付ける!
「見つけた!」
砂塵が巻き上がる場所に人影が浮かび上がる。
俺は脚に闘気を収束させ地を踏み込むと、弾丸の如き勢いで人影の頭上に飛び上がる。
「流星群」
目視する事も叶わぬ速度で振り下ろされる拳、拳、拳。
(倒れろ、倒れろ、倒れろ!)
今も尚速度を増しながら破壊の限りを尽くす暴風が吹き荒れる中、その声はどうしてかよく通った。
――やっぱ最高だぜお前。
拳の嵐を掻い潜り、漆黒のガントレットが俺の腹部に突き刺さる。
「ぐっ!」
後方に飛ばされるが、空中で体を回転させることで体勢を整える。
そして地面に着地するとともに眼前の敵を見据える。
砂塵が晴れ、その姿が明らかとなる。
漆黒のガントレットを構え、好戦的な笑みを浮かべる戦闘狂。
口の端からは血が滲み、服はボロボロになっている。
絶対者に傷を負わせたのだ。
歴史的快挙と言えるだろう。
しかし、俺としてはその程度の負傷しかしていない目の前の怪物に思わず苦笑してしまう。
「堅すぎるだろ・・・ッ!」
位階が上昇している状態で本気で振るった攻撃であった。
確殺の意思で繰り出したそれがまさか擦り傷程度の結果しか残せないとは・・・本当に笑えない冗談だ。
「行くぜ・・・?」
レオンさんが俺との距離を詰め、顔目掛け右のストレートを放つ。
単純な一撃だが、秘められた威力は凄まじく、空気を鈍く唸らせる。
俺はその一撃を正面から全く防御もせずに顔で受ける。
(やっぱりこうなったか・・・)
が、流れるように威力を利用し左足を軸に回転すると左手の裏拳をレオンさんに見舞う。
「ッ?!」
レオンさんは意識外の攻撃に目を見開くも瞬時に左腕を盾にして防御する。ただ、これは俺の攻撃にレオンさん自身の火力を足したものだ。当然左腕一本で防げるものではない。
左腕の骨が軋み、地面と平行に横にレオンさんの体が流れる。数度体を回転させることで衝撃を殺し着地するが、俺を見つめるレオンさんの瞳には明らかに警戒の色が見えた。
「やはり・・・あの程度では貴方を倒せませんか」
ならば・・・
久しぶりに武術を使わせてもらおう。
俺は今までの戦闘に武術は然程使っていない。
戦神の力全てを引き出すには武術は枷にしかならないからだ。
しかし、未だ力を制御しきれない俺には武術以外の方法が思いつかない。これはもし勝ったとしても地獄の特訓コースかもな・・・
(今頃あの方は武術に頼らずとも力でねじ伏せろと癇癪を起してそうだが今回だけは許して下さいよ)
「ふ~」
前に出ている左足の膝の力を抜く。当然支えを失った体は前方に倒れるように沈むが、その前に倒れる力を利用し地に足を滑らせながら移動し、右足は引き付けた状態にする。
今までの力での歩法ではない。
地面は爆ぜず、轟音が響くわけでもない。
ただただ静かに。
しかし、俺の姿は既にレオンさんを攻撃可能な間合いに入っていた。
レオンさんは困惑に一瞬眉を寄せる。
この歩法の強みは“動き出しが読めない上に視認していても気付かれにくい”点と“長距離を一瞬にして詰められる”点だ。
普通の移動であれば地面を蹴る事で移動を可能とするが、この歩法は重心を利用する事で前方への推力とし移動する。その際体のぶれが全くない為相手に気付かれにくいのだ。
俗に言う“縮地”なんかが近いかもしれない。
「しッ!」
一秒。
軸足である左足を四十五度傾け右足を振り上げる。
「甘ぇよ!」
二秒。
レオンさんはそれを体を左にずらすことで回避する。一センチもないギリギリの回避。【先見】を使ったことは明らか。計算通りの展開だ。
そして三秒。
振り上げた足を急停止させ、レオンさんが回避した先に踵を振り下ろす。【先見】で見える未来は三秒。連続で使用できないと仮定すれば、三秒後の攻撃であれば十分通用するはず。
「はっ、流石!」
しかし、やはり相手は絶対者。
人間ではありえない超反応で次の行動へと移行する。
その場で宙返りし、踵落としを回避、体が反転した瞬間に空中で体を開くことで回転の力を落としそのまま体を抱え込むように前方に回転する。
(訳わからん動きばっかだなっ?!)
頭上から振り落とされる踵落としを両腕で防御。
重い一撃だがまだ耐える事は出来る。
試合開始から一分弱といったところだろうか。今はまだ俺の方が一歩力は上のようだ。
宙に浮かぶレオンさんの右足を右手で掴むと城の中へと吹き飛ばす。
まだ動きが制限される空間の方が戦いやすい。
レオンさんの後を追い、俺も場内に入り込む。
ここは玉座なのだろうか。王が座る様な素晴らしい意匠が施された椅子が室内の最も高い位置に配置されている。下にはレッドカーペット、ガラス張りの窓からは幻想的な世界が広がっている。こんな時でなかったらついついみとれてしまう程だ。
空間の中央で向き合う、【破壊王】と【超新星】。
「面白いじゃねえか、王の見世物ってか? ま、俺も王だがな」
俺は神ですが。
「見世物としては豪華過ぎますけどね」
闘気を体に収束させ呼吸を整える。
ここからは技のぶつけ合いだ、一瞬の油断も出来ない。見せた武術はまだ歩法のみ、変幻自在の武術はまだ千とある。
そして力を増し続けるレオンさんが相手ならば五分を越えたら俺の敗北だと考えた方がいいだろう。
難易度は規格外を越えた惨禍レベルだが、倒せない事はないはずだ。何せレオンさんは七位、その上に六人もいるのだから。
「じゃあ、始めますか」
「いつでもいいぜ」
その言葉を皮切りに互いに距離を詰める。
レオンさんがいた場所は床が罅割れ、俺は音も無く縮地で距離を詰める。
破壊、力、圧倒的なまでの理不尽を体現した舞踏が始まった。
先に城が壊れそう・・・
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モチベ次第で今日の夜にもう一話上げられるかも・・・? 会場視点で。