66話 存在しない希望
寝てました・・・
「森か・・・?」
見渡す限り一面の木々。対校戦の時と似た光景に少し安堵する。
「運が良かったな。どうやら無駄にはならないみたいだ」
バッグを地面に置くと中からスナイパーライフルとギリースーツを取り出す。
迷彩服とかも申請していたが、森という事ならギリーが一番だ。
素早く着替え肩にスナイパーライフルを担ぐと見渡しの良いポイントを探しに移動する。
「よしっ、いもるぞ」
別に多くの能力者と闘う必要などない。
最後の一人になればいいのだ。
◇第三者視点
場所は変わって草原ステージ。
そこにはレオンが転移していた。
「いいねえ。全員でかかってこい!」
草原。周囲に身を隠すものは一つもなく、転移した能力者は全員がお互いの姿が見える状態になっていた。
つまり逃げ場がない。
そんな状況だというのに、同じフィールドに絶対者が居るという事実に選手達は一様に顔を青くする。
その後、選手達は瞬時にアイコンタクトを取り合うと互いに頷き合い、レオンと闘う構えを取る。絶対者をよそに自分達が戦闘する余裕はないと全員が判断したのだ。
絶対者VS能力者42人。
フィールド上には聞こえないが会場内ではこの光景に歓声が鳴りやまない。
実力者揃いの出場者と理屈の通用しない絶対者。
今まで絶対者がイベントに出場する事がなく、その隔絶した力を知らない為か観客達は流石の絶対者も敗北するのではないかと興奮している。
もし観客席に隼人が居れば、戯言を宣う観客を嘲笑し席を立って売店にでも行っていただろう。
なにせ、結果が分かり切っている試合を見ても面白くも何ともないのだから。
レオンに相対する能力者達が一斉に能力を発動する。
巨石や水の槍、竜巻のような火炎が迫る中、レオンは焦る事なく獰猛な笑みでそれらを迎える。
「獅子宮!」
叫びに呼応し、レオンの左右の腕に漆黒のガントレットが出現する。
漆黒のガントレットに刻まれた血管に似た赤い模様は戦いに興奮するように淡く輝く。
レオンは数度手を開閉した後、左のガントレットで虚空を撫でた。
「「「なッ?!」」」
たったそれだけでレオンに迫る無数の攻撃は掻き消える。
レオンに攻撃を当てるどころか一歩も動かせなかった事に相対する能力者達は驚愕を隠せないが、彼等も実戦を経験している猛者だ。
焦る気持ちを抑え、瞬時に次の攻撃に移行する。
長剣を持つ選手と槌を持つ選手がレオンを左右から挟み一撃を放つ。
長剣は僅かにだが超高速で振動しており通常の刃の切断力とは比較にならず、槌も建物を粉々に粉砕する力を持っていた。
だが、通常と比較にならない威力を誇っていようが理不尽の前では意味を成さない。
「悪くねえ。もう数秒早く行動していれば避けぐらいはしたかもな」
レオンは一歩も動かず攻撃を受ける。
ガントレットで防御している訳でも特別な能力を使っている訳でもない。
しかし、長剣と槌はレオンに届くあと一歩、皮膚一枚というところで完全に静止し、それ以上踏み込もうとしてもびくともしない。
原理は簡単、闘気を収束させ疑似的な鎧を生み出しているのだ。
ただし、その密度は異常の一言だ。その上、数秒と時間が経つにつれ更に密度が上がっていく光景を前に二人の能力者は唖然とし、体を一瞬硬直させる。
明らかな隙を見逃すはずもなく残像を残しながらレオンの両腕が左右の能力者の腹部を貫く。
当然、腹部を貫かれた二人は粒子となって消え、レオンは残りの能力者に視線を向ける。
「くっ! 出鱈目過ぎるだろっ?!」
「畳み掛けるしかない! 時間が経つ程不利になるぞ!」
「近接型で抑えて後衛は常に能力を放ち続けるんだ!」
彼等の行動に間違いはなかった。
確かに攻撃を放ち続ける必要があり、前衛が抑えるのが最善ではあったのだ。
ただ、
速過ぎた。
強過ぎた。
獰猛な獅子は対峙する能力者にとって希望を抱く余地すらなくただただ絶対的な存在であった。
後衛がいくら能力を放とうとレオンの速度の前では静止している状態と変わらず、前衛が抑えられる時間は能力者一人に付き精々が二、三秒程度であった。
戦闘開始からおよそ三分。
草原の中にはただ一人の破壊の王だけが佇む。
「準決勝に期待だな・・・」
◇
迷路ステージ
迷路上に作られた遺跡の中をジャックは歩く。
「よく出来てるなあ。遭遇した瞬間の対応が試されている訳だ」
何処から敵が現れるか分からない状況でありながらジャックは軽快に足を進める。ただ、そこに音は無く、全方向に意識を向け続けており僅かの慢心すら存在していない。
カコンッ
何処からともなく音が響く。
「しかも、罠まであるんだから精神的にもくるだろうね」
後方から地響きが鳴り、ジャック目掛けかなりの速度で何かが迫る。
「うわっ、ベタだなあ・・・」
立ち止まり、振り返ってその何かを確認する。
数秒後に現れたのは直径五メートルはある丸い岩だった。迷路の通路も丁度五メートル程の幅で回避する事は不可能。
ジャックは速度をあげながら迫る岩を見据えながら腰の長剣を抜刀する。
「ほいっ」
軽快な声と共に上段から長剣を一閃。
まだ十メートル程距離があるにもかかわらず剣の斬撃が飛翔し、威力を落とすことなく岩を両断する。
「う~ん、流石に一人一人出会いながら倒すのは面倒くさいな」
時間もかかるし、あまり楽しくないし・・・と少し眉を寄せるとジャックは長剣を持ち、迷路の壁に向かって構える。
「別にルール違反とかないよね?」
もっとルールを確認しておくべきだったかなと苦笑すると、一転して表情を消し、神経を集中させる。不可視の剣気がジャックから漏れ出し、空間の色が一段褪せ、カタカタと小石が震えだす。
長剣がその輝きを増幅していき、臨界点に達すると、上段に構え目を静かに開く。
「消えろ」
空間が悲鳴を上げ、裂け、極光が埋め尽くす。
剣聖の一撃の前に迷宮の壁は余りにも脆く、ジャックの眼前は扇状に破壊されつくされた迷宮の成れの果てが残された。
◇
闘技場ステージ
草原ステージや迷路ステージと違い、圧倒的存在がいないこのステージでは乱戦状態になっており、ある意味では最も大会らしい試合が繰り広げられていた。
その中でもレイピアを持つ選手が頭一つ抜けているようで、並み居る強者たちを上手くさばきながら一人ずつ倒している。
「ふッ!」
技量もさることながら、レイピアの軌道が自由自在に動き回る能力に対峙する能力者達は苦戦を強いられている。
まだ試合が始まって十分とたっていない。
既に二つのステージが終了している異常事態はさておき、観客と実況は残りの二ステージに目を移す。
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