57話 遅い後悔
遅くなりました。
「柳は大丈夫だろうか」
彼の力を信じているとはいえ、やはり一人で任務を任せるのは無理があったのではないかと今更ながらに思ってしまう。
「ま、今更だな」
既に賽は投げられた。
ただ彼の無事を祈るだけだ。
現在、俺はある施設に侵入している。
今回の任務で柳には表から、そして俺は裏から敵を潰していた。
漁れば漁る程敵が出るわ出るわ。かなりきつかったがそれも終わり、この施設が最後の敵だ。
「にしても暗いな」
廊下を歩いていても電灯の一つも付いていない。
不気味なほどに薄暗く、そして寒い。
「この感覚はいつぞやの迷宮に似ているな」
もしかしてあの迷宮もこの施設の主の仕業か?
増々問い詰めなければいけない事が増えていくな。
侵入して十分が過ぎた頃。
警戒していたが特に何かトラップがある訳でもなく施設に最奥に到着する。
「・・・ざる過ぎる。罠か?」
警戒を高めながらも最奥にそびえ立つドアを障壁で破壊し中へ足を踏み入れる。
「おやおや、どなたか思えば特殊対策部隊の金剛じゃないか」
部屋を見回すと、至る所に不可思議な機械と怪物が収納された大きい試験管が目に入る。緑色の液体に浮いている数十もの怪物は見ているだけで気分が悪くなる。
そして部屋の中央、そこには丸眼鏡を掛けた白衣の男が気味の悪い笑みを浮かべながら俺を見ていた。
「まさか自分からのこのこ来てくれるとは、新しいモルモットが手に入って私は感激ですよ!」
モルモット・・・モルモットねえ。
それはそうと、ビンゴだったな。
「一体何処から高宮 瑠奈の情報が漏れたのか疑問だったが、これで決まりだな。なあ? 二年前まで高宮家の専属研究員だった西田 久哉研究員」
「ほう、私の事を知っていますか」
情報漏洩に関して高宮家を調べているうちに一つ気にかかったことがあったのだ。
二年前、高宮家では研究棟である事故が起きたというものだ。
その事故で西田 久哉は死亡し、既にこの世にはいないとされていた。
しかし・・・
「本当に疲れたよ。裏切り者を一から探すのがここまでしんどいとは思わなかった。だが、そのかいはあったようだ。知り合いの能力者に頼んであんたの死体を確認した結果、別人であることが分かった」
この事故での不可解な点はある機材が消失した事だ。
消失した装置は主に多重能力者の研究で使われるものだったのだ。
数年前の多重能力者の実験が失敗し、あらゆる機関が手を引いた後使われなくなった装置は当然倉庫で眠る事になる。
ただ、そんな中一人の研究員は狂った様に多重能力について研究し続けていたらしい。
それが西田 久哉だ。
そこで勘が働いた俺は知り合いに頼み西田の死体を調べた訳だ。
結果はその遺体は別人で、西田は今も生きている可能性があるという驚くべきものだった。
「ふふふ、高宮家は私にとって非常に窮屈な場所だったのですよ。ただ設備は非常に良かったので数年お世話になりましたが、限界が訪れまして」
西田は手を震えさせながら歓喜に満ちた表情で語りだす。
「ああ! あなたは人間の悲鳴を聞いたことがありますか? 絶望の表情で叫び続ける人間の何と滑稽な事か! 今では人であろうが何であろうが解剖し、隅々まで調べ尽くし、我が夢である最強の生命体を作る糧として自由にいじれるのですよ!」
「狂人が!」
人を何だと思ってやがる!
誰も貴様のおもちゃにされる為に生まれてきた訳じゃないんだぞ。
「あんたを捕まえ、情報を聞き出すつもりだったが気が変わった・・・ここで殺す」
会って理解した。こういう輩は生かしていても何の利にもならない。
事情を聴こうにものらりくらりと躱すのだろう。
「私を殺す? 本気で言っているのなら失笑を禁じえませんねぇ~」
気味の悪い笑みを浮かべ首を左右に振る西田。
やはり備えはあるという事か。
牙城か吉良坂、どちらか一方でも連れてくるべきだったか。
「如何に世界ランク十五位の化け物級の力を持つあなたでもこいつ等には決して敵う事はありえない。精々体の原型が残るように足掻いて下さい」
西田は手を大きく開くと高らかに叫ぶ。
「さあ、来なさい! アルファ! ベータ!」
(何が来る!)
俺は身構え、何時何処からでも敵に対処できるよう神経を尖らせる。
そして三秒、五秒・・・八秒の時が過ぎ。
「な、何故だ! どうして来ない! まさか転移出来なくなったのか?!」
西田が慌てたように騒ぎ出し、室内のモニターへと走り出す。
(イレギュラーか? それに切り札は転移しないと来れない場所にいるのか? まさか・・・)
「あんたが呼ぼうとした奴らはもしかして今高宮 瑠奈を誘拐しようと施設を襲っているのか?」
「そうだ! 今頃高宮家の連中は護衛共々皆殺しにされて――」
「ふふ・・・ははは!」
「な、なんだ・・・」
思わず笑ってしまった。
だってそうだろ?
あそこにはうちのエースがいるんだぞ。
つまりあんたが自信高らかに叫んだ奴らは既に・・・
「何が可笑しい!」
俺の笑いが気に入らないのか西田は顔を赤くしながら激昂し、高速でボードを操作する。
「ははは! 見ろ! これが貴様等の・・・は?」
モニターに映る景色を見て西田が声を失う。
そこに映るのは無残に惨殺された四体の怪物とただ一人戦場にて立つ柳の姿だった。周囲の建物は全て瓦礫の山に変貌し、地面は一部が焦土化している。一体何が起こればこんな有様になるのか・・・
「あ、ありえない。酒呑童子とぬらりひょん、それに私の最高傑作であるアルファとベータもいるんだぞ! 【確率変動】が破られる訳がない!」
西田は“認められない!”と“ありえない!”と唾を吐きながら叫び続け――ふと、画面に映る柳と目が合った。
「ッ?!」
声にならない悲鳴を上げた後、瞬きする間にモニターの画面が両断された。
「ひぃ?!」
西田は余りの恐怖に尻餅をつき、ズボンを濡らす。
歯をカタカタと鳴らし顔面蒼白な状態だ。
(本当に頼りになる奴だ。まさかあんな隠し玉まであるとは)
後で大変なことになりそうだが、可能な範囲で俺も手を貸そう。
その前に・・・
「それで、まだ手はあるのか?」
「あ・・・」
俺は冷酷な殺意を瞳に宿し、地面に尻餅をつく狂人に近づく。
襟を左手で掴むと宙に持ち上げる。
「や、やめ・・・!」
「お前に命乞いをする資格はない」
宙に浮く狂人を障壁で横から挟むと【分解】を付与する。
「ぎゃぁああああああ!!!!」
響き渡る絶叫。
体が徐々に分解されているのだ、その激痛は想像を絶するものだろう。
数十分もの間絶叫が続き、徐々に声が弱くなり体の部位が所々消えた哀れな状態で遂に西田は絶命した。
俺は建物から外に出ると、建物の頭上に巨大な障壁を展開し上から圧し潰す。
多重能力者に関する資料は全て破壊する。
「もう、あんな悲劇は起こさせない・・・」
彼女のような被害者を・・・出さない為に・・・彼女の死を無駄にしない為に。
本当は蒼の話を下に持ってくるつもりだったんですけど予想より長くなってしまった・・・
告知、次章は『絶対者編』です!(*´ω`*)
出てきますよ、残りの絶対者が。・・・全員じゃないですけど。





