51話 結界
ちょい短いかも。
現在俺達は井貝さんの砂に乗って目的地まで移動中だ。
「あ~ 涼しい」
護衛中に何くつろいでるんだと怒られそうだが何分心地よくて自然とだらけてしまう。
いや、ちゃんと護衛の方もやってるから心配はいらない。
最早、探知だけでやり過ごすつもりはない。能力を全力で使わなければ最悪護衛対象を守り切れないだけでなく俺自身が殺される可能性さえゼロではない。
正直言って俺は今回の護衛任務を楽な仕事だと考えていたが、Sランク級の怪物が普通に出てきたことを考えると、その難易度は今までの比ではないだろう。
一つ疑問なのだが、他の護衛任務もこんな感じなのだろうか?
だとしたら俺はもう今後絶対に護衛任務は受けない。こんなもん命がいくらあっても足りねえよ、怪我でもしたら特別手当とか出るんだろうな?あぁん?
それにしてもあの赤髪のおっさんにSランク級の相手を任せたけど大丈夫だろうか。
万が一にも負けるとは思わないが、うっかり逃がすような事はあるかもしれない。
先程までは後方から激しい戦闘音が響いていたが今は完全にその鳴りを潜め静寂が辺りを占めている。
おっさんがちゃんと倒している事を祈ろう。神は祈る者を救うのだ。いくら頑張っても、逆にフラグを建てても無駄なのだから(俺調べ)、祈るのが正解なのだろう。これでもダメだったら・・・いや、止めておこう、これもフラグになってしまうからな。やれやれだぜ。
「柏木さん周囲に敵はいませんか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「・・・おかしいですね。狙うなら今が絶好の機会だと思うのですが」
井貝さんの予想は当たっている。
実際、俺の感知にちょくちょくこちらを狙う存在は反応していた。
ただ、そういった存在は把握次第順次潰していったから報告する必要がなくなったのだ。
闘気を広げ対象を言葉通りに潰す。今頃は至る所でスプラッター状態の死体がある事だろう。
敵が引き金を引いた瞬間、もしくは能力を発動した瞬間に限定しているため無関係の人間は巻き込んでいないと思う。
「それにしてもあんな怪物にまで狙われているみたいですが移動したところで何か変わるのでしょうか」
あのレベルになると迎え撃って滅ぼさない限り安全な場所は無いと思うのだが。
「ええ、今目指している施設は防衛に特化した場所になっていまして、例えSランク級の怪物であろうと易々と突破出来るものではありません。そして私達が籠城している間に新たに援軍が来る手はずですので心配は無用という訳です」
「ははは! それなら安心だな!」
出たなスキンヘッド! そして息をするようにフラグを建てるなこの野郎!
ああ、これは突破されるな。間違いなく突破される。
今ので俺の死亡率が二十パーセントになったよ。
「はあ・・・」
・・・まあ、戦う事になる事は最初の段階で何となく感じてはいた。その事はまあいい。しかし、戦う事になるとしてもできれば人里から離れた場所がいいのだが流石に難しいか。
「目的地までおよそ十キロです。皆さん気を抜かないで下さい!」
あと少しだな。
さ~て、何処から来る? 右か左かそれとも目的地で待ち伏せしているか。
「ん?」
感知範囲に妙な物があるな。
あれは生物ではなく機械だ。不気味な瘴気に似たものを纏っているようで俺の闘気が弾かれた。
直接叩けばどうってことはないが、今この場から離れるわけにはいかない。せめて井貝さんの言う防御施設に届けてからでないと。
「あ~ サリーに会いたい」
癒しが足りない。
胃に穴が空いたら休暇を取れるだろうか。
・・・
「・・・着いた?」
目の前には巨大な白塗りの施設が建っている。
建物を囲うように防衛機械などが連立しており見た目はかなり物騒だ。
移動におよそ十分。
その間に襲撃が無かった訳ではないが、軽く捻り潰せる程度の雑魚しかいなかったので存在しないものとする。
これではあまりにもあっけない。
いや、何もない事に越したことはないのだが、ここまでずっと気を張っていたものだから少々拍子抜けしてしまった。
「とりあえず皆さん施設の中に入りましょう。ここまで来ればもう安全ですよ」
井貝さんに促されるままに、護衛の皆さんと二人の令嬢が施設へと足を進める。
「・・・」
ただその場に俺だけが足を止めその場に残る。
失礼かもしれないが俺は内部の人間も疑っている。
もしこのまま俺も施設に入る事で誰も身動きが取れなくなる状況になればこの任務は失敗だ。
「ん? 柏木さんどうしました?」
「すいません。少し気になる事があるので確認しに行ってもよろしいでしょうか?」
「気になる事ですか? ・・・分かりました。是非とも気を付けてくださいね」
「はい」
俺は施設を離れ移動を開始する。
目指すは移動の際に感じた不気味な機械だ。
「飛ぶか」
施設から少し離れた地点で地面を蹴って空高く飛び上がる。
そのまま建物の屋根に着地すると残像を残しながら屋根を伝って移動する。
「ママ~ 屋根の上に忍者がいるよ~」
「あらあら忍者さんもお昼から仕事してるのかしらね~」
・・・いや、なんか恥ずかしいな。
でも今は一般人にバレないように潜む余裕なんてないんだよ。
あと踏み込みが強すぎて所々屋根が剥がれてるけど本当にすみません!
後で金剛さんに掛け合ってみますので何卒お許しを・・・もしかして俺の給料から引かれるか?
それは移動し始めて五キロを超えた辺りで起こった。
「・・・流石にこれは予想外」
俺が目指していた機械がある場所から空を貫くように一本の光の柱が突き出す。
そしてそれだけに留まらず高宮姉妹の避難した施設を囲うように追加で三本の光が現れ、柱同士の間を透明な膜が繋ぐ。
「結界か」
その強度は分からないが、ここまで派手にやったんだ。簡単に破る事は出来ないだろう。井貝さんの言っていた援軍も期待できないかもしれない。
俺は急停止すると体を反転させ施設へと疾走する。
どうにか俺が行くまで耐えてくれ!





