5話 謎の存在
今日は短めです。
ある一室で一人の女性――双葉 春香は腕を組んで考え込むように眉間にしわをよせている。彼女は怪物出現時における救急隊員であり、一定以上の能力数値を持った実力者だ。
「どうしたんですか先輩? そんなに考え込んで」
彼女に話しかけてきた男性――加藤は、春香の後輩であり先日の怪物出現時の時も一緒に活動していた。
「いえ、誰がBランクの怪物を討伐したのかと思ってね・・・」
「ああ、それは俺も考えていました。あの辺りには既にDランク級がいて、実行部隊はそちらを対処していたので、謎なんですよね」
そうなのだ、あの近くでBランクを相手どれるような能力者は存在せず、本来であれば実行部隊は全滅するはずだった。
しかし、結果としてラヴァーナはその実行部隊と戦う前に何者かに倒されている。
実行部隊にも事情は聴いたが、自分たちはラヴァーナの咆哮は聞いていたが、Dランク級で手いっぱいであり何時こちらに来るのかと軽く絶望しながら戦っていたそうだ。そして、ラヴァーナの攻撃であろう極大の光線が空を貫いた後パッタリと音がなくなったらしい。
双葉はラヴァーナの死体を思い出す。
並みの攻撃では傷つくはずもないその強靭な肉体には、巨大な風穴が空けられていた。
それも、おそらく一撃のもとに穿たれたものであろうことはその断面を見れば明らかだ。
そんなことが可能な能力者が一体どれだけ存在するのか。
実行部隊などの各町を守るような者達では難しいだろう。
もっと上の、それこそ国を相手取るような巨大組織――特殊能力者部隊の何者かがいたのではないかと睨んでいる。
だが・・・
「加藤君はあの時現場にいた少年をどう思う?」
「少年? ああ、あの犬に抱き着いていた子ですね。う~ん、そうですね、どこも変なとこはなかったと思いますけど? まあ、しいて上げるとしたら数値『0』なんて見たことが無かったのでその部分には驚きましたね」
「まあ、それもそうだけどあの年の少年が怪物を見てなんであれだけ正気を保っていたのかが不思議なのよ」
「・・・確かに。自分は初めてあいつらを見たときは、それはもう震えあがって一歩も動くことが出来ませんでしたね」
異常であるとしか言いようがない。
凶悪な怪物を前にして、何故ああも自然体で居続け、理路整然とした口調で私たちの事情聴取に答えることが出来たのか。一般的であれば、もっと叫んでいたり、何も言わずショックで呆然としているのだ、ましてや絶対的弱者である数値『0』の無能力者であればなおさらである。
「もしかして先輩は彼があのBランク級を倒したと思ってるんですか?」
「そこまでは流石に思っていないわ。でも、彼が異常に見えるからか、無関係だとも思っていないわ」
「でも無能力者ですよ?」
「ええ、そうね。でもこの前のミノタウロスの事は覚えているかしら?」
「あの誰が倒したのか分からなかったやつですね。それが何か関係あるんですか?」
そう、ついこの前にもDランク級のミノタウロスが身元不明の何者かによって倒されていた。
それも、たった一撃で。
今回の事と結びつけるのは早計かもしれないが、あまりにも状況が似ている。
それに・・・
「そのミノタウロスが討伐された場所は彼の家の目と鼻の先なのよ」
「唯の偶然では?」
「まあ、そうかもしれないわね・・・」
しかし、それが勘違いではないのだとしたら・・・
「彼は厄介ごとに巻き込まれるかもしれないわね・・・」
まず数値『0』でありながら、圧倒的な戦力を誇る人間がいるなどと世界に知られたらと考えると、どれだけの混乱が巻き起こってしまうのかと考える。
彼を認めてしまえば今の世界のルール――数値の高い者が絶対であり、低い者は唯淘汰されるものだという概念が一気に崩れ去ってしまうのだから。
「はあ」
ため息を吐きつつも、春香はあの少年が大事に巻き込まれないことを静かに願った。
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