226話
うおぉお! 今日は後2作品も投稿するぞい(>_<)
驚きもそこそこに、対面する彼女はすぐに冷静な態度を取り直し、フードの内から爛々と光る瞳を俺に向ける。
いやぁ、どしたものか。
出てきたはいいものの、正直この人と戦って封殺するとか不可能だろ。超越神の権能が使える今はいいが、位階上昇させずの使用は制限が多い。せいぜい彼女の反射するフィルターを欺きその能力を抑えるのが精一杯だ。
かといって全力を出せばあっと言う間に時間制限がきて終わる、と。ああ、制限が辛すぎる。
ならば俺にできることは一つ、彼女を欺くしかない。
「お前、どこのどいつだ」
おっ、問答無用で殺しにくるかと思ったが、多少の話し合いはしてくれるらしい。
「日本の特殊対策部隊にお前のような奴はいなかったはずだ」
「さあ、どうでしょう」
気分は役者の黒幕。
足なんてくんじゃったりして余裕を取り繕う。
「はぐらかすなよ。わざわざ口を開いてやってるんだ、その脳みそが飾りでないならよく考えろ。お前がこの組織に肩入れする理由と俺を敵に回す危険性はどちらの天秤に傾くか」
重い重圧、空気の重さは変わらぬはずなのに山を背負うような重圧がのしかかる。
流石はアンネ・クランツ。直接その場を見た訳ではないが、【レヴィアタン】を一撃で屠ったという噂は事実であるらしい。
まあそれでも、どちらに天秤が傾くかと問われれば当然前者な訳で。
この世界での関りは殆どないが、俺がいた世界では何度も彼等彼女等に助けられている。悩む余地などない。
「無論承知の上で俺は今対峙してるつもりですよ。あなたの方こそ俺を超えてまで事を成すつもりですか」
「・・・・・・その言葉、取り消すなら今だぞ」
「必要ありませんね」
「そうか」
そっと背後に意識を向ける。
桐坂先輩はまだ動けずにいるが、助手さんが手助けして立ち上がることはできたらしい。スぺさんは直接手を出すつもりはなく静観の構えを貫いている。
「問題ない、こちらは気にするな」
アンネさんが左耳に手を当てて小声で呟く。
フードで確認はできないがどうやら通信機器でどこかと繋がっているようだ。
『・・・・・・さい。・・・・・・突入・・・・・・まで――』
意識を集中して声を拾おうとするが少し難しい。
端々の内容からここに突入するような内容に聞こえる。アンネさんの行動から予定外の事象が起こったことを察したのだろう。
問題はアンネさんが対処できない事象に対し行動を起こせるかもしれない人物が来ること。正直、なんで敵対しているのかも分からない現状。向こう側の勢力は俺にとって皆無だ。もしかしたら他の絶対者が来る可能性もある。
「――来るな」
問答無用に提案を切り捨てる。
「無駄死にしたくなければ大人しくしていろ」
「こちらは殺すつもりなんてないんですがねえ」
想像より俺に対する警戒が高い。
彼女の絶対反射を突破したことがかなり響いているようだ。
「それより俺はまだ理解していないことがあるんですよ。あなたはどうして彼等と敵対しているのでしょうか」
「はっ、状況を分かっていない奴が俺の前に立っているなんて傑作だな。人をぶち切れさせる天才か?」
「桐坂先輩の人となりは理解しているつもりなので、この判断を間違っているとは思いません」
舌打ちを一つ、少し間を置いてアンネさんが口を開く。
「理由は言えない」
「言えない? なんの理由もなく争っている訳じゃないんでしょう?」
「これを言えば新たな争いの火種が生まれるのが目に見えている。・・・・・・だから、言えない」
理由は言えない。けれどこちら側のなにかを狙って襲撃している。
なんて理不尽だ。正当性もなにもあったものじゃない。これじゃただのテロリストだろ、なんで他の絶対者はアンネさんの行為を容認してるんだ。即座に会議を開くレベルだろ。
「そんな理不尽が許される訳・・・・・・」
ギリッとアンネさんの歯を食いしばる音がした。
「分かってんだよッ! 正当性なんてないっ、それでもやりゃなきゃ駄目なんだ! ・・・・・・もう、あいつは限界なんだよ。世界を敵にしてでも俺は、恋人を守る」
焦燥を滲ませた声はどこまでの真剣で、心からの声であることは理解した。
ただ、それ以上に発言の内容に驚き自分の耳を疑うように軽く叩き頬を抓ってみる、うん夢じゃない。
およそアンネさんから放たれるとは思わなかった単語『恋人』。
こちらの世界ではこのツンツンを堕とした猛者がいるらしい。なにしてもキレ散らかしそうな彼女であるが、どのようにして攻略したのか。
とんでもない恋愛マスターの存在に慄く俺に、後方からスぺさんの声が届く。
「ちなみにその恋人というのは柳隼人のことですわよ~」
今日の間にいくつの驚愕を味わえば済むのか。
一体この世界の柳隼人はどうなっているのか、別世界とはいえ俺と同一人物であるとはとても思えない。
「だから、邪魔をするな」
殺気。
椅子に座った状態のアンネさんが、右足で地面を踏みつける。
衝撃が反射、粉砕された石が指向性を持って俺へと迫る。
「断罪剣」
一度吸血鬼対峙の際に使用した大剣を召喚士、平面を前面に出して身を守る。
「ちょっうお?!」
想像以上の衝撃で体が宙に浮く。
羽を広げて滞空する俺に視線を向けるアンネさんは両手を合わせて手を叩く。
一秒にも満たぬ時間、再度開かれた掌から放たれた光線が己を呑み込む寸前で断罪剣を振り下ろす。
熱に焼かれる手を無視して強引にエネルギーの塊を切り捨てる。
「痛ってぇなっと!」
空から見て分かったが、ここは本島じゃない。日本かどうかも分からないが、何処かの離島であるらしい。
爛れた手を超速再生、周囲の被害を確認。
殆どの能力者は既に退避している。桐坂先輩と助手さんはスぺさんが確保して空を飛んでいる。
「はぁ」
アンネさんは一つ溜息を吐き椅子から立ち上がる。
そして、地面がカタカタと揺れ始める。
徐々に小石が地面を跳ね出し、アンネさんを中心とした亀裂が入る。
「おいおいまさか」
少しずつアンネさんの体が沈んでいき、彼女を避けるように地面が波打つ。
いつも足元には反射を付与していなかったであろう彼女がもしも全身に反射を纏えばどうなるか、地球は彼女に触れることはできず、避けるように地殻事態が動き始める。
地殻が弱り、裂けた地面からマグマが噴き出す。
アンネさんはそれに無造作に腕を突っ込む。熱量を増したマグマはその勢いを更に増して空を熱しながらその手を広げる。
「やっば」
範囲が広すぎる。
既に退避したスぺさん達はいいのだが、赤熱した地面がそのまませり上がってきているようにしか見えない。
これはもう加減とかじゃない。本気を出さないと死ぬ。
「位階上昇――」
「へいお待ち」
超越神との存在を近づけようとしたその時、軽快な声と共に現れたのは一人の男。
俺と同じようにサングラスを掛けたその男は右手をマグマに向ける。
「解放――燃やし尽くせ、ベリト」
姿を現す巨大なガントレット。
爛々と輝くマグマはその熱を奪われるようにして、ガントレットに吸収され。俺に届く前に鉱物の状態で固まる。
「おいおい面白いことになってんなあ! けどちと暴れ過ぎだぜチビ助!」
豪快に笑う背中を見ながら、俺は乱入者に対して警戒する。
状況を見れば俺の助っ人であるのだが、どうしても警戒せずにはいられなかった。
「ちッ、そのにやけ面を止めろ。殺すぞ、ユリウス」
「お前さんには無理だっての」
元の世界で俺を殺そうとした元絶対者、【運命】の二つ名を持つ男。
ユリウス・マキナーが俺を背にして立っていた。
やっぱり、アンネは激強です・・・・・・





