22話 せめて笑える方に
蒼視点。
深夜に虚ろな状態で書いたので何処かおかしいかもです。何か上手い言い回しがあれば感想でご教授頂ければ幸いです(´ぅω・`)ネムイ
『さあ始まりました! 実況は私、古河 健司がお送りします!』
遂に試合が始まった。
私はモニターに映る気だるげなお兄ちゃんを見つめながら手を強く握る。
(頑張って!)
お兄ちゃんが能力を使うとはあまり考えられない。
それでも、少しでも今のお兄ちゃんの環境を変えられるような成果を出してほしいと思う。
そして今日、お兄ちゃんはいつもよりほんの少しだけどやる気があるように見えた。
これはもしかしたらもしかするかもしれない!
せめて一人、いや二人、どうせなら全員倒してくれてもいい!
『おっと?! 開始早々才媛高校と雲流高校で動きがあります。両チームとも何やら二手に分かれて行動を始めました!』
実況の言葉にモニターへと意識を戻す。
雲流高校は二手に分かれて三人組で行動し、才媛高校は何故かお兄ちゃんだけチームから離れて単独での行動を開始している。
「おい、あいつ仲間から見放されたんじゃねえの?」
「まあ、いても邪魔だしな」
「無能力者のくせに出しゃばるからよ」
観客は好き勝手に言葉を吐き捨てる。
確かにお兄ちゃんが切り捨てられた可能性はある。
しかし、それはあの兄にとっては好都合に違いない。
単独行動は仲間のカバーがないという欠点もあるが、誰にも行動を制限されずに好き勝手に動くことができるからだ。
お兄ちゃんが背負っているバッグを見る限り、敵を罠にかけながら仕留めていくつもりだろう。
だとしたら実戦経験のない仲間がいると最悪作戦の邪魔にしかならない。
「隣いいっすか?」
「え?」
隣から呼びかけられる。
違う人に向けた声だと思ったが顔を向けるとこちらに微笑んでいる女性がいた。
(うわあ、綺麗な人だ)
緑色の明るい髪をサイドテールに束ね、そのプロポーションには全くの無駄がない。
それに自分と同じように胸の無駄も全くない事に感動を覚える。もしかしたら私の方が大きいかもしれない。
「うん? お~い、大丈夫っすか?」
「あっ! はい、すいません。あまりに綺麗な方だったので驚いちゃいました」
「か、可愛い・・・お持ち帰りしたいっす」
緑髪の人は手をわなわなさせると私に抱き着いて頬ずりをしてくる。
スキンシップが凄い・・・外国の人かな?
「なんで蒼ちゃんはこんなに素直なのに隼人君は意地っ張りなんすかね~?」
「あれ? お兄ちゃんの知り合いなんですか?」
「隼人君から聞いてませんか? 私の名前は服部 鈴奈っす、よろしく!」
差し出された手を握り返す。
それにしてもどうしてお兄ちゃんはこの人の事を私に黙っていたんだろう。
他の人と違って凄い友好的な人の様に見えるが・・・
『おおっと! 柳選手、地雷を仕掛け始めました! しかし、まだ近くに他チームは来ていません。一体どうするのか!』
「あははは! あいつ何やってんだ!」
「そんなピンポイントで来るわけ無いだろ」
「無能がかっこつけてんじゃねえよ!」
どうやらお兄ちゃんが動き出したようだ。
まだ敵との距離はそれなりにある。しかしお兄ちゃんには確実にそこに来るという自信があるのだろう。
「柳君はいつから怪物と戦ってるんすか?」
鈴奈さんの問いかけに思わず息を飲む。
「・・・怪物と戦うってどういうことですか? お兄ちゃんは無能力者ですよ? そんな事出来るわけないじゃないですか」
精一杯の冷静を装い何でもない風に答える。
鈴奈さんは首を傾げると、手を叩き納得したようにうんうんと頭を縦に振る。
「そういえば私の事聞いてなかったんすよね。私は彼が無能力者ではない事を知ってるっす。実際にこの目で彼が戦闘しているところを見たっすから」
・・・成程、お兄ちゃんは相当面倒くさい相手に目を付けられてるようだ。
お兄ちゃんの戦闘を見ていたって事は町の実戦部隊か特殊対策部隊、それか偶然っていう線もあるけれど、その場合はここまでお兄ちゃんに固執する理由が分からないし普通は戦闘している人物を無能力者の兄だとは思わないだろう。今も周りの反応がそれを証明している。
だとすれば、
「鈴奈さんは特殊対策部隊の人ですか?」
「お? よく分かったっすね。自分で言っても誰も信用してくれなかったんすけど」
私の問いに鈴奈さんはあっさりと認めた。
ならば鈴奈さんの目的はお兄ちゃんの勧誘だろう。
お兄ちゃんの力は既に学生の域を逸脱している。引き込めればそれだけ任務の達成率が上がるはずだ。彼女たちにとっては喉から手が出るほど欲しい人材の筈だ。
しかし、お兄ちゃんは面倒事を極端に嫌う。
おそらく鈴奈さんのスカウトを蹴ったのではないだろうか?
だが諦めきれない鈴奈さんが今度は身内である私に説得を頼むために声をかけてきたという可能性は十分にありえる。
・・・正直、私はどちらでも構わない。
もし、特殊対策部隊になってもお兄ちゃんが負ける姿が想像できないからだ。
お兄ちゃんが生きやすい方を選んでくれたらと思う。
「私からも一つ質問いいっすか?」
「いいですよ」
「私が柳君の事を調べていく中で蒼ちゃんが学校で良い思いをしていない事が分かったんすけど、どうして隼人君に言わないんすか? 彼ならすぐさま何かしらの行動は起こしてくれると思うんすけど」
「・・・その事お兄ちゃんに言いました?」
「いえ、まだ言ってないっす。蒼ちゃんに何か考えがあるのかと思って」
本当によく調べている。
鈴奈さんも本気という事だろう。
「私は、お兄ちゃんの重荷になりたくないんですよ」
「重荷?」
「お兄ちゃんは何もかも背負っちゃうんです。そしてそれを表に出さない・・・そうして積み重なっていく内に壊れてしまうんじゃないかって」
だから、せめて私だけでもお兄ちゃんの重荷にはなりたくない。お兄ちゃんの隣でいつも笑って、少しでもその心を支えてあげたい。
強くあろうとしているけれど、決して、一人でも大丈夫という程強い人ではないから。力ではなくその心が。
私は唐突に疑問に思っていたことを鈴奈さんに尋ねる。
「・・・鈴奈さん。お兄ちゃんはどうしたら楽になれるんでしょうか」
「・・・難しい質問っすね。柳君の数値がどうして『0』なのか分からないっすけど、どう生きても何かに捕らわれるなら全力を出せる道を選んだ方が生きてるって実感できるんじゃないっすかね」
――数値『0』として侮蔑されながら生きる道か
――命の危険を冒しながらも強者として生きる道
どちらも等しく厳しいのならせめて少しでも笑える方を選んで欲しいと思う。
「あー!! もう、考えるの止め!」
私が考えても仕方ない!
モニターに意識を戻す。
そこにはお兄ちゃんの仕掛けた地雷にもう少しの距離まで近づいている敵の姿があった。
(とりあえず今は暴れちゃえ! 馬鹿兄貴!)
『なんと! 柳選手の仕掛けた地雷に前衛で警戒していた緒方選手が掛かってしまいリタイアです!』
「おいおい、あいつ運がいいなあ」
「偶々だな」
「そんな奴やっちゃえー!」
お兄ちゃんの実力が分からない人たちはその結果を偶然だと思い込んで罵声を浴びせる。
しかし、その尊大な物言いも次第に小さくなっていく。
お兄ちゃんがグレネードを使い集団に乗り込むと、夕霧高校の能力者を巧みに利用して三人倒す。
「お、おいどうなってんだこれ。あいつは無能力者の筈だよな?」
「ああ、能力を使っているようには見えんからそうだと思うが・・・」
どこか困惑したような空気が広がっていく。
例外として隣の鈴奈さんは目茶目茶はしゃいでいるが・・・
「そこ! そこっすよ! 右がら空きっす!」
まるでプロレスの観戦みたいだ。
一人だけ周りから完全に浮いている。
激昂して突進してくる選手を華麗に仕留めると遂に最後の一人になった。
『誰がこの展開を予想したか! 柳選手が次々に夕霧高校の選手たちをリタイアさせていきます! 残るはただ一人【重力操作】の五十嵐 敦! 柳選手は彼相手にどう戦うのでしょうか!』
実況の声はヒートアップしていくが観客の様子は熱狂とは程遠い。
「やっちゃって下さいっす!」
一人を除いて。
いつの間にかポップコーン食べてるし・・・あっ、こっち見た。私のも食べます? その代わりそれも食べさせてください。
私たちは二種のポップコーンを食べながら事の成り行きを見守る。
『おお! 五十嵐選手の強烈な圧し潰しをギリギリで回避していく柳選手! しかし、いつまでもつのか、何か決定打はあるのでしょうか!』
そして決着の時は訪れる。
お兄ちゃんは逃げながら相手を誘導すると対戦車用の地雷を踏ませることで相手を倒した。
わざわざ対戦車用の地雷をその地点に仕掛けていたという事はここまでの流れは完全にお兄ちゃんの想定通りという事だ。
もはや会場は通夜状態でまともに喋っている人がいない。
「「いえ~い!」」
そんな中、私と鈴奈さんは元気にハイタッチした。
二話で蒼の名前間違えてた・・・すみませぬ。そして感想ありがとうございますm(__)m





