210話 変えねばならない予言
大まかにだが敵の存在が明確になってきた。
三体の怪物の討伐は勿論、カイラス山上空にも行く必要がありそうだ。
今は武さんと西連寺さんの二人と別れ、仮設の建物の一室に父さんと籠っている。
(さて、どうするか)
さっさと怪物を討伐できればいいが、現状では三体全ての行方が分からないらしい。
想像以上に怪物の移動速度が早く範囲の想定があまかったのだろう。幾ら捜索隊が組まれていても、国全土を捜索するとなれば時間はどうしてもかかる。
「おびき出せれば楽なんだが」
可能性があるとすればやはりあの未確認浮遊物体だろう。
あそこに行けば一気に解決できる手だてもあるかもしれない。ただ、確証なんてものはない訳で一種の賭けになるが。
怪物が一般人を殺しだすのも時間の問題だろう。
決断はしなくてはいけない。
「決まったか?」
カップを机の上に置いて父さんが尋ねる。
基本的に作戦に関して指摘するつもりはないらしい。これで問題ないと思っているのか、どのような作戦であれカバー可能だと判断したか。
「父さん、何体いける?」
「そうだなあ、他の二体の情報がないから確実性はないが」
少し考えるように足を組んで視線をカップの中に向けながら呟く。
「二体ならいけるだろ」
一体は勿論情報を聞いた怪物、そしてもう二体いるがどちらが来ても二体までなら対処可能と。
「聞いた話で考えれば精神系の怪物の相手はお前を除けば俺しか無理だろう。俺の能力であれば実体があろうがなかろうが関係ないからな。後の二体も同レベルであればもう一体ならば大丈夫だ。問題は残る一体だが」
俺がやる、という選択肢は考えていない。
父さんも理解しているだろう。誰かが怪物の相手をしている間に俺がカイラス山の方へ向かうつもりであるということに。
速攻であの未知の物体を破壊して交戦に参加するつもだ。
しかし、やはり手が足りない。
二体を父さんが相手とれたとしても一体が野放しであれば意味がない。中国の特殊対策部隊が対応するだろうが、瞬時に現場に到着できるとは思えない。その間に確実に人死が出てしまうだろう。
「あらかじめ怪物の場所が分かっていたら・・・・・・あっ!」
超越神で場所を特定することも考えたが、不明な点が多過ぎる現状では使いたくないと思っていたところ、一人だけ場所を特定できる可能性のある人物が思い浮かんだ。
スマホにある連絡帳からすぐに連絡をかける。
『はい。菊理です』
そう、菊理先輩である。
彼女の能力である【予言士】であればある程度、いやほぼ百パーセントで怪物の出現位置を割り出せるはずだ。
「菊理先輩お久しぶりです。柳です。どうしても先輩のお力をお借りしたい事態になりましてお電話させて頂きました」
『そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ。状況を教えて貰えますか』
出現した三体の怪物について聞いた情報をそのまま伝える。
距離がかなり開いているためそこまで絞る事は難しいと前置きがあったが、そこはこちらの特殊対策部隊がどうとでもしてくれるだろう。
『・・・・・・視えました。データでそちらに送りますね』
「本当ですか! ありがとうございます。このお礼は後々」
『そうですね。それなら今度萌香ちゃんとスイーツ店にでも行きたいです。『後輩の癖に先輩を放ってなにしてるのです?!』と怒っていたので』
「おっと、それは大変だ」
今のうちに人気のスイーツ店も検索しておこう。
今後の予定に先輩との交流を追加し、送られてきたメールを確認する。
メールにはおよそ怪物がいるであろう場所を記した地図が添付されていた。確かに絞れきれているとはいえないが、十分過ぎるものだ。
「準備は整った・・・・・・うん?」
追加のメール文がきた。
写真ではなく、文体でのメールだ。
『私の予言は絶対ではない事を柳さんは既に証明しています。なのでこの予言は伝えるべきか悩みましたが伝えようと思います』
指をフリックして文をスライドさせる。
――明日、あなたの大切な、そしてあなたを大切におもう誰かが死にます。
◇
こちらの特殊対策部隊の武さんと連絡をとり、俺がカイラス山を行くことと、父さんの役割を俺のものであるとして多少偽った作戦の共有をした。
決行は明日の明朝。
今は敵に勘付かれないように遅遅として民間人の安全の確保に動いているはずだ。
予言に関してはあまり深くは意識しないようにした。おそらくは父さんが死ぬという予言なのだろうが、俺が手を出さなくても死ぬ姿が想像出来ないからだ。
それよりも今は英気を養おうと俺はベッドに入ったのだが、
「やあ」
「どうも」
例の通り白い空間に招かれた。
どうやら伝令神しかいないようだが、内容はおそらく今回の件だろう。内心としてはやっぱりかという感じである。
「君も薄々分かっているだろうか今回の敵は、破壊神だ。器の差を埋める為に創られた疑似的な彼の神殿があの山の上にあるものだ」
「あそこであれば以前以上に力を出せるってことですか」
「まあ正確な数値では出せないけれど前回の倍は強いと考えればいい。そうだな、君たちのいう能力数値では100万は優に超えるレベルだろう」
「ちなみに俺の数値って」
「外神を除けば頑張って100万に届くかってところじゃないかな?」
なら負けないだろう。
話にならないぐらいに離れているならまだしも、数十万の差を埋められる程度には場数を踏んできたつもりだ。
「ちなみにだけど、今回は君に助っ人がいるよ」
「父さんのことですか?」
「いやいや、可愛らしい女の子さ。彼女達も十分強い。だから君は外の事は気にせずに破壊神の相手をしてくれればいい」
どうやら複数の女性が手を貸してくれるらしい。
もしかしてシャルティアさんが心配して来てくれたとかだろうか。それともソフィアさん・・・・・・はなさそうだな。
職に捕らわれずに手助けできしてくれそうな人物は、後は母さん暁さんぐらいか?
誰かは分からないが助かるな。父さんは二体を瞬殺して助けに来ると言っていたが、もしもの可能性があるからその人達には二体目の怪物の相手を頼みたいところだ。
「後はそうだな、向こうさんに綺麗な女性がいると思うけど彼女のことはあまり気にしなくていい」
聞き捨てならない単語が聞こえてきた気がする。
「向こうさん、って敵ですか?」
「敵だね」
「綺麗な女性が俺を殺そうとしてるんですか?」
「殺そうとしているね」
「なるほどなるほど」
空間の隅、は分からないのでその辺で三角座りをしてのの字を書く。
恋人ができないと常々思ってきたが、ついに俺は女性に殺意を抱かれる段階に移行したらしい。まさか今以上の立場が存在するとは思わなかったぜ。
どうも、DT会長改めND(泣き顔ダブルピース)会長の柳です。
「ははっ、どうせ俺なんて女性のちょっと魅惑的な場所があれば視線が揺らいでしまうような腐れ男ですよ。世のリア充共まじでタンスに小指当て続けてくんないかなあ」
「地味に嫌な呪いだね・・・・・・まあでも、君がその女性にとって大丈夫な存在だと思われれば殺しにくることはないと思うよ。今回はちょっとした見学じゃないかな」
「・・・・・・なにをしたらアウトなんでしょう」
「それを僕が言ったら意味が無くなってしまうから言えないかな」
「はぁ、そうですか」
・・・・・・待てよ?
これってチャンスじゃないか? その女性はおそらくは女神だ。そして完全な敵対かは微妙なラインであるらしい。
「・・・・・・」
俺に手を貸してくれている神を思い返して欲しい。
男、男、男、男、男、完全完璧ウルトラ女神ヨグ様だ。
男女の比率が余りにも偏っている。まあなにがいいたいかと言えば、勧誘である。
このむっさい空間に新たな花が添えられる可能性があるのではないだろうか。
俺が女神の力を借りれない理由は出会いがない事ではなかろうか。超越神に関しては彼女から来てくれたが、他の女神は俺に近付く事も無い。
そして今回は、確実にその女神に会う事ができるのだ。
「やる気がでてきました!」
俺はやるぜ! 今回の任務で絶対女神を口説いてやる!
菊理先輩の予言は三章の迷宮編以外では百パーセントの確率で的中させています。





