205話 平行線
神域。
地球とは異なる領域、そこで円形の机を囲って六柱の神々が集まっていた。
「それで、皆さん全滅と?」
二柱を除いて全員が顔を逸らす。
それにしても豪華なメンバーだなと苦笑しながら眺める。
戦神、太陽神、武神、英雄神に伝令神の僕、果ては外神までいる。ここだけで新しい組織が作れてしまいそうだ。
「えっと、超越神はどうかな?」
「呼んでも構わないならそうする。ただし、人類の半数以上が発狂しても私は知らない」
「あっうん、ごめんね。やっぱりいいや」
結局手を貸してくれるのは僕が声をかけた月の女神と、武甕槌が声を掛けた天照大御神のみか。
隼人が主神級を相手どれるとしても限りがある。今回の相手を考えれば二柱が限界と見た方がいい。それ以上となれば敗北は必至、かもしれない。
「というか、何故神々が相対してるんだ? 確かに歴史上は色々とあったが今回はそんな理由じゃないだろ?」
意味が分からないと肩を竦める戦神。
「確かに歴史とは関係はないね。ただ、破壊神は分からないけれど、彼女曰く隼人自身を危険だと判断したらしい」
「は? 余計分からねえな。あいつのどこを危険だと・・・・・・」
「それは貴様が一番よく分かっておるだろう。奴を抑えきれていないのだろう? 奴が隼人と接触したことは我も把握しているぞ」
「・・・・・・ふむ」
英雄神の鋭い指摘に戦神は考えるように手を口に持っていく。
おそらくは“奴”のことを考えているのだろう。隼人君を最も早く見出した神のことを。
あの神が見出したということは、少なからず完全な善人であるはずがない。
彼は現状を嗤いながら見ていることだろう。
「それよりもだ、今は相手を確定させておくべきだろう。破壊神は確定として他は誰だ?」
武甕槌の問いに、一引き攣った笑みを浮かべてしまう。
若干上擦りながらその神の名を上げる。
「ああ、確定したのは――地母神だ」
◇
広大な大地を見下ろせる丘の上に彼女の姿はあった。
「久しぶりだね。地母神」
「ええ、お久しぶりです。伝令神様」
微笑を浮かべ、彼女は振り返る。
地面に付く程伸びた赤みがかった茶の長髪。陶器のような肌は滑らかで、ゆったりとした口調はまるで甘い蜜だ。
流石は春の女神から男を魅了する力を貰った者、もしも隼人君が対峙していたら大変なことになっていたかもしれない。
「最近調子はどうかな。もしかして憂鬱になったりとかしない?」
「いえ、依然として変わりはございませんわ」
「ははは、それは良かった」
少しばかり微妙な空気が流れる。
遠回しに質問しようかと考えたが、そんな必要もないかと聞きたかったことを尋ねる。
「一つ聞きたい事があるのだけど。もしかして破壊神に力を貸しているのは君かい?」
「ええ」
否定の言葉の全くない肯定。
直球の解に少し面食らうと同時にやはりかという思いが浮かび上がる。
「どうして、と聞いてもいいかな」
「逆に聞きたいですわ。どうしてあのような存在に力を貸しているのですか?」
「どういうことだい?」
「彼は自身の大切な存在は確実に守る。それは大変素敵なことでしょう。どれだけ強大な力を前にしても屈しない姿は真の英雄と言っても過言ではありません。・・・・・・ただし、その敵が神だとしても彼の選択が変わらなかったことに私は恐れを抱いているのです」
以前の破壊神との戦闘の事を言っているのだろう。
記憶を無くしていた状態で、ただただ我武者羅に特攻していただけならまだ許容できていたかもしれない。けれど、
「全ての記憶を取り戻した彼が取った選択は戦闘でした。それも、撃退ではなく確実に神を殺すつもりでの戦闘」
彼女は目を細めこちらの真意を読み取ろうとするように言葉を紡ぐ。
「才能だけを見てはおられませんか? その危険性を十二分に理解されておられますか? もしもなにかが起こった時、それが神を殺すという選択になった時、神殿の力を狙う敵に加え、彼が神を殺しに来る可能性があるのですよ?」
「その時は僕達の権能を使わせないさ」
「今までならばそれで私も身を引いておりました。しかし、かの神は違いますでしょう。なにやらいたく彼にご執心のご様子。正直に申しまして、超越神に敵う神は地球上に存在しておりません」
確かに、理由は分からないがあの外神は隼人君にどこか執着している気がする。
おそらくは僕達が知らない事を既に経験しているのだろう。あの神の権能ならそれが可能だ。そしてそれを変えられる可能性があるのは隼人君であるということだろう。
はぁ、少し面倒になってきたな。
あまり頭は使いたくないのだけど。僕は誰かの使いっぱしりっていうのが一番楽なポジションなんだけどな。
「そんな事にはならない、と言葉で言っても意味はないか。う~ん、こりゃ平行線かもね。君を説得するのは無理筋っぽいな」
「それも当然でありましょう。私に心を与えたのは貴方様ではありませんか。立場が異なるだけで、貴方様が私ならば同様の選択をしたことでしょう」
そう、端から説得できるはずもない。
地母神に心を与えたのは他でもない僕だ。必然的にその頭脳は僕に近しいものになっている。
彼女は話は終わりとばかりに背を向けた。
「・・・・・・しかし、私は超越神よりも貴方様の行動が気になります。一体どこまで視えておられるのですか?」
「・・・・・・さて、どうだろう。僕はただの伝令係さ」
帽子を深く被り、その場を去った。
◇
「なるほど、地母神か。神によって創られたのならばその神を守る為に動くのも道理、ということか」
「ちょっと過剰な気もするけどね。隼人君がそんなことをするようには僕には思えない」
「隼人自身の能力も問題視しているのかもしれないな。あの模倣能力は神の唯一無二とされる権能でさえも模倣する。我々の権能がなくとも反逆できる力を有しているのだ」
確かにそれもあるだろう。
そして極めつけは、彼の変化だろう。
徐々に、本当に少しづつではあるが彼は肉体に留まらず、精神にも変化が見られる。
自信があることは悪い事ではないが、それが強い独尊的なものに移行すればどうなるか分からない。
ここ数年の間彼を見てきて大丈夫だとは思うが、それを証明できるものがない。反対に力を持った独裁者が民を殺す歴史の方を見れば、彼女の意見の方が正当性のあるようにも思える。
「確定したのは彼女だけだけど、他に二柱の神が怪しい動きをしている。片方はまだ大丈夫だけど、もう一方が出てきたら少しマズイかも」
「誰だ?」
「いや、明言は避けさせて貰うよ。違ったら僕が殺されてしまうからね」
「・・・・・・なるほどな」
明言を避けるような相手は限られる。
なにも言わずともその相手は絞られるだろう。
「ん?」
不意に訪れた感覚に全員が動きを止める。
「来たな」
英雄神が凶悪な笑みを浮かべ威風を撒き散らす。
発信源は地球上、どうやら隼人君が住んでいる国ではなさそうだが。
「ああ、そういうこと」
おそらくは破壊神となんらかの関係がある地域。
その上空におかしな領域が広がっている。
「素体の差を埋めに来た訳だ」
より神の権能が強く効果を持つ領域を広げて優位に立とうとしている。
どうやって隼人君をその場に引き摺り出すのかは不明だが、地母神がそこは考えているだろう。
「随分と準備を整えてきたようだけど、隼人君は勝てると思うかい?」
どう考えているのかと、緊張の欠片も見えない超越神に問いを投げかける。
「何処に敗北の要素が存在する?」
質問の意味が分からないと眉を寄せる姿に彼女と僕が見ている隼人君の姿が異なっていることを確信した。
(あながち地母神のおそれは間違いではないのかもしれないね)
まあ、それでも選択は変わらない。
僕は自分の信じた彼と進むだけだ。
「さあ、開戦だ」
混沌としてきちゃ。
感想の返信は少し待って下さればと(>_<)
あと、終焉都市の一章が終わったのでよければチラ見してみて下されば嬉しいです(*´▽`*)





