203話 動き出す神々
他作品を読んでいたら止まらなくなっちゃって・・・・・・えへへ
面白い作品を書く皆が悪いんだ! わ、私は悪くない!・・・・・・(*ノωノ)
聖夜の夜。
特になにかある訳でもなく、夕飯の片づけを済ませ風呂から上がるとすぐに床に就いた。
瞼を閉じて数分。
いつもと違う感覚に目を開ければ、少し薄暗い空間に立っている事に気付く。
石で積み上げられた壁、点々と配置されている蝋燭で辛うじて部屋の構造が分かる程度の場所。
「夢か? ・・・・・・いや、違うな」
後ろを振り返る。
視線の先には、丸いテーブルと二つの椅子があった。どこにでもあるような装飾のそれら。
二つの椅子の内の一つに、人の影が見える。
部屋が暗くて顔は見えない。ただ、肌に感じる嫌な空気で誰であるかは明らかだった。
テーブルに向けて足を進める。辿り着くや、人影と対面する形でもう一つの椅子に腰を掛けた。
「お久しぶりですね。十年ぶりぐらいでしょうか」
「確かに、僕に関してはそうとも言えるね。人の成長は早い、あの時の幼子がよもやここまで成長するとは思わなかったよ」
なんという事はない会話。
しかし、この神が言葉を発するだけで、何故か寒気が背筋を這う。
「それにしても、どうやら面白いことになっているらしい。出てくるつもりのなかった僕が出てきたということは、それだけの危機感をあいつが感じているということ」
くっくっく、と含み笑いをしながら眼前の神は足を組む。
背もたれに体を預け、暗闇の中で輝く紅目がすっと細められた。
「隼人君、二つほど質問をしようか」
「どうぞ。好きな女性のタイプは包容力のある女性、結婚は二十代後半から三十台前半にできたらと考えています」
「ほう、僕は少し生意気な女性が好みなんだが・・・・・・っと違う違う。わざわざ呼び出してそんな質問をするわけがないだろう」
ちっ、面倒くさい。
この神と言葉を交えるとこちら側が侵食されそうだから早めにきり上げたいのに。質問とやらもどうせろくなものではない、人の嫌がるような箇所を弄ってくるだろう。
「では一つ目の質問。君は仲間を全員信じているかい?」
「少し範囲が広いですね」
「家族、特殊対策部隊、絶対者の三つで構わない」
ふむ、家族は考えるまでもない。特殊対策部隊も問題ないとは思うが、数名関りが薄いから人物像が確定している訳じゃない。それは絶対者も同じ、レオンさんやシャルティアさんは裏切るような人ではないが、一部の連中は全く分からない。特に三位のアンネさんに関しては情報が零だと言っても過言ではないだろう。
人物像が分からない存在を心の底から信じられるかと問われれば否だ。ただ、彼等彼女等は実績を持っている。俺の望む形から外れるような行動を起こす心配は薄いと見える。
「ほどほどに信用している。という感じですね」
「オーケー。じゃあ二つ目の質問だ。もしも君の守りたいものが危険に晒されるとして、その原因が、君が仲間だと思っていた存在であっても・・・・・・君は躊躇わず殺せるかい?」
今更な質問だ。
「殺せますよ」
俺は家族と大切なものが守れるならば、俺はその他全てを壊せる。
これだけは、なにがあろうと崩れる事のない確定事項だ。
「うん、合格。今それが聞けたなら僕はもういいかな」
「用事はこれだけですか?」
「うんこれだけ。最後に一つ言うのだとしたら・・・・・・そうだな、相手が相手だからお互い死なない程度に暴れようねって感じかな」
最後の最後で不穏な言葉を残すなと。
というか貴方が死ぬ姿なんて想像できませんって。逆に相手を尻に敷いて嫌味の一つでも言っていそうである。
◇鈴奈side
服部邸。
昔ながらの木造建築の豪邸、その一室で服部鈴奈と着物姿の妙齢の女性が向かい合っていた。
「鈴奈さん。どなたか気に入った方はおられますか?」
「えっとぉ・・・・・・」
机に並べられた書類。
人柄や職業などの個人情報が書かれている。本人が公開した情報なのか、それとも内密にこちら側のものが調べ上げたのか、本当に細かな部分まで記されているのがなんとも恐ろしい。
これがなんなのかと言われれば、お見合い相手の選別? だろうか。
私は既に職も見つけているしこういうのはいらないと伝えてはいるのだけれど、母は将来はというより今にでも特殊対策部隊を止めて欲しいと考えているようで、こうして結婚相手を催促することが多々ある。
籍に入り子供でも身籠もれば身を安全にするようになると踏んでいるのだろう。
「何度も言ってるっすけど、私はまだ結婚なんてしないっすよ」
「この方なんてどうですか? 笑顔の似合う好青年で既に自分の会社も持っていますね。年収二千万というのも普通に暮らしていくのであれば破格でしょう」
「だから見合いしないって・・・・・・それになんすか、ちょいちょいとんでもないおじさんが入ってるんすけど」
「上役の方々ですね。それらは無視して頂いて大丈夫です。鈴奈さんが拒否したという事実が大切なので」
ふぅん。正面からでは断りづらい相手って事かな。
地位は高いのかもしれないけど、いい歳したおっさんが女子高生を妻にって考えてる時点でもうアウトだろう。
「はぁ、母は鈴奈さんが心配です」
「大丈夫っすよ。自分のことは自分が一番分かって・・・・・・」
「あらあら~ 大切な紙が~」
母の手から明らかに故意に紙が地面に落ちる。
ちらりと内容が見えて、
「これはお見合い相手と間違えて調べさせたものでした。すぐに焼却を。・・・・・・鈴奈さん、その手をどけてくれますか?」
「いや、あの、焼却はもう少し待ってみてもいいんじゃないかと・・・・・・」
この紙には本当に色々書いてある。相手と関わらないなら全く関係ないものだが、関わる相手ならば話が変わってくる。それが恩人であるならば尚更、彼の好みが分かるのであれば知っておいて損はない、というか知るべきだろう!
「平穏な生活というのも、前向きに検討させて頂くってことでどうっすか?」
「・・・・・・ふむ、牛歩ですが構わないでしょう」
そっと母は手を引く。
「ふふっ、その彼をものにしてもいいのですよ?」
「っ?! し、失礼するっす!」
娘の内情に関わって来る親を苦手だと思っているのは私だけではないはず。いつかあの顔にパイを投げつけてやりたいものだ。
「まあ、でも・・・・・・大きな収穫っす!」
次に出会う時は紙に書かれていることを活用してみようか。
珈琲をよく飲む、動物好き、子供に優しい、恋人がいた経歴無し、若干シスコン気味。
「ふふっ、確かに」
実に彼らしいことが綴られていて、口角が上がってしまう。
そのまま自室に入り――瞬時にナイフを抜き取った。
「初めまして鈴奈、とても機嫌がよいようですが、なにかいいことでも?」
なにかが、そこにいた。
家の者が、私を含め目にするまでその存在に気付かなかった。
性別は女性。優美な着物を羽織っている。
(なんすか、あれは)
ナイフを手にとってはいるものの、全く殺意が湧いてこない。
「大丈夫。私は敵ではありませんよ」
「ッ!」
いつの間にか、私の背後にいるなにかはそっと私の手からナイフを取り、危ないからと机の上にそっと置く。その移動が私には全く見えなかった。
「・・・・・・あなたは一体」
「ふふっ、一時的にですがあなたに力を貸すことにしました。不浄だからと直接手助けできませんでしたが、間接的にならあの娘達も許してくれることでしょう」
――さあ、共に未来を照らしましょう。
◇七瀬side
この状況は、なんなのだろう。
「モグモグ」
「・・・・・・」
学校から帰って来て自室に入ってみれば、知らない女性がバームクーヘンを美味しそうに食べていた。
朱色の髪に見た事のない金色の瞳を持つ女性。
服装もここらでは見ないものだ。美しい白い布、おそらくはシルクかなにかでかたどられたドーリス式キトーンのような服。
一見して、私は美しい彫刻がそこにあるのかと思ってしまった。
「ご馳走さまでした。下界の食べ物は発達していますね」
「えっと、どちら様でしょうか?」
ここまで堂々としているのだ、不法侵入ということはないだろう。
女性の口元に一瞬目を向け、近くのティッシュケースを渡して答えを待つ。
「ありがとうございます」
若干頬を染めてティッシュケースを受け取った女性は口元の食べかすを拭き取り居ずまいを正すと、私へと向き直る。
「私が何者か。答えとしましては、あなたの道を先導する者とでも言いましょうか」
それは彼女にとっての回答であり、私にとっての回答ではなかった。
彼女自身の情報を聞きたかったのだけれど、彼女は私から見た自身の立ち位置を述べた。
そして余計に謎が増える。先導する者とは? 字面だけ見れば私の道を切り開いてくれる先生のような存在だろうか。
ただ、親からはなにも聞いていないし家に誰かを雇うようなお金はない。
侵入者の割合が高まったことで警戒レベルを上げる。
「・・・・・・才能が勿体ないですね。努力はしている、技術もない訳ではない。しかし、指導者がいないために無駄な道をうろついている」
私のプロファイルだろうか。
溜息を吐きそうな表情をするや、彼女は異常な発言を続ける。
「私に矢を打ってみて下さい」
「は? なにを言って・・・・・・」
「大丈夫。あなた程度の攻撃は分体であれど届きません」
「・・・・・・後悔しても知りませんよ」
今までの努力を侮られた。
激怒とはいかないまでも確かな怒りを抱く。とはいえ冷静さを欠いたわけではない。
狙いは肩。
尊大な言葉を放ってはいるが、距離は二メートルにも満たない程だ。私の矢が当たらない訳が無い。
せめて早く終わらせようと瞬時に弓を召喚し、狙いを悟らせずに速射。狙い違わず矢は肩に目掛けて直進し――寸での所でか細い二本指にペンでも掴むかのように捕らえられる。
「なッ?!」
「十点。百点中ではなく千点満点中の十点です」
夢? いや、あり得ないだろう。
どれだけ動体視力が優れていたとしても反応から体を動かすにはいくつかのプロセスが存在する。この速度で掴めるはずがないのだ。
「驚いているようですが、これは反応ではありません。予測です」
「予測・・・・・・?」
「あなたは弓者としては未熟も未熟。そんな人物の攻撃を予測する事など私には容易です」
弓兵というのは存在自体が珍しい。
私以上に弓を扱える人物が存在するのかも怪しい。にもかかわらず彼女は未熟と断じた。
「この程度では、目指すべき背中も見えなくなってしまいますよ。弓者は標的が存在しないのなら狙いを定める事もできない。それでもいいのですか?」
いい訳がない。
こんな所で躓いている場合ではない事は私が一番分かっている。
「貴女に師事すれば、私は前に進めますか?」
焦りはしても、数値だけはどんどん上がっていくことでどこかで甘えが出ていたのかもしれない。
変わりたいのなら、目の前の女性を逃してはならないと全感覚が告げる。
「良い目です。あなたに決めて良かった。私の事はこれからこう呼びなさい。――アルテミス師匠、と」
年末の少し前、私に師匠ができた。
ちょいと感想に目を通せてなくて申し訳ないです!
明日には返信させていただきます(*´▽`*)





