200話 動き出す時間
感想返信できず申し訳ない、ちゃんと全部拝見させて頂いてます(*´▽`*)
二日、三日からまた忙しくなるのでそこまででもう一、二話ぐらい投稿したいですなあ
時間が停止しているとはいえ、私の寿命は有限だ。
まずは民間人に仕掛けられた爆弾を解除すべく奔走する、その途中だった。
世界が大きく色づいた。
「なッ?!」
眼前で新たな事象が起きている。
本来ならばそんなことはあり得ない。時が止まった中では事象事態の火種さえ停止しているはずなのだから。
だというのに、世界は刻一刻とその様相を変化させ、子供がいたずらに万華鏡を回すように留まることを知らない。
「一体、なにが起こっているのですか・・・・・・!」
無意識にナイフの柄に触れて、周囲を見回すが全く原因が分からない。
それ程時間が経たずに更なる変化が現れる。
地に光のレールがひかれたかと思えば、その光から無数の細長いなにかが姿を現す。
一見して触手のように見えるそれは、大地を覆うようにその手を伸ばし、人へと巻き付いていく。
即座にナイフを走らせ触手を切り裂こうとするが、何故かナイフが触手に当たる事はなく、まるで亡霊を相手にするように透過してしまう。
訳も分からぬまま鏖殺されるのを見ていなければならぬのかと歯噛みしたが、事態は思わぬ方向に向かった。
「うそ・・・・・・」
眼前の光景に呆気にとられ、少女のような呆けた声が漏れた。
触手に触れた人々の体が光ったかと思えば、次の瞬間、淡く輪郭がぼやけいつの間にか寄生していたはずの怪物と肉体が分断されていたのだ。
十人や百人などという規模ではない。視界内全てで同様のことが起こっていた。
ここまでくればこの触手が敵ではないと仄かに思い始め、同時に日本でのことを思い出す。
妹を救うために一人の絶対者が起こした現象、遠くから見ただけだったが、その時の光と今目の前で見ているものは全く同一のものだ。
「柳隼人。まさか、貴方は動けているのですか。この止まった空間で・・・・・・!」
まだ確証はない。以前の組手で彼が止まった時間の中で動けていないのも見た。
しかし、この規模の同様の現象が複数あるとも考えられず、日本で見たのは組手の後でもあるのだ。そのため彼でないとも言い切れない。
そうこうしている内に、怪物の姿が消える。
視線の隅にうつる物体に自然と顔を上げれば、上空に隕石を思わせる黒い巨大な塊が見えた。
目を細めれば、それが全て寄生していた怪物であることが分かる。
分かってはいたが、その数は異常で遠目から見ただけでもあまりの悍ましさに顔を顰める。
あれを全て殺すのは骨が折れるだろうと考え、ふと音が聞こえた。
ピシッ、となにかが割れるような音。
その音は遠くから次第にこちらに近付き、何事かと振り返れば、空間に亀裂が入っていく音であることが分かった。
空全体に走った亀裂の隙間からは、止まっているはずの空が微かに動いているのが見え、私は乾いた笑い声を出す。
「ははっ・・・・・・怪物が哀れに思えてきますね。こうなってしまえば、どれだけ準備をしていても全て無意味だ」
空間が割れる。
停滞していた時間が再び動き出した。
◇アンネside
「ちッ」
ああ、ムカつく。
体の異変、反射はせずとも微かに残る異変。この感じはシャルティアがなにかしたのだろう。そして、それは思わぬ形で崩れた。
あいつに直接聞かずとも空に見えるあれを見れば誰でも分かる。
「本当にムカつく・・・・・・ッ!」
姿を見せずに最後だけ持っていく第三者のことも、後始末を私に押し付けやがることも。
なにより、私だけでは解決できなかったという事実が一番ムカつく。
いつまでも独りではいられないのだと指を指されている気になる。
蠢く怪物。
数千万といるであろうそいつらがばらけようとするのを、ついこの前にウツボ野郎を殺した時に手にした力を発動し、奴等の周囲に呪いとも呼べる力で覆う事で逃げ場を封じる。
「おいッ、どこのどいつか知らねえが、見ておけよ」
懐から出すのは銃の形をした兵器だ。
トリガーに人指し指をかけて一段階引く。
この銃は通常のものと大きく異なる私専用の武器だ。二位によって創られ、使用されている部材は、私の髪などの体の一部だ。
私の能力は、それが自身の体の一部であれば発動させることが出来ると言えば、その理由が分かるだろう。
一段階目の引き金では銃の内部に分子レベルのエネルギー体が現れる。
それは内部の構造にぶつかると、私の能力によって10倍のエネルギーとして反射される、それが何十と繰り返されれば、何でも無かったはずのものが数秒で殺戮の化身となる。
空へと銃口を向け、二段階目の引き金を引く。
銃口を塞ぐように存在していた壁が消え、内部を暴れ回るエネルギーに指向性を持たせる事で一気に射出する。
約十キロの範囲でエネルギーの拡散はしない。
【創造】で造られた武器には二位自身が決めた法則が僅かにだが働く。二位が創り出す世界ほどではないにしてもその法則は絶対だ。
故に、全てのエネルギーはその威力のまま、空に存在する怪物を蹂躙する。
怪物自身にぶつかるまでもなく、膨大な熱量に堅い甲殻は蒸発し、悲鳴を上げる時間もなく世界から消え失せる。
極光はそのまま空を突き抜け、幾つかの星々を切り裂いたが、すぐに威力が減衰して消滅した。
「私は独りで十分だ」
銃を降ろし、空を睨みながら一人ごちる。
◇シャルティアside
その後、数日の間は後処理に奔走することとなった。
防衛基地や国の中枢が機能するまでの補助として動き、ようやく元に戻ったのは一週間が経ってからだ。
この現象は他国でも起こっていたようで、規模は違えど世界中で人類は痛手を負った。
いや、これはまだマシだと思っていたほうがいいだろう。おそらくは柳隼人の手助けであろうあれが無ければ、今頃は真に地獄の風景が至る場所で起こっていたはずなのだから。
警備の強化を促し、ロシアの特殊対策部隊に軽くお灸を据えた後、師匠に今回のお礼をしたいと言えば、孫の顔が見たいというので遠い親戚の写真を贈る。
「ちっげーよっ?! お前の子供が見たいって言ってんだよ!」
「セクハラですか? 骨折りますよ?」
「えぇ、今回ピンチだったろ? 種としてのそういう本能とかあるだろ。お前はスタイルはいいんだからそのバディで近くの男にだびゅっ!」
師匠の顔を軽く陥没させた後、私は飛行機で日本へと渡った。
久しぶりの空気、光景の中を歩き、日本の特殊対策部隊本部近くのマンションに入るとエレベーターで昇っていく。
開いた扉から歩き出し、その家に近付くにつれ慌ただしい声が聞こえてくる。
どうやら彼もオーストラリアから既に戻って来ていたらしい。柳蒼との冗談の掛け合いが僅かに聞こえてくる。
「ふぅ」
何故か緊張している鼓動を落ち着け、玄関のインターホンを押す。
『は~い!』
元気良く扉を開けて飛び出してきたのは柳蒼だ。
彼女の体を優しく受け止め、顔を上げると車椅子を使わずに二足で屹立している柳隼人の姿があった。
その雰囲気は以前に会った時と明らかに違う。
見た目ではない、おそらくは中身が私の知る彼ではない。男子、三日会わざれば刮目して見よとは言うが、ここまで変わるものなのかと少し目を見開く。そしてやはり彼だったのだとも確信した。
「お帰りなさい、シャルティアさん。今日は俺が夕飯作るんでゆっくりと寛いでください!」
しかし、彼は何でもないようにそう言うと、私の体にほんの一瞬視線を巡らせて安心したような笑みを浮かべて踵を返す。
「や、柳隼人っ」
「え? あっはい」
思わず彼を止めたが、何をいうかは考えていなかった。
少し焦りながらも、平静を装いながら言葉を紡ぐ。
「危ないところを助けて頂き有難うございました。あのままであれば、おそらくは大勢の民間人が・・・・・・」
「ん~と、人違いでは?」
「はっ? ですが」
「俺が動くとしたら、それは自分の為で、見知らぬ民間人のためには動かないと思います。だから気のせいだと思いますよ」
その発言に嘘はないように聞こえた。
ただ、自分の為だと言ってるときに少し言いづらそうにしているのが気にかかった程度だ。
「柳隼人、少し手を貸してください」
疑問符を浮かべる彼の手から通訳の役割を果たす指輪を少し外す。
「Благодарю Вас」
耳元で小さくそう言って、軽く頭を撫でた後指輪を嵌めなおす。
面食らったような表情の柳隼人はすぐに再起する。
「ちょ、ちょっと、今なんて言ったんですか!」
「貴方はどうせはぐらかすので内緒です」
口に人差し指を当て少し意地悪く笑い、どうしてか気恥ずかしく、少し早足でリビングの方へと向かう。
「・・・・・・俺、今日頭洗わねえわ」
「安心して、お兄ちゃんの頭は私が丹精に綺麗にしてあげるから」
後ろで揉めている声がここに戻ってきたのだと思わせる。
十三章【時の支配者編】了。
次章、【神々の争乱編】





