20話 開戦
雲一つない快晴が俺を迎える。
周りには多種多様な人物がある建物を目指して歩いているのが分かる。
時の流れは速い。
今日は皆が待ち焦がれ、俺が何としても避けたかった対校戦当日である。
「頑張ってねお兄ちゃん! ポップコーンでも食べながら観戦しとくよ!」
そして隣には俺の滑稽な様を見に来た蒼がいる。
幾度となく来るなと言ったのだが、どこ吹く風で遂に会場まで付いてきてしまった。
「・・・はあ、もういいから取り敢えず会場の席に座っとけ」
「じゃあね! かっこいい姿見せてね!」
手を振りながら無理難題を言う妹様を見送り、俺は才媛高校の控室へと向かう。
ここで対校戦のルールを話そうと思う。
対校戦は四校によるバトルロイヤルだ。
各高校から六名の選手が選ばれ、特殊な空間で戦う。
そしてその空間内で一定以上の怪我を負うと強制的に外に出されて事実上のリタイアとなる。最後に残った選手の学校が優勝だ。
余談だが、才媛高校はここ五年で優勝を逃し続けている。先生方は今回こそと息巻いていてかなり熱烈な応援をしてくれた。
「おっと、忘れてたぜ」
試合前に受付の方で武器を申請することが出来るのだ。
ここで武器を手に入れなければ俺に勝ち目はないからな、一応能力を使わない範囲ではあるが今回はそれなりに本気だ。最低一人は狩るつもりだ。
受付まで行くと、申請用紙を提出する。
「え?!」
受付の人はその内容に少し驚いたようだが、直ぐに手続きを始め少し大きめのバッグに詰めた後俺へと渡す。
準備が完璧に整ったのでその足で控室に向かいドアを開ける。
「あっ! 遅いっすよ柳君! もうそろそろ始まっちゃうっすよ!」
「すいません。意外に重くて少し手間取りました」
服部さんは俺が背負っているものを見ると少し驚いて、次いでにやりと笑う。
「やる気ないんじゃなかったんすか~?」
「少しだけ気が変わっただけです。本気ではやりますが、全力は出さないです」
「ふ~ん、まあいいっす。それよりも今回は注意して欲しいっす。私も控えてるっすけど、もしもがあるっすからね」
なんだその不穏な言い回しは。
深く聞くと後戻りできなさそうなので華麗にスルーする。
控室の外から歓声が聞こえてくる。
どうやらもう入場の時間になってしまったらしい。
「さあ、皆さん行ってくるっす! 観客席で応援してるっすからね!」
「「「「「はい!」」」」」
俺達は控室から出ると少し緊張した面持ちで入場する。
(うわっ、凄いな・・・)
闘技場の様な円形の場内に入ると、まず目に入るのが頭上に浮遊している巨大なモニターだ。あれが俺たちが別空間で戦っているのをリアルタイムで映す道具だ。
そして次に目に入るのが圧倒されるような人の数である。目にした限りでは空席は一つもなく、それどころか立ち見の客までいるほどだ。
「「「「「「うおおおおおおおおーーーーーー!!!!!」」」」」」
観客の歓声が響き渡る。
あまりの迫力に、俺は全力で家に帰りたくなる。ちょっとは落ち着けよ。
『さあ! 才媛高校の選手達が入場して参りました!』
へえ、実況までいるのか。
俺の素晴らしさをどこまで説明できるのか楽しみだな。
『今回の対校戦はどうなっているのか! 才媛高校にも数値一万越えの能力者がいます! その名も七瀬 真鈴! 能力は【射手座】。その無慈悲な狙撃でどう活躍してくれるのか期待が高まります!』
七瀬先輩は恥ずかし気に頬を染めると観客に一礼する。
『そして彼らも忘れてはいけません! 数値九千越えの二人。【岩石破壊】の山田 祥吾と【水流操作】の林 京子!』
今の二人は三年の実力者だ。
自信あり気に手を振っている。
『才能溢れる数値八千越え、【分身形成】の沖田 寧々と【念動力操作】の由良 甜歌!』
ふふ、遂に俺の番だ。
どんな素晴らしい紹介をしてくれるんだ!
『最後は!・・・え?・・・これ、合ってます?』
何やら実況が混乱しているようだ。
どうやら俺の素晴らしすぎる経歴に動揺を隠せなかったようだ。
『コホン、えー最後の選手になります。数値『0』だが何か奥の手があるのか?! 正体不明のダークホース柳 隼人!』
あれ? 思ったよりしっかりした説明だった。完全に馬鹿にされるとばかり思ってたが。
しかし、いくら繕った言葉でも周りの反応は変わらない。
『え? それって無能力者って事?』
『おいおい才媛高校は優勝を諦めたのか?』
『無能力者なんて出してんじゃねーよ! 早く引っ込めろ!』
『あの子恥ずかしくないのかしら?』
『囮に使うんじゃないか?』
『それにあれ何背負ってんだ? 無駄なあがきしてんじゃあねえよ』
歓声があっという間に罵声、嘲笑、侮蔑に変わる。
あろうことか他校の選手までその顔を醜く歪め、俺を軽視しているのが見て分かる。
――その顔がいつまで続くか楽しみだ。
今回の相手は怪物ではなく人間だ。
であるならば能力数値はそこまで大きな意味を成さない。それどころか実戦経験の差を考えると俺の方が圧倒的に有利だと言えるだろう。
唯一俺が注意しなければいけないのは、奇襲しても武器がそれほど通用しない身体強化系能力者との戦闘は避ける事だ。
俺は笑い、あらゆる視線を浴びながら場内を歩く。
全員が揃ったことで、試合の準備が整った。
場内の中心部分に四校のメンバーが全員集まる。
全員俺を完全に舐めた表情をしている。
将来が心配になるが、今の俺としては有難い。俺を軽視すればするほど奴らを狩るのが楽になるからな。
『それでは試合開始です!』
実況の言葉を合図に俺たちは眩い光に包まれる。
光が収まり目を開けると、そこは場内ではなく木々が連立した森になっていた。
(今年は森林ステージか、運がいい。)
森林ステージは罠が見つかりにくい。
高原ステージにでもなっていたら相当きつかっただろう。
「すいません。俺は別行動でいいですかね?」
チームで行動するよりも、単独の方が何かと動きやすい。
それに俺は一緒に特訓している訳じゃないから、俺が居ると逆に邪魔になるだろう。
「うん? ああ、そうだな。君は自由にさせていいと服部さんが言っていたから構わないよ」
と答える山田先輩。
それは上々、ならば好き勝手させてもらおう。
バッグを背負いながらチームから離れていく。
さあ、どこから狩ろうか。
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