2話 いじめ
朝、雀の鳴き声とけたたましくなるパトカーのサイレンで目が覚める。
「・・・うっせえなあ」
二度寝したい欲求を抑え、ベッドから抜け出す。
制服に着替え、朝食を取るためにリビングに向かうと、もう既に蒼が食パンをくわえた状態でテレビを眺めていた。
「おぉ、お兄ちゃん髪の毛がサ○ヤ人になってるよ!」
「マジか、金髪に染めた方がいいか?」
「いや、いっそのこと青にしちゃおう!」
どうやら我が妹殿は神をお望みらしい。
「すまんな、今の俺ではレベルが足りん」
「え~ じゃあ紫でいいや」
「いや、何でだよ! 最早それは何者でもねえよ、ただのパリピだわ!」
「パリピを馬鹿にすんな! パリピにも人権はあるんだぞ!」
いや、なんでパリピかばってんだ?
お前もどっちかって言うと陰のもの・・・ではないな、こいつは違うは、絶対クラスでもお調子者で通ってそうだな・・・
「それよりさあ、お兄ちゃん・・・」
「ん?何?」
「時間」
くいっ と顎でリビングに取り付けている時計を指す。
そこには8時10分と表されていた。
ちなみにここから学校までは、歩いて15分。そして、始業のチャイムは8時20分である。
「やべえええ!!」
取り敢えず超速攻で髪を整え、鞄を手に家を飛び出す。
「行ってきます!」
「行ってら~」
◇
「ひゅ~ ひゅ~」
なんとかぎりぎり間に合った。
全身から汗を流しながら机にへばりつく。
校門前に双葉先生が目を光らせていたときは本当に死を覚悟したが、俺は試練を乗り越えたのだ。
合掌しながら、生きていることを蒼に感謝する。
あいつの忠告がなかったら確実に終わっていた・・・そう思うと途端に背筋に言いようのない悪寒が走った。
キーンコーンカーンコーン、と始業のチャイムが鳴る。
それと同時に、数学のつるつる先生(若竹 光輝 今年45才)が入ってくる。
まあ、なぜつるつると呼ばれているかはお察しの通りである。
本当に名前の通りで、当初はそれはもう爆笑したものだ。
「お前ら座れー じゃあ、一限目始めるぞ、委員長」
「起立、気をつけ、礼」
委員会の号令で着席して授業が始まる。
数分すると、どうにも瞼が下がってくるのを感じる。おそらく深夜遅くまでもふもふ達を鑑賞していたからだろう。
目を擦るも瞼が上がることはない。
完全に瞼が下がると、何やらズシンズシンとまるで巨人でも歩いているかのような音が聞こえてくる。
それも、どんどん俺に近づいてくる形で。
そして何故か、椅子に座っているはずの体に浮遊感が訪れる。
一体何事かと目をゆっくりと開く。
「ま、眩しい!」
瞬間、太陽と見間違うほどの光量が目に突き刺さり再度目を閉じた。
「ほほう、ここまでやってもまだ寝るのかお前は」
その言葉に、バッ! と目を見開き青くなった顔で声の主を視界に入れる。
そこには俺の首根っこを捕まえて、片手で持ち上げているつるつる先生がいた。
ばっばかな! さっきまで黒板の前にいたじゃないか!
「先生は転移が出来るんですか?!」
「・・・お前はいつから寝ていたんだ、そこまで熟睡出来るのもある意味才能だな」
「えっ、ちょっと、いきなり褒めないでくださいよ。照れるじゃないですか」
こそばゆくなった俺は右手で後頭部を掻く。
先生はそんな態度を見て何故か余計に青筋を立てている。
「廊下に立ってろ!」
そして廊下に立たされる俺。
「解せぬ」
まったく、なんで俺が廊下に立たねばならんのか。
その後も授業中に別世界に旅立った俺は、二限から四限までの全ての授業で廊下に立たされてしまった。
なに? 今時廊下に立たせるの流行ってるの?
どの先生も、やれ寝るなとかそんな正論ばかりだ。
昼休みになり、自販機で飲み物でも買いに行こうかと廊下に出る。
ちょうどその時、横のほうからパリピの声がした。
「おい落ちこぼれ! 俺様の飲みもん買ってこい!」
「俺コーラ」
「じゃあ、俺ソーダで」
金髪のパリピ一号に続き、赤髪の二号とちょいデブの三号がオーダーを出してくる。
ちなみに名前はどうでも良すぎて忘れてしまった。
わざわざ他人の飲み物を買いに行くのは面倒くさいので、少し嫌な顔をすると金髪パリピ君がいきなり俺を蹴り飛ばした。
「おいおい嫌なんて言うわけねえよな! 俺様の数値は5058だぞ! てめえみたいなごみカス無能力者は一生俺様の奴隷として生きていればいいんだよ!」
すげえ、言い切りやがったよこいつ。
ちなみにパリピ君の数値はそこそこ高い、まあ本職の特殊戦闘部隊は五桁言ってるやつらとかばっかりらしいからそれとは比べようもないが、学校という極めて小さい範囲ならば上位に位置するし、いずれは厄介な怪物にも対抗できるほどの戦力になるかもしれない。
周りの生徒たちは関わり合いになりたくないのか、目線をそらしたりできるだけ距離をとって遠目に眺めている。
俺は別に彼らを責めない。
面倒ごとに巻き込まれようとするやつなどただの馬鹿だ。
その点、それを理解している彼らはこれから上手く生きていけるだろう。
「ああーはいはい、わかったよ」
俺は立ち上がると面倒だが奴らの分の飲み物を買いに自販機に行く。
あいつらに言い返して面倒ごとになるのもだるいし、こういうのは黙って従っていたほうが楽なのだ。
自販に着くとパリピ君たちの飲み物を買っていく。
「はあ~」
思わずため息を吐く。
帰ったらポメラニアンの動画を見ようと固く決意した。
帰ろうとすると、後ろから声を掛けられる。
「あなた、またそんなことしてるの?」
振り返ると、そこには真っ白の長髪と金色の瞳を持つ女生徒がいた。
俺を見つめるその瞳はまるでごみでも見ているようで、新しい性癖に目覚めてしまわないか不安に思ってしまう。
「七瀬さんには関係ないだろう?」
彼女の名前は七瀬 真鈴。
一つ上の二年生にして、この学園最強の能力者だ。
その数値は驚きの11200、その年にしてこれほどの力を持っている彼女は将来超有望だ。誰かさんとは比べるのもおこがましい。
「なぜ教師に言うなり誰かの力を借りようとしないのかしら?」
「それで終わるほど簡単じゃないよ」
そう、たとえあのパリピ野郎がやめたとしても第2第3のいかれ野郎がでてくるだろう。
人は自分より下の者がいることで幸福感を得る醜い生き物なのだから。
数値0とはそれほどまでに彼らにとっては格好の餌なのだ。
今時数値が0の人間なんて俺以外にはもういないかもしれないな。
ある程度で能力が開花した者がほとんど、そして怪物に殺されたもの、最後に生きることに疲れて自殺したもの。もうこの近くでは数値0は俺しかいない。
「そうやって弱者のままでいようとするあなたの生き方・・・本当に嫌いだわ」
「どうぞご勝手に」
彼女はそういうとどこかへと去っていく。
俺も教室に戻ると遅いからとパリピ軍団にぼこぼこにされた。
彼女と喋っていたからだというのに、解せぬ。
22:00に3話目投稿します。