191話 ロシアの異変
十三章開始です!
今回の主役は序列四位シャルティアさん(*´▽`*)
時間は隼人がオーストラリアに行く当日に巻き戻る。
「やはり、ここは寒いですね」
息が白く染まる。舞降る雪はひどく冷たかった。
マフラーを巻きなおしながら私の祖国であるロシアに足を踏み入れる。
腕時計を確認すれば午後5時を指している。
待ち合わせまではまだ時間があるが、内容を考慮すればできるだけ早く向かった方がいいと判断し、移動を開始する。
冬に入り少し暗い空、変わらない街並み、走り周る子供達。
一見して何も変わらないが、
(気持ち悪いですね)
視線を感じる。
男性が女性に向けるようなものとも違う不快な感覚。
どう表現すればいいのか分からないけれど、例えるなら捕食者が獲物を狙うようなものに近い。
感じる視線に顔を向ければ、買い物帰りだろうか、楽しそうに親子で手を繋いで家に帰る家族の姿があった。
その楽し気な光景は決して演技には見えない。
「・・・・・・急ぎますか」
視線を切ると、足の速度を上げて待ち合わせの場所に急いだ。
予定時刻の一時間前、既に相手の人物はそこにいた。
オーバーサイズのパーカーを着て、フードを深く被っている女性。
雪の降る空の下、ベンチに座っている姿はもの寂しく見える。
寒くないのかと思ったが、彼女には気候はあまり関係ないものであることを思い出す。
「お待たせしました。お久しぶりですね、アンネ・クランツ」
アンネ・クランツ、絶対者であり序列三位の自他共に認める最強格。
彼女は操作していたスマホをしまうと、私を見上げる。フードの中から覗く赤い瞳が私の姿を映すと、彼女はそっと立ち上がる。
「久しぶりだな、シャルティア。子守り中に呼び出して悪かったな」
「いえ、そちらの方はソフィア・アンティラがいるので問題は・・・・・・おそらくはないでしょう。それよりもまずは移動しましょうか。少し先に私の家がありますので」
ここで話せるような内容ではないでしょう。
であればセキュリティの完備している家が最適なはず。
横に並んで歩いていると、アンネ・クランツがそっと小声で問いかける。
「シャルティア、私の言いたい内容、なんとなく気付いているか?」
「ええ、おそらくは」
「それならいい。いや、気のせいであった方が良かったかもしれないが」
その後は一言も喋ることなく家に向かった。
その間、無数の視線を受けながら。
程なくして家に到着する。
鍵で玄関のドアを開け、アンネ・クランツをリビングへと通すと、私は家の中を確認する。全ての部屋を確認し、異変がないかを確認する。
「大丈夫のようですね」
ひとまず安全な場所があることに安堵する。
二人分の紅茶を用意し、リビングの机を挟んで向かい合う形で座る。
「確認は終わりました。用件を話しても問題ないでしょう」
私がロシアに戻ってきた理由。
それはアンネ・クランツからあるメールを受信したからだ。
簡単に内容を要約すれば、“ロシア全土で問題が起きている。厄介な怪物が新たに出現した可能性あり”というものだ。
「シャルティアも気付いているだろうが、明らかにおかしい視線を感じる」
「はい。しかし、それだけではまだなんとも言えませんね。どこかの組織が不穏な動きをしている可能性の方が高い」
「確かにな。組織の可能性もあるだろう。というか私としてはそっちの方が楽でいい。この事態を怪物が起こしているとは考えたくないからな」
彼女は私がいない間のロシアでの話を語り出す。
ある一日、大通りに屋台が開かれていたらしい。
店主をしていたのはどこにでもいる普通の中年。匂いに釣られて彼女は屋台で焼き鳥を購入した。
店主の男は相当なおしゃべりだったようで、無口なアンネ・クランツにも色々と喋りかけた。どれだけ時間が過ぎたかは分からないが、ようやくお喋りが終わった店主に会計を済ませてアンネ・クランツはその屋台を後にする。
『じゃあな嬢ちゃん! また今度も来てくれよ!』
『・・・・・・まあ、気が向いたら』
そんな会話をして別れた。
異変はその翌日に起こった。
軽く街を歩いていたアンネ・クランツが偶々前日と同じ道を通って帰った時、その日も屋台が開かれていた。
店主は置いておいて、焼き鳥は非常に美味しかったため、その日も屋台に足を運んだ。
『おっ、可愛い嬢ちゃんだな! 要望はどれだい?』
おかしな一声だった。
まるで初めて会ったかのような言いぶり。そして、店長の目だ。前日には感じなかった不快な色がそこにはあった。
『・・・・・・おっちゃん、昨日と同じので頼むよ?』
『ん? 嬢ちゃんは昨日も来たんだっけか? あぁ、確かにそんな気もするな。すまねえ、何分お客さんが多くて忘れちまってた』
『まあ、別に長々と話をした訳じゃないからな。でも店長は最近腰が痛いと言っていたが大丈夫か』
ここでアンネ・クランツは二つほど事実とは異なることを言った。
一つは長々と話をしなかったという点。そしてもう一つは店長の腰が悪いということ。これは前日に店主がようやく腰が治ったと喜んでいたことを思い出して発言したものだった。
それに対しての返答は、彼女にとっては案の定、そしてそうであっては欲しくなかったというもの。
『ははっ、まだ治らなくてな~ 整骨院にでも行ったらいいのかね?』
『・・・・・・そうか。そうかもしれない。ちなみにおっちゃんはどこに住んでるんだ?』
明らかに前日の店主とは違った。
姿かたちが同じだけの別人だ。ただ、所々本人と同じことを発言もしていたため、記憶が混濁している可能性もある。
その翌日。
店主から聞き出した家の方向へとアンネ・クランツは向かった。
もしも、精神系の能力者による犯行であったならその者を叩けば済むだろうと判断しての行動。
しかし、ことはそう単純ではなかった。
前日に店主から感じた視線を受け、店主が近くにいるのかとそちらに視線を向ければ、風船を手にした小さな女の子が立っていた。
「は?」
その女の子はなんでもないようにその場を通り過ぎていく。
それでも視線を感じる。いや、時間が経つにつれてその数は増えていった。
明らかにおかしい異変。
他の地域ではどうなっているのかと電車に乗りロシア内を回ってみたという。
『どう、なってやがるッ』
結果は、何処も同じだった。
子供から大人、老人に至るまであらゆる存在から同じ視線を感じた。
普通の様子の民間人も当然いる訳で、アンネ・クランツが特段目を引くようなことはなにもないはずだった。
今まで通りだったのは、外にいる猫などの小動物だ。
「これが私だけ感じるものだったなら別の可能性もあったが、お前も同じように視線を感じた。ならばもう思い過ごしじゃねえ。ロシアは今、なにものかによる攻撃を受けている」
「・・・・・・精神系、それとも支配のような能力でしょうか?」
「どちらにせよ、私は国全土に手が伸ばせるような能力者を知り合い以外に知らない。そいつらがそんなことをする奴等ではないことも知っている。だから怪物の可能性が高いと判断したんだ」
だとすれば、もしも相手が怪物であったなら。
国をこれほど巻き込んでいる状況を考慮すればSランク以上は確実。最悪その上である事も考えられる。
しかし、それだけの怪物が出現したのならロシアの特殊対策部隊が気付かないはずがない。
「本体が見えるなら確実に殺すことができるだろう。ただ、今回はどうやら毛色が違う。お前にはそいつを引き擦り出すのを頼みたい」
「分かりました。少し古巣に戻って情報がないか確認してきます。今日の所は準備を整えましょう」
窓の外では嫌な風が吹いている。
日本に戻るのは少し遅れそうだ。
今回の敵は、ヤバ目です・・・・・・





