19話 少しの変化
誤字報告と感想大変ありがたいです(o^―^o)
翌日の放課後。
服部さんに言われたとおりに修練場に向かう。
どうやら俺が一番だったようで中にはまだ誰も来ていない。
少し間をおいて、まず七瀬先輩が修練場へとやって来た。
彼女は俺に少しだけ視線を移すと鋭く睨みまた視線を別の場所に移す。
やはり彼女は俺の事が嫌いなようだ。もしかしたら今回の事も何かしら不正をしたとか思われているのかもしれない。
時を待たずして、他のメンバーも到着する。
最後に何故かバッグを背負いながら服部さんが来て全員が集まった。
「今日皆さんに集まってもらったのは、対校戦までの二週間ここで特訓をする為っす!」
「特訓とは?」
七瀬先輩が尋ねる。
おそらく実戦だろう。能力をいくら鍛えても実戦で使えるとは限らないからな。
だがたったの二週間でどれだけ成長出来るのか。これは五人のやる気に委ねられる。
俺はやる気ゼロなので皆には是非頑張ってほしいものだ。
「内容は皆さん対私の模擬戦っす。全力で能力を使っても全然大丈夫っすよ!」
服部さんの言葉に驚いた表情を浮かべる五人。しかし、その顔はすぐに納得の表情へと変わる。体育館での彼女の能力数値を見たからだろう。
まあ実際は大丈夫どころかこちらの完全な力不足なのだが・・・
「ふふふ、そして今日は何と! 他校のメンバーの情報まで持ってきたっす!」
と、どや顔でバッグから紙束を取り出す。
何故バッグを持ってるのか不思議だったが、資料が入ってたのか。
全員の手に資料が配られる。
「こりゃあヤバくねぇか?」
「いつも以上に厳しいですね・・・」
「真鈴! 強敵ばっかりなんだけど!」
「ええ、私も驚いたわ」
「・・・・・・」
資料に目を通すと口々に感想を言い合う。
いや、一人黙ったままだが。
正直俺も内容に少し驚いた。例年よりもレベルが高いのは勿論だが、その中でも飛びぬけて目立つ学校が一つ――雲流高校。
この学校の選抜メンバーには能力数値一万越えが四人いた。
その内の一人はもうすぐ二万に到達するレベルだ。
つまりこの学校最強の七瀬先輩クラスが四人もいることになる。
こちら――才媛高校の戦力は七瀬さんを筆頭に一万以上が一人に九千が二人、八千が二名、そして哀れな数値『0』が一人。
・・・圧倒的に不利だ。
特にこの『0』の奴が論外だ。今すぐにでも選抜メンバーから降ろすべきである。
「あの服部さん、やっぱり――」
「はーい、柳君はお口チャックしてくださいっす」
・・・俺には発言の権限すらないらしい。
服部さんからは有無を言わせぬ目を向けられる。
俺が何をしたというのか・・・精一杯の反抗として服部さんのセクシーポーズを妄想しておく。
・・・残念。可愛いさはあるが、胸の戦闘力が足りずにセクシーとは言えないな。
「彼らに勝つには個々の実力を伸ばすよりもチームワークを優先するべきと思うっす。なのでこれからの二週間で団結力を高めて、私に一撃入れるくらいにして欲しいっす!」
「「「「はい!」」」」
いや、無謀すぎるだろ。
服部さんはおそらく身体能力強化系の能力者だぞ。操作系や生成系の能力者ならともかく肉体を強化しているスペシャリストに素人が攻撃を当てられる訳がない。
「そして柳君っすけど、君は自由にしてもらっていいす」
「え? いいんですか?」
「はい。別に教える事がないっすし」
よっしゃ! 即行で家に帰るぞ~
と一転笑顔になり修練場から出ようとする。
出口に差し掛かった時、
「納得いきません!」
そこで後ろから七瀬さんの不満の声が聞こえてきた。
「何故彼なんですか! 対校戦に出る為に努力してきた者や明らかに彼よりも実力がある者がいる中何故無能力者の彼がメンバーに選ばれるんですか!」
全くもって正論だ。
俺も出来る事なら出たくなどない。
「体育館でも言ったすけど、実力っすよ」
「それが信じることが出来ないんですよ! 彼はいじめられたとしても反撃の一つもしなかった。それは彼に力がないからでしょう?!」
「彼には彼の信条があるんすよ」
七瀬さんは自分が間違っているとは思わないのか、意見を改める様子はない。あとの四人も七瀬さんと同じ意見なのか納得できない様子だ。
この話は平行線だ。
服部さんは俺が無能力者ではないことを知っており、反対に他の者は知らないのだ。
両者の知りえる情報が違うのに意見が合うことはありえない。どちらも正しいのだ。
俺はその様子を見届けた後、今度こそ修練場を出た。
◇
一週間後、対校戦まで残り一週間の今日。
「あっどうも」
「・・・」
昼休みに自販機に向かうと運悪く七瀬先輩と出会う。
その隣には先輩の友人が一緒がいる。その友人もどこかで見た気がして記憶を漁ると選抜メンバーの一人だということに気づいた。確か、沖田 寧々という名前だったと思う。
気まずい空気が流れる中、俺は耐えきれずに教室に戻ろうと踵を返す。
「待ちなさい」
凍えるような声が俺を呼び止める。
後ろを振り返ると仁王立ちで佇む先輩とその後ろには雪女が幻視出来る。
まさか・・・スタ〇ド使いとでも言うのか・・・ゴクリ。
・・・俺はここで殺されてしまうかもしれない。
「は、はい」
震える足を必死に動かし先輩の近くへと移動する。
沖田さんも七瀬先輩が怖いのかあらぬ方向を向いて口笛を吹いている。
この役立たず! 哀れな俺を助けてくださいよ! ここで死んだら先輩の胸がしぼむ呪いをかけてやるからな!
「服部さんがあなたに目をかける理由は分からないわ。でもね、この対校戦で手を抜いたら・・・その時は本気であなたを許さないわ」
「い、いや、俺は無能力者ですよ? 何もできないですって」
「何も成果を出せとは言わないわよ。本気でやれって言ってるの」
う~ん、本気なんて出すつもりないんですけど・・・
それになんでここまで先輩は必死なんだ?
「先輩は何か戦う理由があるんですか?」
先輩が眉が少しひそめる。
踏み込んだ内容だったのか。誤魔化そうと口を開く前に先輩が言葉を紡ぐ。
「・・・妹が病気なのよ」
「病気ですか?」
「ええ、かなり特殊な病気らしくてね。それを治療する為に必要な金額は莫大。私はその為にお金を稼がなくちゃいけないの」
・・・なるほどな。
確かに特殊部隊になれないにしても、街を守る戦闘部隊や企業の用心棒にでもなれば貰えるお金は普通に働くのとでは天と地ほどの差がある。
そして今回の対校戦には様々な企業の重鎮も見に来る特別なものだ。ここで成果を出せばオファーもくるかもしれない。先輩にとってこの対校戦はお遊びではなく、命がけの行事になるわけだ。
「お金の為だなんて軽蔑したかしら」
「いえ、人々を守るなんて綺麗ごとよりはよほど信用できる理由です」
「・・・そう」
先輩はそう言うと元の道を戻り始める。沖田さんも慌てて後ろに付いている。
沖田さんはもうその事は知っていたのか驚いた様子はなかった。二人は親友なのかもしれない。
・・・ああ、聞かなければよかった。
聞かなければ普通に終わることが出来たのに・・・
次話から対校戦です!