185話 決意
前話でちょっとミスしてるみたいですね。
報告感謝です! 今日、明日で修正させていただきます(*´▽`*)
少女、蒼と同い年のように見える少女だ。
褐色の肌に、闇夜に溶けるような紫の髪は足まで届くのではと思う程長く、風に煽られて靡く。首にはペンダントをかけているが、見たところなにかの力が作用しているもののようだ。
(・・・・・・まるで姿が変わっていない。しかし、そんな事があり得るのか?)
黒騎士出現時から変わらぬ姿という事は、やはり奴となにかしらの繋がりがあると考えるべきだろう。
「あなたが、キャロル・ベルですか?」
彼女の見た目で殆ど確信は持っているが、一応の確認の為に名前を尋ねる。
一瞬呆けた顔を浮かべた後、微笑を浮かべ少女は肯首した。
「名前で尋ねられたのは久しぶりだわ。なにせ可笑しな異名の方が有名なものだから」
「まあ確かに、世界中で知らない人はいないでしょうね」
「それで? 少年の名前はなにかな。私だけ知らないのはおかしいよね?」
「柳、隼人です」
「へぇ、日本人かな? 珍しいね。何をしに来たのかは、まあ聞かなくても分かるけれど」
少女は笑みを崩さない。
俺が来た理由が分かっているのなら、少なくとも現状が危険な状態だという事は理解できているはずだ。
黒騎士となにかしらの繋がりがあるならば、彼女を殺せば奴も死ぬ可能性がある。
あの厄介な不死性を考えれば、それが最も楽な選択かもしれないのだ。
だが、俺に目の前の少女は殺せるかと言われれば、無理だと答える。
何も知らないのだ。善か悪かも分からない相手を、希望的観測を交えた予想で殺す事は流石に躊躇する。
「ふふっ、あなたは考えている事がすぐ顔に出るみたいね。でも、その葛藤は無意味だと思うわよ」
「どういう事ですか?」
「私は死なないから」
少女は視線を月に移し、どこか儚げな雰囲気を出しながらそう言った。
「焼死、溺死、圧死、毒殺、大量出血その他諸々、全部駄目だったわ。この肉体はどんな傷でもすぐに再生する」
「まさか、全部試したんですか・・・・・・」
「ええ。当時はまともな判断は出来なかったから。でも、なにをやってもどうにもならないから、十年ぐらいで諦めたけどね~」
何度も自害を試みるなど、狂気の沙汰だとした言いようがなかった。
どれだけの時間が経てば今の彼女になるのか。
穏やかな笑みを浮かべている姿からは、当時の姿は思い浮かばない。
「ねえねえ、そんな事よりさ。外は今どれぐらい発達してるのかな。猫型のロボットがいたりする?」
窓から飛び降りた少女は身軽に飛び降りると、目を輝かせてそんな事を尋ねてきた。
「ど、どうでしょう。スマホとかはありますが。猫型ロボットは・・・・・・いや、二位なら創ってるかもしれないですけど」
「本当にっ?! ほぇ、たった数十年でも凄い進歩するのねえ」
「あっ、触ってみます?」
ポケットからスマホを取り出しキャロルさんに手渡す。
瞳を輝かせながらスマホを触る彼女は、感嘆の声を零しながらしきりに頷いていた。その姿は、本当に無垢な少女にしか見えない。
「・・・・・・外に出て見ますか? 俺なら姿を変える事が出来ますよ」
キャロルさんがここに居続ける理由が黒騎士の発生によるものなのだとするなら、それは彼女の意思とは無縁のもののはずだ。ならば贖罪の必要はない。ここに居るのは筋違いだと思った。
しかし、彼女は首を横に振る。
「それは無理だよ」
「あなたがここにいる必要はッ」
「違う違う。私がここにいる理由は、彼から人を守るためよ」
「彼?」
う~ん、そうだな~とキャロルさんは首を傾げながら、昔の話だと一言前置きして、ある話を語り出した。
「彼、えっと黒騎士と呼ばれてるんだっけ? 黒騎士が出現した当初ね、その時はまだ西部とを分ける壁がまだ無かったころ。家族の仇を打ちにそれなりの人達がここに来たことがあったわ」
壁の建造にかかった工期はおよそ一月を要したと言う。
その間であれば、警備の目を掻い潜って一般人でも西部に侵入する事が可能だった。
彼等はまともな判断が出来なかったのだろう。
ただただ、家族の仇を打ちたいという一心で足を踏み入れたに違いない。
その要因の一つは、おそらくパースの魔女も含まれているはずだ。
仇は二人。その内の片方は人間で、力もまともにない少女であると広まったのだとすれば、例え黒騎士は無理でも、と思ったものは少なくないだろう。
そして彼等は幸か不幸か、キャロルさんを見つけ出す事に成功する。
「全員目が血走っていた。怒声を吐き散らして脇目もふらず襲い掛かってきたわ。でも、別に良かったの。私は生きる意味が分からなかったから、自分の命で彼等の鬱憤が晴れるのならばそれでいいと思った。けれど・・・・・・」
彼等の攻撃は届かない。
突如としてキャロルさんを守るように黒騎士が姿を現したからだ。
その後、黒騎士はキャロルさんを囲むようにして武器を構える市民を皆殺しにし、キャロルさんにはなにもせずに姿を消したという。
「それが都合四度。流石にここまで続くと、彼が私を守る為に姿を現しているのだと分かった。これが私がここに居る理由」
キャロルさんがもし壁を越えて、それでなにかしらの危機が訪れたのなら。
ここで起こった事が次は東部で起きるという事。
そして現状、黒騎士を確実に屠る策は存在しない。
つまるところ、彼女が壁を越えれば最悪オーストラリアという大陸が滅びる訳だ。
「だから私はいいの。ここで綺麗な薔薇でも育てて――」
「黒騎士が消えればいいですか?」
「え?」
子供を諭すような言葉を途中で遮る。
そんな言葉が聞きたかったわけではないのだ。俺はありのままの事実だけを聞きたい。
それを聞いて、叶えなければならない未来を掴む力が俺にはあるはずだから。
「い、いやいやっ! 絶対戦ったら駄目よ! その年齢で特殊対策部隊になれたからって調子に乗れる相手ではないの!」
「調子には乗ってませんよ。ヤバかったら逃げますし」
「逃げるって・・・・・・」
うん、まあ車椅子の恰好で言っても説得力は皆無かもしれない。
キャロルさんはそのまま真剣な表情で俺の肩を両手で強く掴む。
「聞きなさい。私は一度黒騎士の本気の戦闘を見た事があるわ。戦っていたのは多分、絶対者と呼ばれていた人なんだと思う。まさしく、次元が違う戦いだった」
「えっと、それって最近の事ですか?」
「いえ、数十年前の話よ」
という事は、もしかして死んだ神か?
最近であれば絶対者三人が出てきたが、それより前の記録には絶対者の戦闘は無かったはずだ。
「最初は絶対者の人が圧倒していたわ。でも、私がこのまま黒騎士を倒せるのではと思ったのも付かぬ間、黒騎士の様子が変化した。最終的に立っていたのは、黒騎士」
「・・・・・・様子が変化、ですか」
額から冷や汗を流しながら言う言葉には強い緊張感が含まれていた。
これは、嫌な予感が当たったかもしれない。
神は性格的に撤退が出来なかった訳ではなく、様子が変化したという黒騎士から逃げられなかったという可能性が大きくなった。
「分かるでしょ。世界最強だと言われている人達でも勝てないの。絶対に戦ってはいけないわ。あなたには帰りを待っている家族がいるでしょ?」
「・・・・・・そうですね」
自分にはそんな人はいないから。と続くだろう言葉に若干の苛立ちを覚えた。
あなたを守ってくれていたというお婆さんの姿が一瞬だけ頭を過ったから。
「分かったのなら早くここを離れる事をお勧めするわ。彼が来るかもしれないから」
「では、最後に一つだけ聞いてもいいですか」
「なにかしら?」
この様子だと何を言ってもまともに聞いてくれなさそうだと判断し、一つだけ質問をする。
「あなたの望みを聞いてもいいですか」
全くそんなものは考えなかったとばかりの表情を浮かべる彼女は、眉を寄せてしばし考える。そして数分が経ち、ようやくその口を開いた。
「そうね。もし、もしも彼を倒せたのなら。私という呪縛から解放してくれたのなら。・・・・・・その次は私もお願いしたいわ。ねぇ、小さな希望君。その時は私を殺してくれる?」
屈託のない笑みで、なんの未練もないという姿に、俺は無意識に口を一文字に結んで拳を握っていた。
その問いに俺は答えなかった。答えられなかった。
ただ、決めた事。
――明日、俺は黒騎士を討伐する。
皆さん、180秒で君の耳を幸せに出来るか?はもう聞きましたか?
・・・・・・ヨキでした(*´▽`*)
 





