180話 様子見
雨の被害が相当なようで、皆さんは大丈夫ですか?
ヤバいと感じたら避難です!(>_<)
視界が開けた先に見えたのは、一棟の建物だ。
目測百メートル程で十数階から出来ているのだろうそれは、オーストラリアの特殊対策部隊の本部だ。
オーストラリアの都市アリススプリングス、地図で見れば北寄りに近い中心部に佇むこの本部は、あらゆる場所で発生する怪物に即座に対応できるようになっている。
【黒騎士】が西部から動くという可能性を考慮し、他国からの救援がくるまでの防波堤という面もある。
故に、建物は非常に堅牢で生半可な攻撃では通用しないとか。
「やはり日本とは違い暖かいな」
上着を一枚脱ぐ。
日本は冬だが、南半球にあるここは今は夏だ。もっと薄着を着てきた方が良かったかもしれない。
「日本との時差っていくつでしたっけ?」
「およそ一時間程ですね。日本の方が時間の進みが遅いので、こちらは午前九時を回ったところになります」
朝早くからご苦労様です。
これで倒せませんでしたなんて事になったら申し訳なさ過ぎるな。
「それでは、中にご案内しますね」
「あ、はい。お願いします」
ロアさんは案内役としても仕事を任されているようで、俺を中へと先導する。
館内に入れば、やはり一般的なものとはかけ離れたものが散見出来る。
なんちゃら都市にあるようなお掃除ロボットが廊下を駆けまわっているわ、おそらく怪物の死骸から作られたであろう武器が飾っているわで、ぱっと見博物館だ。
「滞在の間はこちらの十三階にあるホテルルームに泊まって頂く事になりますがよろしいでしょうか?」
「大丈夫ですよ。いやぁ、なにからなにまでありがとうございます」
「いえいえ、お礼を申し上げるのはこちらの方ですよ。私共ではあれの対処は不可能と言わざるをえませんので」
軽く話しながら十三階へと移動する。
廊下を移動し、俺の数日世話になる部屋に通される。
(おぉ、VIPって感じだな)
くつろぐ空間に敷かれた赤いカーペット、高そうなソファー、大理石の床。
うん、なんか凄そうだ! まあ普段の生活が平凡だからなんでも凄いと思ってしまうんだけどな。
「そう言えば、こちらの部隊の方は今どちらに? 姿を見かけませんが」
「おそらく怪物の掃討に向かっているのかと。近頃はCランクなどの怪物の発生も頻繁になってきましたからね。申し訳ございません。本来であれば、誰かしらが柳様に【黒騎士】についての情報を伝えるはずだったのですが」
「いえいえ! 緊急性が全く違うので皆さんの判断は正しいですよ。それに、俺は自分の目で確かめる方が性に合ってますので」
「そう言って頂けると大変ありがたいです」
「なので、今から【黒騎士】を見に行きたいので、一番近い場所に転移出来ますか?」
「はい、分かり・・・・・・え、今からですかっ?!」
驚き目を見開くロアさん。
傍から聞けばおかしい台詞に聞こえるらしい。
怪物の脅威を身近に感じながら数十年と過ごしていたなら尚更か。ロアさんの歳なら生まれた時から【黒騎士】は居続けただろう存在のはず。
本来の脅威以上の敵だと判断していてもおかしくはない。
「し、しかし、まずは準備などを・・・・・・」
「まだ準備を出来る段階じゃないですよ。大丈夫、少し様子を見てくるだけですから」
「様子を見る、ですか。そ、それなら」
ロアさんは俺の台詞を遠巻きから確認するという意味合いでとったのか、悩みながらもなんとか頷いてくれた。俺の中での様子見は軽い手合わせも含まれているが、それは言わない方が良さそうである。
彼女の気が変わらないうちにさっさと近くまで転移能力で飛ばしてもらう。
「ほぅ、頑丈そうですね」
部屋から転移してきた場所には巨大な壁が反り立っていた。
「この壁は西側とこちらとを隔離する境界です。間違えて踏み入らないように、そしてあちら側からの侵入を拒む為に建てられました」
頑丈そうには見える。
しかし、SSランクに対する対処だと考えればただの金の無駄だろう。奴等はこの程度の障害であれば紙屑のように消し飛ばす。
とはいえ、一分ではなく一分一秒を稼ごうとしての政策であると考えれば間違ってはいない。
ロアさんは俺から少し離れると、警備員のような人達に近付き事情を説明する。
通行の許可が下りたのか、すぐに俺の元に戻ってくる。
「許可が下りましたので、この先の移動も可能になりました。ただ、私に関してはこれ以上先にはいけないので、柳様のみの移動になりますがよろしいでしょうか?」
「はい。じゃあ、ちょっと散歩に行ってきますね」
「私もこちらの方で待機していますので、帰りの際はお呼びください」
見送られながら壁に取り付けられた扉をくぐり抜ける。
景色は一変し、月以外の光が存在せず、音がない世界はまるでゴーストタウンのようだ。
周囲を確認しながら車椅子で移動を始める。
「風が気持ちいいな。すぅ~はぁ~」
いい風が吹いている。
喧騒が全くない場所も偶にはいいかもしれない。久しぶりに気分転換が出来ている気がする。白骨死体などは完璧スルーだ。黙祷だけして移動を続ける。
「おっ?」
かなり移動した先で、珍しいものを見つけた。
建物にめり込んだ形で息を引き取っている怪物の姿があった。体長はそれなりに大きく、5メートルはある。
「Bランクのやつじゃねえか。ここには誰も踏み入らないって事は【黒騎士】がやったって事か? う~む・・・・・・」
怪物が怪物を殺す。
無い、訳ではない。ただしそれは一定以上の知能を有する怪物においてである。知能の低い者同士では基本的に殺し合いは起こらない。
データで見た限りでは黒騎士にそれだけの知能があるとは思わなかったが、俺の思い違いの可能性が出てきた。
次に出てくる疑問としては何の為に排除したのか、だが。
「やっぱり居るんかね、魔女さん」
守護すべき対象に害を及ぼすと考えて排除したというのは考え過ぎだろうか。
こんな場所で少女が何十年と生き続けられるとは思えないが、少女は少し不思議な体質を持っていたと聞く。可能性はゼロではない。
考える像となっていると、ふとなにかの領域に踏み込んだ事に気付いた。
顔を上げる。開けた広場だ。
邪魔な建物が無く、少し見渡せば一直線に建物が消し飛んでいるという不可思議なものも見える。
なによりも、広場の先に立っているそれ の出す覇気が、俺の意識を強引に現実に引き戻す。
距離は百メートル程。
しかし、やつの能力を考えればその距離はゼロと変わらない。
『怪物の反応を検知しました。速やかな排除を推奨します』
「分かってる分かってる。というかそこは速やかな退避を推奨してはくれないのか」
俺の周りはどいつもこいつもドエスな連中ばかりだ。ついには機械までそちら側に参戦するとは思わなかった。
「よっこいしょと。お前は離れた場所に移動してくれ」
『了解しました』
車椅子から降りて地面に胡坐をかいて座る。
半分冗談で車椅子に退避を促すと、すぐにその場を離れて何処ぞへと移動してしまった。なんなんだあいつは。
「ま、いっか」
漆黒の騎士が地面に突き刺していた剣を抜く。
(あれには触れない方がいいだろうな)
感覚的なものだが、本能が危険を訴えてくる。
呪具か神器か。どちらにせよあれの攻撃には注意だ。
「じゃあプランA。足が使えないのならそもそも使わなかったらいいじゃないか作戦を決行するか」
もう少しプラン名を練ればよかったと後悔しながら能力を発動する。
「位階上昇――舞い踊れ、武御雷」
闇に浸かった都市に紫電が踊り落ちる。
周囲に紫電の残滓が舞い落ちる幻想的な光景の中、俺は着物の襟を正しながら腰の刀の柄に手をかける。
「じゃあ、殺るか」
【黒騎士】の頭部の目の部分に紅が灯る。
瞬きを一つ。
気付けば、俺の正面に姿を現した騎士が剣を振りかぶる。
さて、初戦ですね!
・・・・・・ちなみに今日は私の誕生日。
心の中で祝って頂ければ嬉しいな(*´▽`*)





