179話 いざ出発
ふぅ~ 間に合った(*´▽`*)
翌朝、支度を済ませたシャルティアさんを見送る。
泣きじゃくる二人と呆れるシャルティアさんの表情に思わず笑ってしまった。
「行かにゃいで~!!」
「すぐに戻ってくると言っているでしょう!」
引っ付く二人を引き剥がし、なんとかシャルティアさんを無事に見送った。
恋人と離れる事になったワンシーンを見ている気分だ。三人だからかなり複雑な関係だろう。
「ご飯が・・・・・・」
「蒼、これ渡しとくわ」
ゾンビのような足取りで部屋に戻ろうとする蒼を引き留め、ある物を渡す。
「えっ、これなに?」
怪訝な瞳で蒼が受け取ったそれは、小さな骸骨が先に付いたネックレスだ。
俺が昨日の夜に作り上げたもので、効果は変な虫が付かないようにするための防衛グッズである。
「なんだかおどろおどろしいオーラが見えるんだけど」
「気にするな、体には害はない・・・・・・はずだ」
「そこは最後まで言い切って欲しかったぞこの野郎」
そう言いながらも、その場でネックレスを首から下げてどや顔を炸裂させる。いかにも似合っているだろうというのが顔に書かれていて頬を引っ張りたくなる。
「ふっふっふ~ こんなセンスの悪いネックレスでもこの蒼様が付ければ宝石になるのだ!!」
「似合ってる似合ってる、それはずすなよ」
「ひどくない。妹が誉め言葉を求めてるのにそんなおなざりな台詞で許されるとでも思ってるのですか」
「知らんわ。それよか、俺も三、四日程家空けるから。ソフィアさんと留守番しててくれ」
「えっ、聞いてないよ!!」
「ボクも聞いてないよ?!」
隣からソフィアさんも参戦する。
頬を膨らませて怒っている様だ。傍から見たら可愛いとしか思えないが。この人は本当に俺より年上なんだろうか。
「君、自分が狙われている自覚ある? ボクも付いていくよ!」
「いえいえ、場所が場所なので誰も近寄って来ませんよ」
俺を殺すよりも【黒騎士】が危険過ぎて近寄れないはずだ。
敵さんも三つ巴の確実性のない戦闘は流石にさけるだろう。まあ、来たら来たで両方叩きのめせばいい話だ。なにも問題はない。
それよりかソフィアさんにはここで蒼を守っていて欲しい。
俺が離れているのがもしも外部に漏れでもしたら、頭の螺子が外れた連中が近づいてくるかもしれないからな。
「えぇ? そんな場所あるかな~?」
「すぐに帰ってきますし心配無用です。俺もそろそろ出るので、家の事お願いしますね」
「もう出るの?!」
「そ、そんな~!」
二人がふにゃりと廊下に倒れ込んでいる間に、用意しておいた荷物を手に持って玄関に戻る。荷物と言っても、スマホや黒手帳ぐらいなので大したものではない。
「じゃ、行ってきます」
「むき~!! もうお兄ちゃんなんて知らないから! お土産はお菓子がいいな!」
「ボクがお家を占拠しちゃうぞ! 頑張るのしんどいから早く帰って来てね!」
「ほいほい」
怒っているのかそれとも嘆いているのかよく分からない声を背に家を出る。
スマホで見る時刻は午前の八時。
待ち合わせの時間。向こう側が準備した【転移】の能力者との会う時間は午前八時半。
了承の返事を送ったとはいえ、まさかここまで急に対応してくるとは思わなかった。
いや、別にそれ程おかしい事ではないか。【黒騎士】の存在で、オーストラリアの西部はまるで機能していない。経済で考えればどれ程の打撃を受けている事か、早急に対応して欲しいと政府は常々思っている事だろう。
「うむ、俺の行動次第で生死が左右されるんじゃないかと思うと色々と考えてしまうな」
へっへっへ、奴を倒して欲しければ国一番の美女を差し出せ! とかそんなどうでもいい事が思い浮かぶ。逆に利用されそうだからそんな事は頼まないが、家用のお土産でも身繕って貰おうか。
そんなこんなで、阿呆な事を考えていれば目的の場所であるコーヒー店に着く。ここは政府が管理している場所で、秘匿事項を伝えたりする場所なんだとか。普段は普通に店として機能しているらしいので、息抜きに来てみるのもいいかもしれない。
貸し切りに看板がついたドアを開くと、中にはダンディーな店員さんと外国人であろう女性が席に座っていた。
女性は俺の姿を見るや、すぐに立ち上がり俺に向けて頭を下げる。
「今回は要請を受けて頂いて本当にありがとうございます。【転移】能力者のロア・グレースと申します」
「これはご丁寧に。絶対者の柳隼人です。今更ですが、本当に俺でいいんですか? 上にまだ四人もいますけど」
「ふふっ、私共は貴方様がかの怪物を討伐すると確信しております」
ならば上に誰がいようと関係ないと。
よくもまあそんなに信じれるものだ。彼女が嘘を言っているように見えないのが逆に疑いを抱いてしまう。年上の人に尊敬の目で見られるのは慣れないな。
「一応揃いはしましたが、本来の集合時間まで少し喋りませんか。喉も乾きましたし」
「願ってもない事です。なんでも質問を仰ってください。全てではありませんが、私にもこたえられるものもあるでしょう」
メニューをさっと見て、ダンディーな店員さんに注文する。
「アイスコーヒーを一つ」
「私はキャラメルミルクコーヒーを一つお願いします」
「はいよ」
ほう、ロアさんは甘党なのだろうか。秘書見たいな印象を抱いていたから苦いものが好きだと思っていたが、これはこれで女の子らしくて大変よろしい。
それにしてもなにを話そうか。まずはお互いの緊張をほぐすのに雑談でもするか。
「転移能力者って結構数が多いんですか? 俺は既に数人程お会いした事があるんですが」
「多くはありませんね。世界で見ても十数人程度しかおりません。その中でも実戦レベルで使いこなせるのは二人と言われています。ですので日本の特殊対策部隊の隊員である西連寺さんは非常に素晴らしい能力者と言えるでしょう」
「ほう、そうだったんですね」
あのギャル風な先輩は実は凄い人だったんだな。
いや、そりゃそうか。あそこには凄い人しかいないわ。菊理先輩と桐坂先輩の能力は世界で見てもかなり希少な部類だろうしな。
「どうぞ」
「おっ、ありがとうございます」
出来上がったコーヒーを受け取る。
ロアさんのは品名通りの甘々した感じだ。冷静を装ってはいるが、凄く嬉しいという感情がオーラとして見える。
(こういうのは俺が先に飲まないといけないか)
「美味しいですね」
俺の感想に、店員さんは薄く笑みを浮かべて会釈。うん、ダンディーだ。
俺が飲んだのを見てロアさんもなんちゃらコーヒーを口に運ぶ。
「美味しい」
「それは良かった」
「っ! すいません。職務中に」
「いえいえ、誘ったのは俺ですから。柔らかい雰囲気の方が俺としてもやりやすいですしね」
「そ、そうですか? では、お言葉に甘えまして」
うんうん、緊張している中で任務なんかできればしたくないしな。
(それにしても【黒騎士】ね・・・・・・)
雑談をしながら思い浮かべるのは、三人が戦った戦闘データだ。
相手の能力、武器は概ね把握しているが、最後の再生だけはよく分からなかった。
いや、再生というよりかは生誕と言った方がいいか。
確実に消滅させたはずの敵がまた空間から現れたと言う。
それは俺が戦ってきた怪物達のどれにも当てはまらないものだ。どれ程再生力に長けた敵でも、塵すら残さずに消せばそれで勝負はついてきた。
だとするならば、本当は完全に消滅しきれていなかったか、何処か別の場所に核のようなものが隠されているかだろうか。それ以外の可能性があるのなら、倒すまでに少し時間がかかりそうだ。
どうしたものか悩ませていると、視界にうつる店の時計が予定していた待ち時間になっている事に気付く。
「おっと、そろそろ移動しましょうか」
「そうですね。お荷物はそのかばんだけでよろしいでしょうか?」
「はい。着替えなどは用意して貰えるらしいので特に持っていくものはありません」
「分かりました。では、まずはオーストラリア支部に転移する事になります。お手を拝借しますね」
ロアさんに手を握られた後、俺と彼女の姿は店内から消え去った。
いざ、オーストラリアへ!





