177話 宣言
一段落つきまして、ようやく戻ってくる事が出来ました!
す、すみませぬ・・・・・・
「遅れてるぞ~。志方」
「すっ、すいません先輩!」
畠山司、記者を生業にしている四十の男性だ。
今日は緊急的に開かれる会見に後輩と共に来ている。
別件とも重なってしまったが、こちらの方が優先順位が高いと判断した。
なにせ、この会見の内容は今話題になっている少女についてなのだ。
各所に回ってきた情報には、質問に答える会見者の名前は無かった。
ここで誰が説明するのかという疑問が上がるが、十中八九で少女の親族、親の可能性もあるが、兄が出てくる可能性が高いと予想している。
「一体なにが聞けるのかねえ」
記者としてはやはりインパクトのある事を書きたいという気持ちはある。
しかし、そのインパクトがどれ程になるのか全く想像できない事に、畠山は異常な寒気を感じていた。
二人は目的の場所に到着すると、受付でチェックを済ませて館内に入る。
既に幾つかの同業者もいるようで、黙々と下準備をしていた。テレビ局もカメラを構え今か今かと時間を気にしている。
「うぅ、なんだか緊張してきました」
「俺らが緊張したってなんにもなんねえよ。聞き逃さねえことだけに集中してな」
「う、うっす」
関係者が全員集まり、幾らか時間が過ぎた時、遂に会見が始まる。
ドアが開き、中に入って来る人物が一人。
シャッター音が鳴り響くが、少しして全ての音が止まった。
全員が目を見開いて手を動かす事を一瞬忘れたのだ。
入ってきたのが絶対者だったからそれに驚いたものもいたかもしれない。
しかし、なによりも衝撃が走ったのは、その絶対者が車椅子で入ってきたからだ。
世界が認める最強の能力者。
その一人が車椅子を使うまでに追い詰められたという事実に誰もが絶句した。
隼人はそのまま机の前に移動すると、マイクを取る。
「どうも、会見者兼司会者の柳隼人です。それじゃ、始めますか」
隼人の声で各々の意識が戻される。
「こんな機会も殆どないですし、なんでも質問してどうぞ」
これだけの数の記者陣を相手に全く怯まず、堂々とした喋りに畠山は感心する。
隣の後輩にも見習わせたいものだと視線を向ければ、案の定緊張で顔を青くしていた。
一人の記者が手を上げる。
「柳隼人さんのその怪我は怪物との戦闘によるものなのでしょうか?」
「蒼、ああ、俺の妹なんですけど。そいつを助ける時に張り切り過ぎてしまいまして、自身の能力で自爆してしまいました。お恥ずかしい限りです」
「【テュポーン】討伐の際でさえ、大きな怪我は見受けられなかったと聞いておりますが、妹さんはSSランクの怪物以上の力を保持している、という事でしょうか?」
「う~ん、今回は討伐ではなく救うという目的だったので、数段階慎重にならざるをえなかったというのもあります。ただ、あいつがSSランク以上の力を持っているかどうかについて言えば、間違いなく持っていると言えます」
記者陣がざわめく。
他の誰でもない、絶対者が認める力を持っているという事実。
ただ、おかしい点が一つ。
“何故妹が不利になる事実を話すのか”という点だ。
世間が騒いでいるのは、凶悪な力が暴走しているのではという点だ。
単純な、そこら一般の能力が暴走しようとなんてことはないが、これがSSランクと同等の力を持つ能力者が暴走しているならば話は全く別物になる。
一人の記者がすぐに質問する。
「妹さんの力が暴走、または力の制御が完璧に出来ていないという報道がありましたが、それは事実なのでしょうか」
「暴走、に関しては別の敵の介入がありました。これ以上は機密事項なので詳しくは言えませんが、そいつが介入しなければ蒼が暴走する事はありませんでした。ただ、力が完璧に制御出来ていないというのは事実です」
「という事は、また暴走する可能性はゼロではないという事でしょうか」
「まあ、ゼロではないでしょうね」
ゼロではない。それだけで人の目は変わる。
今の回答で、世界では様々な思考が巡らされた。
「妹さんの力を危険だと考える人々が多い中、隼人さんはどういう対処を考えているのでしょうか」
「なにも」
「な、なにも? 施設で能力の研究をするもしくは暴走しても問題の無い場所に移動するという事も考えていないと」
「ええ、なんでそんな事をする必要があるんです?」
「いえ、それは・・・・・・」
誰もが思った。
『言わなくても分かるだろ』と。
もう一度暴走するような事が、次はどうなるか分からない。ここでなにかしらの手は打たないといけないだろうと。
「なにもしないというのはあまりにも、無責任ではありませんか?」
困惑する声で記者が言う。
「責任ですか。今回、あいつはなにかやらかしましたか?」
「え・・・・・・?」
「星を消した。【世界蛇】を殺した。ただ、それだけだ。成果を見れば英雄と言ってもいい。力を使いこなせるようになればあいつは絶対者にさえなれる存在。その成長を、貴方方は止めようとしている」
希望と恐怖の天秤。
それが今は恐怖が圧倒的に上回っている状態。
世界を壊すかもしれない兵器が導火線に火が付いているかもしれない状態でいるのだ。恐れない人などいない。
「俺がいるでしょう」
よく通る声で、その一言を放った。
「何度暴走しようとも、俺がいる限りあいつが世界に害となる存在にはならない。させない」
「し、しかし。隼人さんはそれで怪我をされたと仰っていました。次も同じことが出来ると断言できるのですか?」
「出来ますよ」
僅かの思考すらない発言。
当たり前の事を当たり前と言っているその姿に、質問していた記者が固まる。
車椅子で、怪我をしているというのに、失敗はあり得ないという姿が納得できなかったのだ。
「ふむ、信用できないというなら俺も成果をあげましょう。おそらくですが、怪物が力を増す今、各国の特殊対策部隊では対処できない怪物が現れる可能性は非常に高い。SSランクも出現するかもしれない。いえ、十中八九出現するでしょう」
一呼吸おいて、静かな瞳で記者陣を見る。
突然体を襲う凄まじい覇気に、その場の全員が呑まれる。
(これが、十六歳の少年だとっ?! 本当に同じ人間なのか!)
全員が隼人を凝視する中、宣言する。
「俺が全て屠りましょう」
「は・・・・・・?」
誰かが、思わずというように漏らした。
「敵が凶悪で、国で、大陸で対応できないと判断したのなら俺を呼んで下さい」
「その状態で、ですか?」
「ははっ、この程度の怪我はハンデにすらなりませんよ」
「SSランクをも超える敵が現れたらどうしますか?」
質問したのは畠山だ。
確かに隼人ならば過去に存在したSSランクも全て倒す事は可能なのかもしれない。しかし、それ以上の敵が現れても同じように発言できるのか。
現れていない現状で、どれだけ出来ると言っても信じる人は極僅かだろう。
ただ、それでも畠山は隼人の答えが聞きたかった。
真剣に見つめる畠山の目を見て、隼人はうっすらと笑みを浮かべ、マイクをとる。
「――たとえ相手が神だとしても、俺は倒しますよ」
「・・・・・・」
「俺が、最強ですから」
隼人の確信に近いを瞳を見て、誰も言葉を発せない。
神を殺すなどと不可能だろうという思考は確かに存在するのに、何も、言葉を紡ぐことができない。
それ程に、常軌を逸した力を、本能で理解させられたのだ。
「それでも不安だというのなら、俺に勝負を挑んで下さい。何人でも、国全体でも構いませんよ」
ふざけるようにして軽く笑いながらそう言う。
最後に、と続けて、
「蒼を利用しようと考えている連中は今すぐにその思考を捨てた方がいい。明日を望むのなら、ですが」
そう、殺気に満ちた瞳でテレビに向かって宣戦布告した。
◇
同時刻の柳家。
リビングでソファーに座っている三人がいた。
「あははははは!! 最高!!」
手を叩いて目から涙を流す程爆笑しているソフィア。
「はぁ~ かっこいいです」
目をキラキラと輝かせる渚。
「うぅ~!!」
そして赤面した顔を枕に埋める蒼だ。
「いや~ 蒼ちゃん愛されているねえ。彼、世界に宣戦布告してまで蒼ちゃんを守りたいんだって!」
「・・・・・・もう、勘弁してください」
赤面する蒼を面白そうに弄るソフィア。
蒼は助けを求めるように親友に目を向けるが、渚はキラキラした瞳でテレビを凝視しているため使い物になりそうにない。
(むぅ、今日は恥ずかしい思いをした罰としてお兄ちゃんの添い寝をしてやる! これでお兄ちゃんも恥ずかしい思いをすればいいんだ!)
なにかを企んでいる蒼を優しい笑みで見ながら、ソフィアはふと仲間の顔を思い出す。
「最強とか言っちゃって、アンネちゃんに目を付けられないかな。う~んちょっと心配かも」
何処かの国で、スマホが握り潰れた音が響いた。
十一章、了。
一巻の表紙に戦神(位階上昇)状態の隼人と蒼の姿があるので、妄想を広げたい方は是非見てみて下さい!(*´▽`*)
気分が乗った方は購入を検討して頂ければありがたいです。
自分の望みとしてはソフィアの姿が見てみたいです・・・・・・





