171話 暴食
更新遅くて申し訳ない!(>_<)
ちょいやる気が・・・・・・
匂いがする。
鼻をくすぐる香ばしい匂い。今は凄くお腹が空いているから、この飢餓感を消す為にはやく食べたい。
「――ちゃん! 蒼ちゃん!」
どこからか声が聞こえるけれど、今はどうでもいい。
私は距離を喰らって、街を一望できる高台へと一瞬で移動する。
「すぅ~ はぁ~ 空気も美味しい。でも、これじゃお腹は膨れないなぁ」
何年ぶりかな?
多分、十年ぶりの食事だろうか。
この飢餓を収めるのには半端なものでは足りない。地球を半分ぐらい食べたらお腹も一杯になるとは思うけど、それは最後だ。デザートでも私は苺を最後に残すタイプなのだ。
「ほら、出てきなよ」
遥か上空を見上げ声をかける。
聞こえているはずだが数秒経っても姿を現す気配はないため、少々強引だが、空間そのものを喰らい中のものを引き摺り出す。
空に大きな穴が空く。
普通ならすぐにでも修正力が働くだろうが、今回に限ってはそうはならなかった。
穴の向こう、そこには丸い何かがあった。
それは昼間であるのに、月が出てきたのかと見間違うような金色の円。ただ、その中に縦長の線がある事から、月ではない事は明らかだった。
『小娘が』
地鳴りのような声が響く。
それは天からの声。
円の中にあった縦長の黒い線がぎょろりと動き、私を捉える。
空間の綻びが広がり、それの姿が明らかとなる。
『俺の領域に踏み込んだのだ、この代償は高くつくぞ』
それは蛇だ。
深緑の皮膚を持ち、細長い肉体を捻りながら宙を泳ぐ蛇。
ただ、その全長は分からない。
あまりにも長すぎるため、視界に収まらないのだ。
それは伝承の存在。
世界を覆うと言われる大洋そのもの。
数多の都市を喰らいつくした怪物のランクはSS。冠された名は、【世界蛇】。
世界を滅ぼす最恐の一角が日本の上空に現れた。
「あぁ、本当に」
世界の脅威を目にして、私は思わず舌なめずりをしてしまう。
「――美味しそう♡」
あれだけ大きかったら三割ぐらいはお腹を満たせるかもしれない。
ステーキを目の前に出されている気分だ。もう、待ちきれない。
「ほら、おいで~!」
手を大きく広げて子供を呼び寄せるようにして声を掛ける。
大きな蛇は挑発されたとでも思ったのか、口を大きく広げて、レーザーのようなものを射出した。
視界全てが光に覆いつくされる。
「はむっ」
放たれたレーザーを靄が多い、一瞬にして喰いつくす。
頑張って出した攻撃なんだから、ちゃ~んと食べてあげないと可哀そうだよね。
うん、味も悪くない。
少し刺激的なスパイスが高評価な部分かな。
『なにっ?』
驚いた声を上げる蛇君。
動揺しているのが少し可愛い。でも、この程度で驚かれるんだったらもしかして期待外れの可能性も出てきてしまう。
「ほらっ、頑張って。私が優しく食べてあげるから」
『・・・・・・調子に乗るのもいい加減にしろよ』
蛇君の体表の色が深緑から赤く変色していく。
蛸と同じような性質なのかもしれない。もしそうなら、焼いた方が美味しくなったりするんだろうか? ぜひ試してみたい。
『死ね』
蛇君の眼光が一瞬光った。
「うん?」
自分の体を見ると、ビキビキと石化していくのが見えた。
魔眼という奴だろうか。石化の魔眼と言えばメデューサが思い浮かぶが、蛇つながりだと同じものを持っているのかもしれない。
くすっと笑っていると、全身が石化し、前のめりに倒れた際にバラバラに砕け散る。
『劣種が調子に乗るからだ。しかしこのままでは腹の虫が収まらん。この国を全て――』
「全て、何をするの?」
【世界蛇】の双眼が頭上を見上げる。
私は蛇君の頭上に滞空した状態で、見下ろす。
気付けば、大きなお口が眼前に迫り、一瞬にして私を呑み込んだ。
体が唾液によって溶かされていく。数秒も経たず、私の体は全て溶かされてしまった。
「ほらほら~ 言ってごらんよ」
まぁ、幾ら殺されても関係ないけれど。
先程と同様に、宙に浮かび上がって、蛇君と目線を合わせる。
『面倒だな、復活する異能か』
「う~ん、ちょっと違うけど、その認識でもいいよ。その方がいいでしょ?」
わざわざ絶望させる事もない。
理自体を喰らって生き返るなんて、考えたくもないだろう。それで美味しく無くなったりしたらいやだしね。
「ほら、もっと頑張って?」
私に出来る事は応援する事だけ。
死にゆく命に、最期に全力を出させてあげる事だけしか出来ない。
『しかし、異能ならば限界があるだろう。さあ、何度復活できるのか試してやろう!』
うんうん、そう考えるよね。
確かに、私の能力にも限界は存在するよ。
お腹が一杯になって臨界点に到達した時、私は大きく能力を使うことは出来ない。
まあでも、
十年分の飢餓感を消せる程の強者ではないよね?
私の能力は、飢餓感によって力が左右される。
多分、今の私が食べられないものは存在しないと思う。
『俺に歯向かうその尽くよ、苦しみに藻掻きながら朽ちるがいい――嘆きの毒霧』
蛇君の口から霧のようなものが拡散されていく。
その霧に触れた瞬間、肌が紫色に変色し、瞬く間に絶命する。
直ぐに復活しても、霧の中のため、行動する前に絶命する。
(これがリスキルってやつかな。ゲーム以外だと初めてだなあ)
このままずっと技を受け続けてもいいのだけど、霧の拡散が早い。
放っておけば、地上にいる人達も巻き込まれて周囲にいる全員が死ぬだろう。私が全て食べる予定なのに、それでは少々困ってしまう。
まずは自分の体に毒が通用するという理を消す。
そして、目に映る霧を全て平らげた。
『何だ、何が起きた?』
「ごめんね、あまり広範囲の攻撃は止めて欲しいの。私の分が少なくなっちゃうでしょ?」
蛇君が私を見る。
視線には、未知の攻撃に対する困惑と己の攻撃を完封された事に対する憤怒の感情が垣間見えた。恐怖以外の感情を向けられるとは思わなかったから、それが少し嬉しくてついつい笑ってしまう。
「あっ」
懐かしい匂いがした。
殺し合いの最中だというのに、意識をそちらに持っていかれる。
「・・・・・・ごめんね。もうちょっと貴方に全力を出させてあげたかったけれど、時間みたい」
『ッ?!』
全てを終わらせるために私は動き出す。
初めてなのだろう。
己に死が近づくという感覚を味わうのは。
時空を強引に歪めて私を粉微塵にした後に、この場を去るように次元の裏に隠れようとする。
「ごめんね。怖がらないで? 一瞬で終わるから」
次元を崩壊させて私も裏側へと移動し、そっと赤い皮膚に触れる。
瞬間、触れた個所から分解していくように蛇君の体が消えていく。
『一体何をしたッ!』
分解途中の個所を食いちぎり、体の崩壊を食い止めようとするが、そんな行動に意味はない。
【世界蛇】という存在自体を喰らったのだ。どれだけ藻掻こうとも、結果が揺るぐことはあり得ない。
『こんな事は・・・・・・ありえない・・・・・・』
プライドが認められないのだろう。なにせ、これは勝負にすらなっていない。私の一方的な蹂躙以外の何物でもない。
最期に何かを成す事もできず、分解の速度が増していき、ついには全てがこの世から消え去った。
「さよなら」
少しはお腹も膨れたけれど、想像よりも弱かったな。
これでは満福には程遠い。
(残念。でも、貴方なら私を満足させてくれるよね?)
地上に降り立ち、振り返って私に近付いてくる人物に笑みを向ける。
「てへっ、先にデザート食べちゃった。ちゃんと主食も食べないとだよね。ああでも怖がらないでね。痛みなく食べてあげるから。ね、お兄ちゃん?」
「・・・・・・はぁ、自分を殺したくなってきた」
お兄ちゃんは溜息と悪態を吐きながら天を見上げる。
「さっさと帰るぞ。今日はお前の好きな晩御飯でも作ってやるから」
「なにを言ってるの? 私のご飯は目の前にあるじゃない? さ、殺し合おうよお兄ちゃん! もうお腹が空いて仕方ないの、少しでもいいから満たしてね?」
「完全に【暴食】に呑まれてんな。まあいい、お前こそ安心しろ。全力で戻してやるから、その笑みを絶やすんじゃねえぞ」
何を言っているのだろう?
よく分からないけれど、何故か体が痛い。
痛みをかき消すように、私はお兄ちゃんを殺す為に力を使う。
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・・・・・・これ、二作品童子は流石に無理があったかな?