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168話 因果律操作

ギリギリセーフ!(*´▽`*)


 絶対者同士による戦いの火蓋がついに切られた。


 相手の出方を窺おうと意識を集中させている途中、ユリウスさんの姿が消える。

 寸前までユリウスさんが立っていた場所にナイフを振り抜いた状態のシャルティアさんの姿がある事から、おそらくは時間を止めて攻撃したのだろうと予想はついた。前方を注視すれば、宙を舞っている物体が目に入る。


 一撃で終わったのかと思ったが、当のシャルティアさんの表情は硬い事に気付く。


「厄介ですね」


 宙を舞っていた物体が反転し、そのまま空気を蹴り上げ、俺達の元へと落下してくる。


「ったく、いきなりかよ。知らないうちに吹っ飛ばされるのは心臓に悪いっての。やっぱりお前相手だと初手でこいつを出す事になるか」


 着地に伴い、衝撃で地面を粉砕し、その姿が露わになる。


「神器ですか」


 それは鎧だ。

 物語に登場する聖騎士と呼ばれるような存在が身に着ける白銀の鎧。顔まで覆われた鎧は一見して、何処にも隙間が存在しない事に気付く。


「しッ」


 隙だらけのユリウスさん目掛け、俺はたった一歩で距離を詰めて正拳突きを繰り出す。

 鎧通しという技がある。障害物、この場合は鎧を通り中の相手に衝撃を流す技だ。


 着地で生じた一瞬の隙、確実に俺の拳は目標を捕らえたはずだった。


 ――眼前で、()()()()()()()()()()()


 光景が切り替わる。

 鎧の正面に立っていたはずの俺は、鎧からぎりぎり逸れる位置を正面にして拳を放っていた。驚愕に目を見開く俺に対してユリウスさんの蹴りが振るわれる。


 顔を狙った攻撃に背を反るようにして避け、一度飛び上がり後退する。


 ユリウスさんは何処から取り出したのか、目測で全長が一メートル五十程はある漆黒の銃を取り出す。


 銃口が俺に向けられた。


 引き金を引く動作。

 銃口の向きを視認し、俺は回避に動く。


「相殺しなさいッ!」


 射線から外れようとしていたが、叫ぶシャルティアさんに突き動かされるようにして、体に染みた動作で攻撃を繰り出す。


「絶拳」


 同時に、引き金を引いた銃口からスパークする紅の弾丸が放たれた。

 無意識に出した攻撃は、ユリウスさんの放った一撃を完全に消滅させる。


(ん?)


 違和感を持ったのは、弾丸が真正面から来たという事。

 俺は確かに数歩動いたし、撃つ瞬間の銃口はどう考えても正面から俺を攻撃できる向きではなかった。


 そこで思い出すのは絶対者全員が集まった時に聞いたユリウスさんの能力だ。

 【因果律操作】、結果に至るまでの原因を操作する能力。


(つまり、俺が攻撃を回避するという結果に至る原因である行動を操作したって事か?)


 しかし、確かに回避したという記憶は残っている。

 ・・・・・・まさか、因果律操作による改鋳をされたとしても、記憶は定着させられるのか?


「・・・・・・慣れるのに時間が掛かりそうだな」


 ただ、今の戦いの原因である俺の存在を消せていないという事は、能力にも一定の条件があるのだろう。それをこの戦闘中に理解出来れば格段に戦闘がしやすくなる。


 視界の端で鎧が地面に叩きつけられている姿が目に入る。

 馬乗りになったシャルティアさんがナイフを振るうも、圧倒的な防御力を誇る鎧の前に、刃が掛けて宙を回転する。


「ちッ」


 シャルティアさんは一度距離を離し、予備のナイフを取り出す。


「成程な、大体お前の能力が理解出来たぜ」


 白銀の鎧は緩慢な動きで立ち上がる。

 隙だらけのように見えて、迂闊に攻撃すれば逆に反撃を喰らうだろう。


「時間を止められる時間はせいぜい七秒から十秒。そしてクールタイムに数秒掛かるな。俺との能力相性は最悪だが、お前の武器じゃ七秒の間に俺を仕留めきる事は出来ないだろ」


「どうでしょうね。貴方がそう思いたいのならご自由に」


「可愛くねえな。ちょっとは表情変えろよ」


 そしてどうやら、シャルティアさんの火力では鎧に有効打を与える事が難しいようだ。

 奥の手は持っているだろうが、易々と出せるようなものではないのか、後手に回っているように感じる。


 俺は勘違いをしていたのだろう。

 相手がいかに強者であるとはいえ、こちらは二人。負ける可能性は低いと考えていた。


 しかし、それでは駄目なのだ。


 負ける可能性が低いでは確実にこちらが負ける事になるだろう。

 確実に勝てると断言できるまでは彼を、【因果律操作】を上回る事は出来ない。


 立ち向かっているのはユリウスさんではない。

 俺が運命に逆らっているのだ。


「【大天使】」


 背から純白の翼が姿を現す。

 吸血鬼の時ほどではないが、確かな力が溢れ出る。


「また初見か。本当に手札が多いな」


 重心を下げて、徐々に脚に力を込めていく。

 今からの戦いは技術もなにもない感情に任せた野生の戦いだ。そこには美しさもなにもないだろう。ただ、それでいいのだ。


 戦神の権能である【進軍する者】の本質は、目の前の障害を打ち砕く事だ。それがどのようなものであろうとも、必ず前進し続ける。


「位階上昇――」


 ・・・・・・いかん。にやける。

 最早戦神の権能を縛るものはなくなった。開放を祝福するように、力が感情を伴って俺の体を翻弄する。


 チュンッ


 そんな甲高い音が鳴った。

 淡く輝く闘気の尾を引いて、俺の姿はユリウスさんの眼前にあった。


 俺の通過した地面は赤く熔解し、おそらくは武御雷と同等の速度で移動した。途中で因果が歪められるような感覚を受けるが、その全てを打ち破り、距離を踏破する。


「ッ?!」


「ははっ!」


 勢いを利用し放った右の拳は、初めてユリウスさんに防御の態勢を取らせた。

 急所を狙ったつもりだが、僅かに逸れて防御している腕に吸い込まれる。


「重ッ!」


 ユリウスさんは受けた衝撃で、地面を抉りながら後退する。

 停止すると共に銃口が俺が居た場所に向けられる。


 しかし、残されているのは移動に伴う砂煙のみ。俺の姿はそこにはない。


 ――ユリウスさんの背後、後頭部付近の宙で蹴りを放とうとしていた。


「舐めんなよ、餓鬼が」


 攻撃を止め、気配に入り込んだ物体に目を向ける。


 気付けば眼前にミサイルが迫ってきていた。

 それも戦争で用いるようなものではなく、対怪物を想定した代物だ。【テュポーン】掃討の際にも同等のものが使われた。

 SSには殆ど無力だが、これ一つでAランク級の怪物であれば殲滅できると言われている。


 狙いは俺とシャルティアさんの両方で、計十本のうち四本が俺を狙っている。


 宙にいる状態の俺にミサイルが突貫してくる。


 左手に闘気を収束させ、ミサイルを抑える。

 本来であればこの時点で爆発するのだが、六本のミサイルは爆発せずに俺を押し込むようにしてユリウスさんから離す。


 弾丸の如く地面と水平に吹き飛んでいく。


(この程度でどうにかなると――)


 完全な死角だった。

 前方のミサイル、そして銃口を向けているユリウスさんに意識が持っていかれていたため、上空に対する意識が薄れていた。


 極光の柱が天から降り注ぐ。


 ミサイルと同じ対怪物兵器。衛星からの一撃が放たれたのだ。


「穿て、カイザ」


 死角からの一撃と同時にユリウスさんが引き金を引く。

 銃口から撃ちだされた弾丸は初手のものと違い、青黒い螺旋を描きながら宙を駆ける。


 そして極光に呑まれる俺に着弾。瞬間、ドーム状の空間が生まれる。

 俺を起点にして形成され、内部では雷撃が常に俺を焼き続ける。


 ミサイルによる誘導、衛星からの攻撃による足止めとミサイルを誘爆させて目くらまし、最後に止めの一撃。


 俺は空間内部で焼かれながら、




「面白い」




 笑う。

 力の根源に釣られるようにして戦闘狂の面が顔を出す。

 一撃、地面に向けて殴打を叩き込むと、その衝撃だけで周囲の煩わしいもの全てが吹き飛んだ。



 明らかに以前とは異なる力を振るう隼人を目にして、ユリウスも同様に笑みを浮かべる。


 ユリウスが現状二人相手に戦えているのは鎧の神器があるからだ。

 しかし、神器にも制限があり無限に着用し続けられる訳ではない。時間が経ちもし解除されれば、その瞬間にシャルティアさんに殺されるだろう。


「マシな顔になったな。ではもう一度言おう。

――運命に抗ってみろ」


 その笑みを浮かべた表情には、覚悟を決めた男の揺るぎない意志だけが浮かび上がっていた。


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終焉都市の雑草
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神々の権能を操りし者2
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