17話 選手選抜
翌日、教室に入ると昨日のように不快な視線を向けられるがその数は少ない。その理由は他に彼らの興味がいっているからだ。そう、今日は対校戦の選手選抜があるのだ。
そういえば服部さんは出場するのだろうか? あの人が出るなら試合がただの出来レースになってしまうが。・・・流石にそんな大人げないことはしないか。
ここで選手選抜の方法を説明しておこう。
これは授業で特に成績優秀と判断された者が先生に頼まれるのだ。毎年大体二、三年から選ばれるのだが、今年は一年にも優秀な生徒が多い。修練場で探知した念動力操作の女生徒なんかは選ばれるかもしれないな。
まあ何でもいいさ。俺には関係ない事だ。利点があるとすれば休日が少し増えるぐらいだろう。
クラスメイト達が移動を始める。今日は忌々しい能力実習の日だ。しかも選考も多少交えているので、二、三年との合同である。
「めんどくせえ~」
この時間だけ別の事してたらダメなのだろうか。
正直俺には何の得にもならんし、必要性が完全に皆無なんだよ。
それでも単位があるので渋々移動する。
更衣室で着替え終り修練場に入ると既に全学年の先生達が待機していた。その手には何やら書類があり、生徒の中から優秀者の目星を記載するのだろうと推測する。
生徒も大分集まっており、その中には服部さんの姿も視認できる。
生徒が全員揃うと整列を始め、先生の言葉を待つ。
「今日は対校戦も考慮した重要な実習になる。各自全力を持って取り組むように!」
腕を組んで大声で叫ぶムキムキマッチョの鏡先生。メガホンを使えばいいのにわざわざ地声で叫ぶものだから迫力が凄まじい。
周りの生徒の表情を盗み見ると誰も彼も相当気合が入っているようで、鼻息荒く息巻いている。
「それでは、各自十分広がって能力を発動させろ」
俺はいつものポジションへと向かう。
今日も例によって瞑想するか・・・
修練場の端で座ると、こちらに向かってくる人影が一つ。
「こんなとこで何してるんすか?」
服部さんだ。
上から覗き込むように俺を見つめ、そう問うてくる。
その顔はいつものと変わらず笑顔で、世の男共に絶大な破壊力をほこる。
「少し瞑想でもしようかと・・・それこそ、服部さんこそどうしてこっちに来たんですか?」
「別に教えてもらうこともないっすからね。暇なんすよ」
当り前だろう。特殊対策部隊に指導できるような人物など同じ特殊対策部隊の者にしか出来ん。どちらかと言うと彼女が教えに回った方が学校としては恩恵が大きいはずだ。
「っていうか聞いてくださいよ! クラスの皆が私が特殊対策部隊って事を信じてくれないんすよ!」
「ワッペンは見せたんですか?」
「勿論見せたっす! でも偽物とか言われて、今では不思議ちゃん扱いですよ!」
「まあ、彼らからしたら特殊対策部隊っていうのは雲の上の存在で、これほど身近に、しかも自分たちと同い年の少女だなんて信じられないんでしょう」
「・・・成程。なら仕方ないっすかね~」
服部さんが納得したとこで俺は瞑想を始める。
「戦神」
空間を把握する。
「お~ やっぱ凄いっすね~」
やはり彼女レベルだと感じ取られてしまうのか。
今日はやはり人数が多い。先生を除くと、怪物級の服部さんとそれなりに強力な弓使いが感覚としては最も強いな。
弓使いの少女。これはおそらく七瀬さんだろう。
成程、学園最強と言われるだけはある。狙いは正確、威力も悪くない、日々努力しているのがよく分かる。欠けているものがあるとすれば実戦経験だろう。
その生徒たちの中から、こちらに、というよりも服部さんに近づく者達が三人ほどやって来る。
「服部さん、俺達と軽く模擬戦しないか?」
「模擬戦っすか?」
「そうそう、服部さんが本当に特殊対策部隊の一員なら俺達なんて瞬殺だろ」
瞑想して閉じていた瞼を開き三人の生徒を確認する。
その顔には共に気持ちの悪い笑みが浮き出ており、何やら邪な事を考えているのが分かる。
模擬戦を利用して、服部さんに何か仕掛けるつもりなのだろうか。
服部さんが特殊対策部隊だとは万に一つも考えていないのだろう。
そんな君たちに俺から一言。・・・ちゃんと遺書は書いておけよ・・・骨は拾うからな。
「良いっすよ!」
満面の笑顔で答える服部さん。
だが俺にはその笑顔の本当の意味が分かる。
翻訳するとこうだ。
『彼らを瞬殺すれば私が本物って信じてもらえるっすよね? これは彼らが言って来た事っすからね! 私は悪くないっす!』
・・・恐ろしい。
今から蹂躙されるであろう彼らの事を思うと不憫でならない。
「じゃあ先生、審判お願いしてもいいっすか?」
「え、ええ」
服部さんは近くの女の先生に声をかける。
先生の口が引き攣っているところを見るに、先生方は服部さんが何者なのかを正しく把握しているのだろう。
「それじゃあ、準備はいいかな?」
「いつでもいいっすよ!」
周りの生徒たちが手を止め興味深げに模擬戦に目を向ける。
俺は服部さんがちゃんと加減するのかハラハラして目を背けたくなる。
両者一定の間隔をとって構える。いや、服部さんは自然体のままだが。
先生が準備が完了した両者を確認すると開始の合図をする。
「始め!」
合図があった瞬間三人組が動き出す――いや、出そうとした。
「「「は?」」」
しかし、彼らの脚はその意志に反して動かない。それどころか力が抜けたように全員が崩れ落ちた。
その模擬戦を見ていた者たちはそこで初めて服部さんが立っている場所が変わっていることに気づく。三人組の前に立っていたはずの彼女が今は彼らの後ろに立っているのだ。
「え? どういうこと?」
「何が起こったんだ!」
「突然倒れたけど・・・」
皆何が起こったのか分からず、混乱している。
「先生終わったすよ?」
「へ? あ、ああ。服部さんの勝ちです」
先生すらも何があったのか分からなかったようだ。
彼女がやったことはそこまで難しくない。
誰にも認識できないほどの速度で疾走し彼らの顎に掌打を放ったのだ。それによって彼らの脳が揺れ、立つことが出来なくなった。
俺は思う――速過ぎる、と。
やったことは単純だが、それを行う速さが異常だ。
彼女の速度がまだ全く本気でないとすれば、俺は位階を上げなければ彼女の速さにはついていけないだろう。
全く・・・恐ろしいが本当に頼りになる存在だ。
特殊対策部隊――人類を守る為に発足された日本における最強の能力者達の集まり。
彼女たちがいれば日本は安全だろう。
服部さんは俺に向かって笑顔のブイサインをする。俺も笑顔で返すが、軽く倒し過ぎてまだ本物だとは思われないのでは?と思った。
◇
演習が終わり全学年が体育館に集められる。
今から行われるのは、対校戦に出場する選手たちの発表だ。
誰も彼もそわそわしており大変落ち着きがない。
半目で寝そうになっている俺を見習ってほしいものだ。
「静かに」
マイクを持って喋るのは二階堂先生だ。その恐ろしい眼光で強制的に黙らせていく。
「では選手を発表していきます」
ごくりと唾をのむ音が聞こえる。
いや、そんなに緊張してると俺までなんだか緊張してくるからやめてもらえないですかね?
「三年、山田 祥吾」
「いよっしゃあああ!!!」
名前が呼ばれた先輩が雄たけびを上げる。
周りの生徒たちも「やったな!」とか「優勝して来いよ!」と肩を組んだりしている。
「二年、七瀬 真鈴」
「よしっ!」
遠くで小さくガッツポーズをしている先輩が目に入る。
まあ当然だろう。彼女の努力を考えれば選ばれない方がおかしい。
その後も選手の名前が呼ばれていく。
その内容に一喜一憂する生徒たち。ボルテージもどんどんと上がっていってもうお祭り状態だ。
選ばれる選手は全員で六名。次で最後だ。
二階堂先生が最後の生徒の名前を静かに発表する。
「一年、柳 隼人」
・・・・・・
・・・
「は?」
ブクマが百越えてました!やった~(*´▽`*)
これからも面白くなるよう頑張っていきます。