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164話 四位との組手

 朝食を準備している途中、二階から階段を下りてくる人の気配を感じる。

 足音から柳隼人であろう事を察すると、意識を外して朝食の準備を進める。リビングのドアが開き、予想通り柳隼人の姿が見えた。


 ただ、なにやら私に用があるようで、彼はそのまま台所に入って来る。


「どうしましたか? 朝食は後少し待っていて下さい」


「おぉ、今日も美味しそうですね。本当に毎日ありがとうございます。俺に出来る事があったらなんでも言って下さい!」


「いえ、特には」


「そ、そっすか」


 勝手な行動をしなければそれでいい。私はそれ以上を望まないし、する必要もない。自分で把握できない事が最も面倒だ。


「それで、あの、食事を作って頂いている身で大変恐縮なのですが、お願いを一つ聞いて頂きたいな~、なんて・・・・・・」


「なんですか?」


「俺と組手をして貰えませんか? 能力ありのそれなりに本気で」


「・・・・・・」


 一度手を止めて柳隼人に目を向ける。

 一言、「忙しいので」と言おうとしたが、彼の目を見て言葉を呑み込む。


 相変わらず下手に出た動きと発言だが、彼の目からは燃えたぎるような感情の波が窺えたからだ。窺えたとしてもそれがどういう感情なのかは分からない。ただ、このままだと私の嫌いなイレギュラーを起こすだろうと察した。


(面倒を起こされるよりかは、要望を聞いた方が効率がよさそうですね)


 それに、柳隼人本人が強くなればユリウス・マキナーに殺される確率も減るでしょうし、と脳内で思考をまとめる。


「いいでしょう。朝食を食べた後で付き合います。場所は何処にしますか?」


「ありがとうございます! それでは、特殊対策部隊本部の地下に修練場があるのでそこにしましょう」


「分かりました」


 時間だけ決めて、朝食の準備に戻る。


 柳隼人の反応、おそらく昨日になにかあったのだろうとは思いますが、彼は一歩も外には出ていない。となれば、やはりあの吸血鬼が原因でしょうか。


 数多の知識、それが未来でさえ知り尽くしていると言われる怪物。

 その一言で人を救い、同じ数だけ地獄に落とした彼女は、私の最も嫌うイレギュラーそのものだ。殺せるならば既に殺しているが、彼女の知識が貴重である事も事実。それ故、言葉に踊らされないようにするしか対処法がない。


 ただ、柳隼人が彼女と相対したのは昨日が初めてのはず。

 危険性が理解できていないのなら、彼女の言葉に踊らされている可能性は十二分に考えられる。少し注意して見ていたほうがいいかもしれませんね。


 そんな事を考えながら完成した朝食をテーブルに並べていると、二階から残りの二人が降りてくる。


「ふぁ~ おはよ~」


「いい匂い、もうシャルティアさん無しじゃ生きていけないです!」


 しっかりと目の覚めている柳蒼と寝ぼけ眼でふらふらしているソフィア・アンティラ。中学生よりだらしない姿に眉を寄せる。


「全部怠い~ 誰かボクに食べさせ・・・・・・ッ?!」


 が、言葉の途中でソフィア・アンティラがカッと目を見開く。

 既に椅子に座っている柳隼人に視線を向けると、顔を寄せて匂いを嗅ぎ始める。このダメ人間はもう叩きだした方がいいかもしれません。


「ど、どうしたんですかソフィアさん! その、ちょっと近すぎじゃ」


「・・・・・・いや、隼人君。君昨日誰か殺した?」


「いやいや、俺ずっと家に居ましたから!」


「う~ん、そう、そのはずなんだけど。おっかしいな~?」


 別段血の匂いがする訳でもありませんが、何を根拠に問いを投げかけたのでしょうか。

 納得のいかない表情のまま彼女は席に着き、朝食を取り始める。その隣に私も座って、自分の作った朝食に手を付ける。


 朝食の最中、対面の柳蒼が隣の兄に対して、やけに心配そうな表情を向けているのが印象的だった。




 片付けが終わり、準備を整えた後。

 私と柳隼人の姿は今、特殊対策部隊の修練場にあった。


 軽く体を慣らし、ナイフの使い心地を確かめる。

 服の内側には他にも暗器があるが、昔の癖で、そちらは毎日整備している為確かめる必要性はない。


「一つ聞きますが、本当に私でいいのですか」


「と、言いますと?」


「ソフィア・アンティラならば適当な範囲で相手になれるでしょう。反対に私は手加減というものができません。組手の相手には相応しくないと思うのですが」


「だからですよ。本気でないと意味ないですから」


 成程、そこまで覚悟があるのなら構わないでしょう。私も護衛対象の戦力を把握できる好都合な機会です。死なない程度で見極めましょうか。


「そろそろ始めましょうか!」


「ええ、いつでも構いません。先手はどうぞ」


「では、お言葉に甘えて」


――【憤怒(イラ)


 彼の輪郭が一瞬二重に見えた気がした。

 次の瞬間、彼は大きく一歩踏み込み、私との距離を縮める。


 初速から時速二百は超えていたかもしれない。

 ただ、私の感想としては、


(遅いですね)


 相手の動きに合わせ、鳩尾に左膝を叩き込む。


「ぶッ!」


 彼は地面を削りながら後退するも、手で地面を殴り体を浮かせると、空中で回転してそのまま構えの態勢に戻る。


 彼は今私の能力を把握する事に努めているのでしょう。

 一挙手一投足までに注意が向いている。伊達に絶対者になった訳ではないらしい。


「さあ、どうしました。私はこの場からまだ一歩も動いていませんよ」


「あはは、あの速度に完璧に合わせるとか、違うものでも見えてるんですか?」


 何気なく言った言葉かもしれないが、その指摘は正しい。

 私の能力【時計塔(クロックタワー)】は、簡単に言えば時間を操作する能力だ。戦闘時、己が見ている世界の速度を緩やかにしている為、相手がどれ程の速度で迫ろうと、私には速いとは感じない。


「どうでしょうね。それよりも、本気を出したらどうですか。怪我等は気にしなくても構いませんよ」


「本気ですとも。ただ、今回は新しいことをものにしたいので。少々見苦しいかもしれません、が!」


 先程よりも少々速度を上げて、正面から疾走して来る。


 ワンパターン、である筈がない。

 警戒を上げ、手首を動かし、袖にしまっていたナイフを取り出す。


 ナイフを視認した彼は、急所を守る為右手を僅かに前方に出す。

 私は右手を斬り落とすつもりでナイフを一閃した。


 しかし、その一閃は、彼の服と右手の薄皮一枚を斬るだけで止まる。

 皮膚だとは思えない程の硬度、いや、特段堅いという感触ではなかったから、耐久性が異様に高いのだろう。


 そのまま一歩、私の懐に踏み込み、腕を振りかぶる。

 放たれた一撃を、宙に飛び上がる事で回避。彼の拳が地面と接触すると、周囲の地面が盛り上がり、亀裂が入る。


(威力は悪くない。ただ、単調ですね)


「ん?」


 砂塵が晴れると、彼は息を限界まで吸い込む。

 

「らァァああああああああッ!」


「ッ!」


 あまりの声音に顔を顰める。

 ただの声じゃない。おそらく能力によって何倍にも増幅された音の暴力。


 人の声だけでワインのグラスを割るというものがある。

 これはグラスの共鳴を利用し、微弱な振動を与え続けることで可能とする技術。


 しかし、この爆音は共鳴などではない。

 空気の振動だけで対象を破壊している。周囲を見渡せば壁に亀裂が入りだしているのが見えた。長い間音量にさらされる訳にもいかず、世界の遅延を正常にする。


 地面に降り立ったと同時、地を這うようにして先程よりも更に速度を上げた彼が間合いを詰める。彼の力はアーベル・レオンのように上昇していくタイプなのかもしれませんね。


 既に彼の間合い。私の眼前に拳が現れ、


「――時間停止(ストップ)


 全てを止めた。

 目の前には拳を突き出したまま停止している柳隼人の姿がある。


「組手なのでここらへんでいいでしょう。後は――どうしようもない事象が存在する事を覚えて貰いましょうか」


 この停止時間は七秒、その間に決める。


(収束、解放)


 拳に時間を収束、そして彼の腹部に触れて一気に開放する。幾ら耐久力が高くとも、この攻撃を耐える事は難しいでしょう。それに、自身が認識できない無防備な間に攻撃を受けているのですから、防御もなにもない。

 吹き飛ぶ彼の射線に先回りし、飛んできた彼を空高く大きく蹴り上げる。宙に打ち出された体の上に瞬時に移動した所で時が戻る。


「がはッ?!」


 口から血を吐き出し、現状に目を白黒とさせている姿が映る。

 訳も分からずダメージを受け、場所が一転しているのだから無理もない。


「次に期待しましょう」


 上段から振り上げた踵を一気に下ろす。

 骨を砕く感触が脚を伝い、弾丸の如く叩き落とされた彼は地面に大きなクレーターを作り気を失っていた。


隼人は【憤怒】以外は使用してないです(*´▽`*)

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終焉都市の雑草
連載開始です(*´▽`*)
神々の権能を操りし者2
― 新着の感想 ―
[気になる点] 神の強さってなんでしょう。能力以外にも神性のランクってのがあると思うんですけど。神性を持つ者を神性を持たないもの(武器や肉体)は傷付けられないとか。 神って物理法則でなんとかできるもの…
[良い点] 毎度毎度戦闘描写が良く書けていてすごいなと感心させられます。 読んでいて飽きない作品で楽しませてもらってます。 [気になる点] 主人公の最強具合をもう少しあげてもいいのではと思います。封印…
[一言] やはり時間停止は強力ですね! ただ、同じく大罪能力【怠惰】を保有しているソフィアさんでも本気を出せばシャルティアさんが私と並ぶと発言していたので隼人が【憤怒】を使いこなせるようになるのが楽し…
感想一覧
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