163話 神の敵
深夜、自室のベッドで睡眠をとっていた俺だが、気が付けば白い空間に立っていた。
ちなみに、昼間に来た吸血鬼、スぺさんは既に自宅に帰った。
てっきりイギリスにある自宅の事かと思ったが、どうやら家の近くに新しく家を購入したらしい。
どこから収入を得ているのかと疑問を抱いていると、やはりこちらが疑問を口に出す前に、『私の情報は対価としてお金を要求する事もありますので。まあ、大体九桁辺りが相場かしら』との回答があった。一言二言で億の収入とは・・・・・・日々頑張っているサラリーマンの方々が可哀そうに感じるじゃないか。
閑話休題。
「お久しぶり、ですかね? 今日はお一人ですか」
「おぅ、まあ個人的な用事なんでな、今回は俺だけだ」
そう言うのは、一人佇む白髪金眼の男、戦神マルスだ。
そもそも神と対話する機会など、一般人でなくとも早々ない為に疑問形の挨拶が出てしまったが、今思えばこの一年はかなりの数、それも多柱と相対しているのは非常にイレギュラーな状況だ。言い換えれば、それだけ日常が混沌としてきている訳だ。
「・・・・・・あまり死亡率の高くない用件だと有難いのですが」
「ったく、チキンだなお前は。その方が燃えるだろうがっ! はぁ~ まあ、そう言ってられるのも今の内だろうがな。ほらよっ」
「おっと! えと、これはなんでしょうか?」
戦神から投げ渡されたモノを慌てて掴んだはいいものの、今手にしているモノがなんなのか全く分からない。丸い球体をしていて、淡い光を出している物体だ。
「まさか、ドラ〇ンボールですかッ?! いや、しかし、中に星が書かれていない。発動条件のようなものが?」
「違ぇよ、そいつは【憤怒】、お前が簒奪した能力だ」
「あ、やっぱりですか。そんな気はしてました」
能力の件については自分から言おうと思っていたが、まさか戦神から先に返されるとは予想外だった。
ちなみに、これがどういうものか説明すると、俺が以前に殺した大罪能力保持者が持っていた能力だ。
大罪系の能力にはある特徴がある。それが、保持者を殺した者に能力が移転するというものだ。その例に漏れず、当時の俺が殺した保持者の能力を俺は受け継ぐことになる。
しかし、そしてここで問題が起きる。
【憤怒】の能力を手にするだけのリソースが俺には無かったのだ。そこで、俺の器が成長するまでの間、戦神が【憤怒】を抑えてくれていたらしい。当の俺も最近まで知らなかったが。
「もうそろそろそいつを手にしてもいい頃合いだろう。器も余裕があるはずだ」
「少しは成長したって事ですかねっ!」
「抜かせ。怪物如きに一撃を喰らっている様ではまだまだだ」
一撃すら許されないとか、ハードルが高すぎるのではないでしょうか?
俺は一応人間のカテゴリーなので神と同じで考えないで欲しい。まあ、その神の権能を使っている訳だから、単純に俺の力不足ではあるんだろうけども。
やはり修業はした方がいいのかもしれない。
まあ丁度いい。【憤怒】の事も確かめたいし、起きたらソフィアさんかシャルティアさんに組手をお願いしてみようか。
う~ん、そうなるとやはり、甘々なソフィアさんか鬼畜なシャルティアさんのどちらかという事になる訳だが。初回だし、ソフィアさんに頼んでアップ的な感じで慣らそう。
「それにしても、この球体はどうすればいいんです?」
「取り込め」
球体を見る。直径十センチ程度の大きさだ、口に入れるには少々厳しい。困惑の表情で再度戦神を見る。
「え? 食えって事ですか?」
「別にそれでもかまわんが、体に浸透させるイメージで十分だ」
あっ、そういう感じか。早速、体と一体化するイメージを思い浮かべる。
すると、手に持っていた球体が徐々に薄くなり、粒子状になると、俺の体に吸い込まれるようにして消える。
「お? おぉっ!」
これが【憤怒】か。
なんというか、例えるならば、ソシャゲで強いけど無凸のキャラがいきなり完凸したような気分だ。
これで俺の能力は名実ともに三つ目となる。
歴史上初だろう。まあ既に、歴史上初の大陸を沈めた男ではあるが、マイナスの記録だけでは落ち込んでしまうからな。
「これで残りのSS狩れるのでは? ふっはっは、ちょっくらオーストラリアにでも行きますか」
「そんな余裕はおそらくないぞ。というのも、それが今回の本題だ」
声音に若干の緊張が含まれている気がした。
そもそも、神が“おそらく”と言うのも違和感だ。
雰囲気の変化を感じ、俺も気を引き締める。
そして、次に放たれた言葉に思わず表情が抜け落ちた。
「俺達の敵が来る」
俺の、ではない。
俺達の敵。それはつまり、神の敵とも成りうるもの。
絶対者を除き、考えられる可能性を、俺は一つしか知らない。
僅かの無、その後には悍ましい感情の波が顔を出す。
「その様子なら、早く能力に慣れそうだな」
俺の様子を見て、微笑を浮かべながら戦神がそう零す。
確かに、この胸に渦巻く感情の波を、憤怒などという二文字では表せないモノを表に出さずにいられているのなら、大罪能力の一つを手中に収めるのも容易かもしれない。それ程までに、今の俺には余裕が無かった。
「そうですか、ようやくこちらに来るか」
自分でも分かる程、冷徹な声音で呟く。ああ、ずっと待っていた。
俺が表舞台に出る以前、血反吐を吐いてまでこの力を身に着けたのは、その全ての理由は、家族を守る他に、その存在を殺す為なのだから。
「奴の動向に勘付いたのは最近だがな、以前俺が対峙した戦士。そう、レオンという人間がいただろう」
レオンさんと言えば、今朝の緊急連絡で何者かに瀕死に追いやられたという話だった。
「そのレオンの戦闘だが、俺達が認識する事が出来なかった。人間とは言え、あれ程の男の戦闘だ、通常であれば嫌でも感知する」
戦神は忌々し気に眉を寄せ、虚空を睨む。
「この現象で考えられるのは、奴以外に考えられん。お前の先代の選定者も、先々代もだッ! どうやってかは知らねえが、奴の動向を神が認識できない」
今回は偶然、レオンさんという目立つ人物のおかげで存在を気取る事が出来たと言う。
つまり、少なくとも敵は、神を出し抜けるだけの何かを持っているという事。
「今の俺で、殺せますか?」
「正直分からん。先代の選定者達では奴の手札を出し切らせる事も出来なかった訳だからな。確かにお前は歴代の選定者の中で最強だ。しかし、他の者も遥かに劣っている訳ではなかった。油断すれば、その瞬間に命は無いと思え」
油断などあるはずもない。
思考を占めるのは、純粋な殺意と、過去の自責のみ。
敵は歴代の選定者を殺し続けている。とすれば、動き出した今、十中八九俺を殺しに来るだろう。
そしておそらく、衝突までの時間はすぐそこまで差し迫っている。
来週が過ぎれば少し時間に余裕が出来ると思われます(*´▽`*)!





