161話 邂逅
静岡民間人大量失踪事件(俺氏命名)から数日。
その間だけでも多くの事があった。
中でも最も素晴らしいニュースは、やはり上月 香織さんが目覚めた事だろう。
事件の後処理の為、俺自身はまだ会えていないのだが、聞いたところによると、あの金剛さんが号泣しながら抱き着いたとの事。南さん同様、本当に末永く爆は・・・・・・幸せになって欲しいものだ。
少し後処理についても言っておこうか。
取り敢えず、怪物に関与した者達はほぼ全員が廃人と化した。なぁに、俺は優しいから暴力なぞ振るってないさ。ただ、伝令神の応用で精神を弄繰り回したら、空っぽの人形のようになり、使い物にならなくなっただけだ。
「完璧な自分が恐ろしいぜ」
「へ~ 凄い凄い」
因みに、南さんは恋人さんの体調が万全になり次第結婚する予定だそうだ。
結婚式には俺も呼んでくれるらしい。絶対者がいったら迷惑にならないか? とも思うが、本人がよいと言っているのだから問題はないだろう。
後ほど、恋人の口説き方でも教わろうと思う。
俺が彼女が出来ない理由として、初めにハーレム野郎に教えを乞うたのがいけなかったのかもしれない。
やはり複数人の意見が大事だ。
「出会いってのも大事だがな。しかし・・・・・・今学校には行きたくないしな」
「深くは聞かないけど。どうでもいい事を考えてるのだけは分かるよ」
というのも、伝令神の位階上昇時、権能の【開演せし劇場】で空間内を海水で沈めたのは覚えているだろうか。
それだけならまだ良かったのだが、途中のドッペルゲンガーとの戦闘による余波で、海は荒れに荒れた。彼女達は常に凄まじい衝撃を受けていたらしく、桐坂先輩に限っては死を意識する程だったらしい。・・・・・・海水飲み過ぎてちょっとお腹出てたしな、急所をやられたのも頷ける。
学校の先輩方や同級生の由良さんは仕方ないと言ってくれたけれど、何処か恨みのある視線を感じたのはきっと気のせいではないだろう。
という訳で、一度彼女達と距離を取る必要を感じた俺は、学校に一か月の休学届を出してきた。別に出さなくてもいいとは思うが、一応の配慮だ。今度彼女達と会う時は高級なお菓子でも持っていこうと思う。
「そうだな、そうしよう。怒りは時間が沈めてくれるはずだ」
「収まらない怒りもあると思うけどな~」
「それでだ・・・・・・蒼よ、これは一体なんだ?」
そろそろ現実逃避を止めて今の現状に目を向けよう。
家のリビング。食事をする机の周囲に俺、蒼、ソフィアさん、シャルティアさんと座っている訳(目が覚めたら座っていた)だが、俺の椅子がおかしい。
両手両足が金属の枷に拘束されていて身動きが出来ないのだ。
これでは食事する事が出来ない。
「おいおい、警察ごっこか? 後でミニスカの警官衣装に着替えるとかやめろよ? 人様の目があるからな」
「・・・・・・柳隼人、貴方、妹を何度心配させたのですか。でなければその怒りようは、いえ、何でもありません。貴方の自業自得ですね」
「え?」
シャルティアさんが呆れた表情で言う。
確かに、言われてみればここ数か月で、全く泣かないはずの蒼の泣き顔を何度か見た記憶がある。
(ただ、今回の件については俺はなにも・・・・・・)
顔を横にずらせば、舌を出して頭をコツンと叩いている爆乳怠惰女性の姿が。
「てへっ、言っちった☆」
「おぅ・・・・・・ジーザス」
隣に顔を向ける。そこに蒼はいない。
「あれっ、蒼さんや?」
「なぁに、お兄ちゃん?」
背筋が寒気を感じた。
そろそろ冬に突入したからか、手足がカタカタと震える。シャルティアさんに助けの視線を向けるも、関係ないとばかりに黙々と朝ご飯を食べている。
声がした方向は、俺の真後ろ。
拘束されている今では振り返る事が出来ない。
「あああ蒼、今回の敵は超弱くて・・・・・・」
「腕、飛んだんだって?」
爆乳へっぽこ美女を見る。頑張って口笛を吹いていた。
「そそ、それでも、結果的には倒して・・・・・・」
「結果云々じゃないんだよ」
背後から白い綺麗な手が伸びる。
それは優しく俺の頬を撫でるが、俺は恐怖の余り歯をガタガタと震わせた。
「私、言ったよね? 一か月の死闘は止めてって。譲歩して複数人でなら構わないとも付け足したけど、お兄ちゃん、一人で強敵と戦ったんだって? ソフィアさんが手伝うと言った時も、一人で十分だって言ったんだよね」
爆乳悪魔を見る。机の上でぐうすかと寝息を立てていた。
豊満な巨峰が潰されて苦しそうである。
「ねえ、お兄ちゃんは約束も守れない駄目駄目君なのかな」
「い、いや、そんな事は」
「いいの。いいんだよ。お兄ちゃんだもん、目に映る全てをどうにかしたいと思っちゃうんだよね。・・・・・・だからね、約束を破ったお兄ちゃんには選んで欲しいの。リビングで暮らすか、自分の部屋で暮らすか、私の部屋で暮らすか。さあ、選んで?」
遂に外の世界から隔離される段階に突入してしまったか。
「大丈夫。全部全部、私がなんとかするから」
未来〇記かな?
これが蒼のヤンデレモードか。あの母にしてこの娘ありだな。親の姿をよく見ていると言えばいい意味に聞こえるが、悪いところは真似しないで欲しいものだ。
「むぐっ?!」
「ほら、あ~んして。私が食べさせてあげる」
俺のご飯を箸で掴み、口元に持ってくる。一瞬蒼の目が見えたが、暗闇がぐるぐっるしていて、呑み込まれそうだったので全力で逸らす。
誰もがうらやむであろう、ご飯中の『あ~ん』。
こんな状態でなければ俺も喜んでいたかもしれないが、手足をばたばたと揺らしてもご飯を捻じ込まれるので、実感は中世の拷問を受けている気分だ。
白目を剥いていると、不意にズボンのスマホが振動する。
いや、俺だけじゃない。
ソフィアさんとシャルティアさんのスマホも振動しているようだ。
(緊急事態か?)
直ぐに確認したいが、拘束具を外してもらわないといけない。
「蒼、少し外して、むぐっ?!」
「だ~め、まだ全部食べてないでしょう」
駄目だこりゃ。俺は力になれそうにないです、ガク・・・・・・
「・・・・・・」
「わぉ、こりゃ驚きだ」
スマホを確認した二人が各々の反応を見せる。
ソフィアさんは両目を開き、シャルティアさんは僅かに眉を寄せた。
「なにが、書いてあったんですが?」
「う~んとね、どうやらレオンが負けたっぽい」
「は?」
衝撃の情報に一瞬思考が停止する。
負けた? 誰が? あの怪物が?
「・・・・・・生死は?」
「重症だったらしいけど、もう殆ど怪我は完治してて病院で笑いながらトレーニングしてるって~」
「なんですかその阿呆は」
いや、それでもだ。
レオンさんを瀕死にするような敵がいるって事だ。可能性としてはSSランクだが、アメリカに【世界蛇】が出たという事だろうか?
「それに関しまして、日程が決まり次第絶対者で集まるそうです。柳隼人は・・・・・・まあ、予定はなさそうですね」
「今なにで判断しました? ぱくっ」
全く、俺は忙しくて仕方がないというのに。
今もほら、送られてくるご飯を必死に食べているじゃないか。
(・・・・・・ん?)
軽く憤慨していると、マンション内に不可思議な気配を感知した。
ソフィアさんとシャルティアさんも目線を動かしたから気付いているだろう。
この感じは恐らく、人間ではない。
反応は迷わず、この家を目指して移動してくる。
「悪いな蒼、ちょっとお客さんみたいだ」
手首を回して枷を破壊する。
頬を膨らませる蒼の頭を軽くさすってから、玄関に足を進める。
やはりというか、どうやら奴さんの狙いはここのようで、玄関の前で足を止める。
ピンポーンとチャイムが鳴った。
俺は警戒しながらドアを開ける。
「どちら様でしょう?」
赤い。
第一印象はその一言に尽きる。
日常では着ないであろう赤いドレスに身を包み、その女性は薄い微笑を浮かべていた。
「あら? ちょっとは成長しているのかしら。男の顔をしていますわね」
初めて会うはずなのに、まるで知り合いかのように女性は気軽に言う。
「ふふっ、混乱している様子。まあ、答えは言わないのですけど」
女性はドレスの裾を掴むと、優雅に頭を下げる。カーテシーとかいうやつだろうか。
「初めまして。【強欲】の吸血鬼、スぺ・ラーナリアと申します」
セカンド吸血鬼(*‘ω‘ *)





