16話 学校案内と疑惑の笑み
「君めっちゃ可愛いねえ! なあなあ俺たちと放課後遊ばね?」
「絶対楽しいって!」
俺の事などどうでもよくなったのか、襟から手を離すと服部さんに詰めよる二人。
先ほど決めポーズをしながら特殊能力部隊である事を言っていたはずだがこの様子だと全く信じていないようだ。
「どいてくれます?」
「まあまあ、そう言わずにさ!」
「空にも上るような気持ちになれるよ!」
服部さんがどくように言うが無視して尚もアタックする命知らず共。
どんどんと服部さんの機嫌が悪くなっていく。
お前ら・・・骨は拾ってやるからな。
「どけって言ってるんすよ」
教室の空気が急激に冷える。
いや、実際にはこの場の温度に一切の変化はない。しかし、教室にいた生徒たちは服部さんの尋常ならざる雰囲気にそう錯覚したのだ。
「「ひっ!」」
目の前で彼女の殺気を直で受けた二人は当然他の者と比べ物にならないほどの怖気を感じていた。足をガクガクと震わせながら慌てた様子で教室を出ていく。
邪魔者がいなくなった途端、服部さんはまた笑顔に戻り俺に近づいてくる。
あんなものを見た後では彼女の姿が魔王にしか見えん。
「昨日ぶりっすね柳君!」
「ええ、そうですね魔お・・・服部さん」
ついつい口が滑りそうになるが、慌てて言い直す。
目の前の彼女は笑顔だ。よしっバレてない。
「それで? なんでこの学校にいるんです? 服部さんには大事な仕事があると思うのですが。」
「さっきも言いましたが君を堕とすために来ました!」
「ゆっくり考えて良いって言ってませんでした?」
「ふふふ、その間に何もしないとは言ってないっす!」
確かに言ってない、言ってないが・・・正直邪魔だ。まさか俺の学校生活にまで押しかけてくるとは、どれだけ執念深いんだ? 流石に家まで来たりしないよな?
というかさっきからそのどや顔やめて下さい、なんか小物っぽいので・・・なんか蒼みたいな人だな。
「ところで柳君はもうお昼は食べたっすか?」
「いえまだですが」
「じゃあ一緒に食べるっす! たくさん作ってきたので柳君も食べていいっすよ」
そう言うと、服部さんは背に隠していた特大の弁当箱を突き出す。
その大きさは俺の頭三つ分はある。勿論、横ではなく縦にだ。到底彼女が食べれるとは思えない量だが、店で大量に注文しその全てを物の数分でたいらげたのを既に見ていたので不可能ではないのだろう。
俺の机に特大の弁当箱を置くといそいそと空いている椅子を持ってくる。
「じゃあ食べるっすよ!」
そう言うや否やリスのように頬を膨らませながら食べ始める。
周りの生徒がちらちらとこちらを見ているが完全に無視している。
その様子を眺めながら俺も自分の昼食を取り出す、今日はカツサンドだ。
「お! 美味しそうっすね」
「まあ、カツサンドにはずれはないですからね」
「それで、他には何持ってきたんすか?」
「え? これで終わりですけど?」
「ははは! 育ち盛りの男の子がそれで満足するはずないじゃないですか。嘘が下手っすね~」
「・・・」
「えっマジなんすか」
悲壮な顔をしながら俺に顔を向ける服部さん。
えっもしかして俺の食生活ってヤバイ?
「そんなんじゃダメっすよ、ちゃんと食べないと」
「そんなにヤバイですかね?」
「いつか死んじゃうっすよ? ほれほれ、あ~んするっす」
箸でミートボールを掴んで俺の口に運んでくる。断るのも悪いのでそのまま口を開いてそれを食べる。あっおいしい。?!待てよ・・・これはリア充の恒例行事の一つ――お弁当あ~んではないか!・・・悪いな我が同志たちよ、俺はどうやら一つ先のステージに進んでしまったようだ。
あまりの幸福に涙を流しながら食べる。
「え?! なんで泣いてるんすか!」
「あまりにも幸せで・・・」
「そ、そうなんすか? じゃあ明日も作ってきてあげるっす!」
「え、いいんですか?」
「当り前じゃないっすか! 柳君は育ち盛りですし、いずれ仲間になる者として心配っすからね!」
仲間になるかはさておき大変ありがたい事だ。
俺にも何かできないだろうか。
「じゃあ、服部さんが困っていることがあったら言ってください。俺に出来る範囲で手伝いますよ」
「じゃあ、特殊対策ぶ――」
「それ以外で」
「む~ じゃあ放課後に校舎の案内をお願いするっす」
「分かりました」
放課後の約束をし再び食べ始める。
服部さんは始終笑顔で、なんだか見ている俺も自然と笑みがこぼれ出しそうだ。学校で誰かとお弁当を食べるのが初めてというのも含まれているかもしれない。
やはり今日は良い日だったなと、雲一つない空を見上げる。
◇
「柳君帰ってないっすか~」
放課後、帰りのショートホームルームが終わると爆速で服部さんが教室に突撃してくる。
「いやいや帰らないですよ。流石にそこまで非常識じゃありません」
「ふ~ 良かった良かった。じゃあ行くっすよ!」
「はい、じゃあ付いてきてください」
とりあえず体育館や音楽室、あとは更衣室や修練場をまわる。
「思ったより小さいっすね」
修練場が思っていたよりも大分小さかったのかそう呟く。
「そりゃあ、まだ学生ですからね能力もそこまで育ってないですよ」
「ふ~ん、そういうもんっすか」
ちなみに服部さんは除外する。というよりその年で特殊対策部隊に入隊しているのが異常なのだ。
特殊対策部隊の力と比べればこの学校の生徒の力は一段どころか十段ぐらいは格下だ。
仮に特殊部隊が本気で能力を使えばこんなチンケな修練場では秒で吹き飛ぶだろう。
教室に帰る途中、服部さんが掲示板に目を移すと一つのポスターを眺めこれが何かを訪ねる。
「ああ、そろそろ対校戦の時期ですからね」
「対校戦?」
「ええ、この学校と他の三つの学校で毎年開かれる物で、簡単に説明すると、互いの能力を使ったガチバトルですね」
「へえ~ そんなのがあるんすね全然知らなかったっす」
「そうなんですか? これは結構有名みたいでいろんなお偉いさんが来て、将来有望そうな生徒の視察に来てるって聞いたんですけど」
「そりゃあ知らない訳っすね、こんな物で戦闘に役立つか確かめられる訳ないっすからね」
確かにこんな遊びではその人の本当の力は見えない。実戦と命が懸かっていない戦いとではそれほどの絶対的な違いが存在するということだ。
「それじゃあ、そろそろ戻りますか?」
「そっすね~」
俺たちは教室へ踵を返す。
ただし、帰り際に服部さんが対校戦のポスターを見ながらニヤリと意地の悪い笑みを向けていたことには気づかなかった。
感想が・・・欲しい。今後の期待する展開や批判でもいいので何か意見が聞きたいですね('ω')。でも批判の場合はその改善法も書いてくださると我が血と肉になりますのでありがたいです(*´▽`*)