144話 四人の教室
四日ぶりですかね?
偶にある無気力状態になってました(>_<)!
週末の今日、今週最後の授業を受けに家を出る。
「ふっ!」
屋根の上を、住宅の間のレンガの上を、人目につかないよう忍者のように移動する。
何故朝からこんな事をしているのかと言うと、俺が予想していた送迎の車なんてものがなかったからである。
車を用意すれば逆に感づかれやすいという事で、自分の技量でどうにかしてくれと言われてしまった。
まあ、こちらの我儘で急遽学校に来たのだ。仕方ないと諦め、今に至る。
「はぁ、しんど・・・・・・」
二十分程で学校に到着すると、なんとか誰にも気付かれずに校舎に入る。手早く上履きを履いて、俺専用の教室に移動する。
今日はどれだけのプリントがあるのか恐ろしくてならないが、モテる男を目指すには、ある程度の知識は必要不可欠らしい。気張っていこう。
「しゃっしゃ~す」
「おはよ~」
「おはよう。全く、なによその挨拶は・・・・・・」
教室に足を踏み入れ、誰も人がいない中、ふざけて挨拶をする。
まあ、誰もいないのだ。返ってくる言葉も・・・・・・
「え?」
思わず声が聞こえた方向に視線を向ける。
誰もいないはずのそこには、何故か沖田先輩と七瀬先輩の姿があった。
「ど、どうしてお二人がここに・・・・・・」
「いや~ 二階堂先生に君の事を言ってみたら、『そうだったのか、丁度いい。今日から柳と一緒に勉強しろ』って言われてね~ まあ断る理由もないし、それを受けてここにいるって訳だよ」
「な、なるほど。えっと、では今日からよろしくお願いしますね」
「よろしく~」
「よろしく」
なんで学年が違うのに同じクラスなのかとか疑問は色々とあるが、そんな事をひっくるめて俺という存在の情報をそこまで周囲に漏洩させないようにしたいのだろうか。俺は核爆弾かなにかか? いや、戦力的には核爆弾以上だからなおさらたちが悪いのかも。
とりあえず自分の席に着く。
先輩方の席は俺の後ろだ、視線が凄い気になる。
(気になるといえば、俺の隣の席も一つ追加されているな・・・・・・)
先生は来週にはなんとかなっていると言っていたが、もう粗方状況を整えたのだろうか?
一体誰が来るのかと思っていると、教室のドアがおもむろに開き、外から新しい人影が入ってくる。
「あ・・・・・・本当に、居るんだ・・・・・・」
かと思えば、ドア付近で体を隠して俺をじっと見ている。
いや、見ているのか? 前髪で目元が隠れていて視線が読めない。
「あの子って、確か・・・・・・」
「ええ、由良甜歌さんだったかしら」
七瀬先輩が口にした名前でようやく彼女が何者なのかを理解する。
対抗戦に出場していた俺と同年代の女生徒。確か彼女の能力は【念動力操作】だったと記憶している。
由良さんはびくびくとしながらも教室に入ると、おそるおそるといった風に俺の隣の席に座る。
「・・・・・・よろしく」
「あっ、うん。よろしく」
「甜歌ちゃんも先生に呼ばれたの? どういう基準何だろう?」
「あっ、はい・・・・・・多分、進路で救急隊のような職業を希望している人が集められているのかと」
「ああ、だからこの三人なのね。私達も元々呼ぼうとしていたようだったし」
何故そんな職業を志望している人達が俺の元に?
俺戦わないよ? 教える事も無いよ? だって青春しに来たんだもの・・・・・・
どうしてだろう。教室に男は一人だけという最高のシチュエーションのはずなのに、全然嬉しくない。
瞳から光が消えかけていると、元凶が教室に入ってきた。
「全員揃っているな」
先輩方と由良さんが先生に挨拶する中、俺は腹いせに先生が触手に蹂躙される妄想をしておく。あっ、触手が千切られた。朝一も先生の眼光の鋭さは健在のようだ。
「授業の前に三人をこの場に集めた理由を軽く説明しておこう。まあ、薄々勘付いているとは思うがな」
先生、俺もいます。勝手に一人減らさないで下さい。
「まず、最大の選考基準としては、柳を見ても恐慌しない人物である事だ。お前達三人はその点、一度こいつと肩を合わせているし、各々の性格から大丈夫だと判断した」
これは最早人間扱いじゃないな。最大の理由が最も意味が分からないですよ。
恐慌? この俺のどこが怖いと言うのか。
ちょっと由良さん、そこ頷いちゃ駄目ですよ。
「そして将来的に最も怪物と関りがありそうな生徒を選んだ。出来れば三年も二、三名入れたかったが、そろそろ受験だからな、仕方ない」
「先生、この教室と怪物とがどう関係があるんですか?」
「なんだ、貴様にしては面白い冗談だな。ははっ」
いや、一ミリも冗談が含まれていない真剣な質問だったんですが・・・・・・
「まあ、怪物云々を抜きにしても、柳という存在を見ているだけで幾つか勉強にはなる。それに、時期的にも悪くない。七瀬、来週の水曜はなにがある?」
「はい。静岡の救急隊で、一日任務を同行すると」
「そうだ。運よく私の同期と話が付いたからな。戦闘志望は来週の水、静岡に行く。柳は強制的に参加だ」
「強制的っ?!」
「貴様はもしもの時の保険だ。安心しろ、そうそう貴様が出るような事はないだろう・・・・・・おそらくな」
そこは断言して欲しかった!
いや、俺が行くというのは分からなくもないが、逆にそれでは命の危険がないから身が引き締まらないのではと思ってしまう。
命の危険が無い任務からなにを得られると言うのか。
「まあ柳もそれだけではストレスが溜まるだけだろうからな。水曜までの学校での授業は、私ではなくこの三人に勉強を教えて貰え」
「等価交換の法則が崩れてます!」
「そう言うな。三人とも学力も優秀で、教えるのもうまいだろう。私の方がいいというならそれもやぶさかではないがな」
「先輩方! 由良さん! よろしくお願いします!」
くぅ、割に合わない。
何故学校に来てまで戦闘する流れになってしまうんだ。
はあ、そう言えばこの頃特殊対策部隊の人達に合ってないな。桐坂先輩とかどうしてるだろうか。サリーにも会いたいし、今度時間作って会いに行こうか。
「それじゃ、私はこれで。後は頼んだぞお前達」
「は~い」
「分かりました」
「・・・・・・はい」
二階堂先生はプリントを机に置くと、用事があるとかでぱっぱと教室を出て行く。
もしかして、面倒くさいから三人に俺の相手を押し付けた訳じゃないよな? 仮にも先生だからそんな事はないな。駄目だ駄目だ、マイナスの事を考えてしまう。
取り敢えず渡されたプリントに手を付けていく。
パッと見ただけだか、何故か二年の範囲も入っているような気がしなくもない。まあ、きっと気のせいだろう。先輩方がいるからって流石にそこまで鬼畜な事はしないはずだ。
「・・・・・・ふっ」
意味深に笑みを浮かべる俺氏。
・・・・・・おかしいな。
シャーペンが全く動かないぞ。英語の単語なんて何を書いているのか分からない。もしかして別の国の言葉か?
「あら、これって二年の範囲じゃない。一年のもあるけど、先生も鬼畜ね」
俺のプリントを後ろの席の七瀬が覗き、そう呟く。
やっぱり二年の範囲もあるのかよ。
俺は学校来だして二日目なんだが、超人と勘違いでもされているのかもしれん。
「教える事で私達も勉強しろって事かしら? 柳君、どの問題が分からないの?」
「えっ、えと、この問題が」
「ああ、これはね・・・・・・」
わざわざ椅子を隣に寄せて問題を教えてくれる七瀬先輩。
(あっ、いい匂いがする・・・・・・って、変態かっ?!)
やばい、女性との交流が増えたとはいえ、流石にここまで至近距離まで近づかれるとどうしても緊張して思考がまとまらなくなる。
「あっ、私も教える~」
「一年の範囲なら・・・・・・」
更に二人追加だとぉ!
成程、そういう事だったのか。先生はきっとこれを見越して三人に後を任せたんだ。俺の青春がしたいという気持ちを汲んだ素晴らしい采配。
流石は母さんの後輩、素晴らしい手腕だ。
「ちょっと、ちゃんと聞いているの?」
「あっ、ここも間違ってるよ~」
「・・・・・・この公式ですよ」
ここが幻想郷だったか。
見目麗しい女性が(勉強を教えに)俺の傍に寄ってくる。
嬉し過ぎて涙も出てきやがった。
いいでしょう! これが対価だというならば、喜んで受け取ります。その代わり、三人の安全は保障しましょう。
俺は人生で初めて、ちょっと普通とは違うが、青春を体験できた気がした。
◇
桃源郷から家に帰還し、自室に入る。
パソコンでモフモフを見ようとしていると、スマホから電話のアラームが鳴りだす。ポケットから取り出すと、相手も見ずに通話ボタンを押して電話に出る。
「はい、柳です」
『おう柳、金剛だ。今時間あるか? 頼みがある』
「頼みですか?」
金剛さんと会話するのは随分と久しぶりな気がする。
しかし、世間話をするでもなくいきなり本題に入ろうとする金剛さんの声音からは、明らかな焦燥が感じ取れた。
『実は、かなりヤバイ任務がきた。お前の力を借りたい』
「ほぅ・・・・・・日本には俺が居るのに、金剛さんがそう判断する任務がそちらにいってるんですか?」
『ああ、他の隊員には伝えなかったが、上の連中の誰か、もしくは数人にとって俺達特殊対策部隊は目の上のたん瘤だからな・・・・・・率直に言えば、無理難題を押し付けて俺達を消しに来ていると考えている。俺達は絶対者である柳との関係があるからな、出来れば力を削いでおきたいのだろう』
権力で考えれば、俺が最も高い位置にいる為、その権威を借りて自分達を粛正する恐れがある特殊対策部隊は消しておきたいという事か。埃は払っても直ぐ湧いていくるな。
「なるほど・・・・・・とはいえ、その人等にとって、本当に運よくそんな案件が湧いてきたものですね」
こう立て続けに日本に危険が湧くものなのか。
考えたくないが、内通者がいる可能性が高いかもしれないな。
「了解です。任務は俺も遂行します」
『助かる。詳細についてはおってそちらに送る。日時は来週の水曜、場所は静岡だ』
「はい。わかっ・・・・・・え?」
『ん? どうかしたか?』
「あぁ、いえ、なんでもありません」
学校の日程と被っちまった。こりゃ学校のは断るしかないか。
・・・・・・ん? いや、待てよ。これを上手く使えば。合法的にあの二人も自然な形で任務に巻き込むことが出来るんじゃないか?
「金剛さん。勝ちましたよ!」
『すまん。話が見えないんだが?』
「一つ確認なのですが、皆さんに同行せずとも当日に静岡に居ればいいですか?」
『あぁ、大丈夫だ。それでも問題ない』
勝った。もしかしたら俺が戦う必要性すらなくなった。
敵には同情すら湧いてくる。まさか、絶対者三人が同じ場所に集まるなんて考えてないだろうからな。
ソフィアさんの力は未知数だが、シャルティアさんに至っては俺よりも格上だ。例えSS級が出たとしても一体までなら問題ないはず。
少し邪悪な笑みを漏らしながら金剛さんと軽い打ち合わせをした後通話を切る。
「一体、どこの阿呆が裏で暗躍しているのか。まあ、まだ決まった訳じゃないが」
だがもし、本当にそんな奴がいるなら・・・・・・
「・・・・・・そろそろ戦神から力を返してもらった方がいいか。今の俺なら三つもいけるだろ」
誰にも聞こえない声でそう呟きながら、ベッドに寝転がる。
記憶が戻った時に思い出した事だ。
俺は大罪能力者を殺して【憤怒】の力を手にしているが、当時の俺では魂の器が足りなかった。その為、俺が能力に殺されると判断した戦神が代わりに【憤怒】を保持している。
だが、全ての潜在能力を開放した今なら、おそらく三つ目の能力も使いこなせるはずだ。
(そうすれば、戦神も【憤怒】にさいている無駄な力を消費せずに済むしな)
今度戦神に会ったら、少し掛け合おうと考えていると、目の端でドアが開くのが見える。
「あっ、ベッドに寝転がるならちゃんと着替えてからじゃないと駄目だよお兄ちゃん!」
「ははっ、わりぃわりぃ。それよりなにか用事か?」
「うん! 明日なんだけど、友達が家に遊びに来るんだけどいいかな?」
いいかなと聞きつつも、既に決定事項だと言っている妹様。流石だぜ。
「そいつは男か? それとも漢か? 前者なら俺が立ち塞がる事になるが」
「女の子だよっ! お兄ちゃんの事を凄い人だと思ってる子だから、幻滅させるような行動しないでよ~」
「ふっ、もっとメロメロにさせちゃうかもな」
「なに言ってんだこの人」
「泣くぞおい」
蒼が初めて呼ぶ友達。
平静を装ってはいるが、正直少し動揺している。
学校で上手くやれているようで良かったが、本気で俺の行動一つで蒼の学校生活が変わる可能性があると以前に知ったのだ。
明日は完璧超人モードで過ごさなくてはいけない。
蒼が部屋を出るのを確認すると、スマホを操作して、『ハーレム野郎』と書かれている番号を押した。
早く戦闘シーンがかきたい・・・・・・
もしかしたらどこかのタイミングで更新早めるかもです(*´▽`*)
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