140話 いいじゃないか
一応作業が一段落したので投稿再開です(≧▽≦)
気になるところを修正しまくってたら凄い時間が掛かりました・・・・・・
長らくお待たせしてしまった申し訳ないです。
珍しく早起きした俺は、手短に支度を済ませる。
もう半分は冬場に突入している為、カッコよく上着を大きく宙で回して羽織る。この動作に意味は特にない。
「ふっ、待たせたなぁ!」
「多分誰も待ってないと思うけど」
「待たせたなァッ!!」
「・・・・・・一人ぐらいは待ってくれてるかもね」
そうだろうそうだろう。
対抗戦での俺の活躍を蒼も忘れた訳ではあるまいに。きっと、お姉さん系の先輩やら子猫のような後輩からの猛アタックがあるに違いない。
そう、今日は二階堂先生との電話から三日経った日。
つまり俺の久しぶりの学校への登校日である。
この素晴らしい門出を見届けるのは、残念ながら蒼だけだが。
シャルティアさんとソフィアさんはなにやら用事があるらしく、かなり早い四時頃には家を出ていた。
「それよりも兄様よぉ、判決の結果を忘れてるんじゃぁねえだろうなぁ? おうおう! 妹との遊びを忘れてる訳じゃねぁだろうなぁ?!」
「勿論覚えてるとも。学校が終わったら一緒にゲームでもするか?」
「ありゃ? 思ってた展開と違う。今日はなんだか素直」
「いつも素直だが?」
「成程~ かなり気分が高揚しているご様子」
蒼は、ポンっと優しく俺の肩に手を乗せる。
「なんだよ?」
「大丈夫だよ、もし心がボコボコにされて帰って来ても私が慰めてあげるから。エッチな衣装でも着てあげようか?」
「なに言ってんだ」
馬鹿な事をのたまう愚妹の額を軽く指で押し返す。
「あたっ」
「もう行くからな」
「ほ~い、行ってら~」
以前とは考えられない余裕の時間を持って家を後にする。
早朝の外の空気は妙に澄んでいるように感じる。目一杯肺に吸い込んで、大きく深呼吸を繰り返すと、なんだか視界が広くなったように感じた。
◇
学校に近づくと、遠目に校門付近に人影が見える。
その影をよく見ると、二階堂先生である事に気付く。
少し早足に足を進め、校門に着くと、久方ぶりの先生に挨拶する。
「お久しぶりです。二階堂先生、お元気そうで何よりです」
「貴様も変わっていないようだな。怪我は無いんだな?」
「はい! ピンピンしていますよ!」
記憶がなくなったり全身火傷したりはしたが、今は体に傷がない訳だから嘘ではない。
先生は俺の様子に苦笑すると、校舎を親指で指し示す。
「それじゃあ付いてきてくれ。案内する」
「え? 案内? 教室に行くだけですよね?」
「あぁ、教室に行くだけだ。お前専用のな」
俺専用? なんだそれは?
俺の記憶の中の学校は、複数人で授業を受けて共に学んでいく監獄というものだったはず。
まさか来る場所を間違えてしまったのだろうか。
「ここは学校ですよね?」
「その通りだ。お前の混乱も分かるが、やはり三日では限界があった。とりあえず数日は隔離だ」
「そ、んな・・・・・・俺の青春計画がぁああ!」
「はぁ、やはりそんな事を考えていたか。まあ少し経てば誰かとは同じ場所で学べるからそれまで待て。貴様が元のクラスに訪れれば、凄まじい混乱が起こるだろうからな」
勝手にクラスメイトが混乱するだけじゃないか!
どうして俺が隔離されなくちゃあいけないんだ。しまいにゃ途中で乗り込むぞ!
「くぅっ! 今は、了解です・・・・・・」
「まあ来週には何とかなっている、それまでの辛抱だ」
今日は木曜。来週は四日後だ。
約百時間も俺に待たせるとは、本当に肝っ玉が据わってやがる先生様だぜ。
「それまでの授業は全て私が受け持つことになった。喜べよ」
「う、そですよね。ははっ、流石に二階堂先生ともあろうお方が俺一人の担当につくはずが・・・・・・」
「なんだ嫌なのか? プリント倍にしてやろうか?」
「感激の極みであります!」
「よろしい」
地獄じゃねえか。
せめて元担任の岡本やらツルツル先生であればやりようは幾らでもあったってのに。二階堂先生相手には俺の絡め手も通用しない。
こりゃマジで来週まで青春は待つことになりそうだ。
しかし、登下校はどうするんだ? 今日は偶々早く来たが、他の生徒と同時に帰ればわざわざ教室を分けた意味がなくなる。車で送り迎えでもされるんだろうか。薄々分かってはいたが普通とは程遠いな・・・・・・
「本当にお前は父親に似ているな」
「あれ? 先生って父さんと面識があるんですか?」
「あぁ、私は大学で秋穂先輩の後輩だったんだよ。あの二人の事はよく覚えている」
「母さんの後輩、ですか」
成程、先生の凄まじい迫力と、俺に全く物怖じしていないのは、あの魔女の知り合いだったからか。
まさか、母さんは先生クラスの人物を量産している訳じゃねえよな? ゴクリ。
少しばかり先生の学生時代の話をしながら、校舎の中を進んでいく。
いろいろ気になって質問すると、どうやら今の先生は昔よりも幾分か刺々しさが減っているらしい。
これで丸くなっているのなら、学生時代は殺戮兵器並の存在であったのだろうと思うが、一人だけ熱烈に迫ってくる馬鹿がいたんだと少し顔を赤く染めながら言う。最終的に現在はその人と結婚しているとか。惚気を聞かされてしまった。
「おっ、着いたな」
「随分と厳重ですね」
「流石だな、分かるか」
先生に連れられて来た教室。
視認は出来ないが、厳重に結界が張られているのが分かる。かなりの特注品だ。俺の攻撃でも数発は耐えるかもしれない。
いや、その前に教室に結界を張っている時点で色々とおかしいが、そんな点を上げればきりがなさそうなのでスルーする。
「このレベルの結界を用意するのは大変だったのでは?」
「それはうちが用意したものではないんだ」
「え? じゃあ、一体誰が?」
「私です」
「ひょっ?!」
背後から突然聞こえてきた声に驚き過ぎて変な声が漏れる。
振り返ると、そこには何故かシャルティアさんの姿があった。
そしてこれまた何故か、シャルティアさんは眼鏡を掛けてスーツ姿になっている。黒いストッキングが非常に艶めかしい。
「いや、そんな事よりも! どうしてシャルティアさんがここに!」
「彼女は急遽ここの先生になられた。担当は実技と英語だ」
「はっ?!」
「これからはちゃんと先生と言いなさい。柳隼人君」
「あっ、はい」
・・・・・・少し悪くないと思ってしまったじゃないか。
今日早く家を出たのはこういう事だったのか。
俺の護衛とはいえまさかここまでするとは・・・・・・いや待てよ。以前にも服部さんが学校まで来たからそこまで強引な事じゃないのか?
いかん。この頃おかしな連中と権力に触れ過ぎて普通の感覚を失ってきているような気がする。これはいけない兆候だ、後で権力者が溺れる動画を見よう。
「ちなみに、ソフィア・アンティラも保険医としてここにいます」
「仕事できるんですか?」
「大丈夫でしょう。仕事となれば彼女も動くはずです。おそらく・・・・・・」
目を逸らしてるじゃないですか!
保険医にソフィアさんか、男子に変な妄想されそうで心配だな。
それよりもベッドで寝ている所を襲われるのではないか? 仕方ない、後で俺が様子を見に行くしかあるまい。
別に白衣姿のソフィアさんが見たいだとか、保健室でそういうプレイがしたいだなんて一ミリも考えていないぞ! これは俺の九十九パーセント善なる心からの行動だ。ただ、残りの一パーセントの不確定要素が存在する事は否定しない。
「それでは私は仕事がありますので、二階堂先生、後はよろしくお願いします」
「ええ、シャルティア先生も何かあれば遠慮せず仰って下さいね」
「はい、では」
去っていくシャルティアさんの後姿を見ながら、これからの学校生活が俺の予想していた物とは全く違うものになるであろう事が、嫌でも分かってしまった。
ただ、まだ希望は捨てない!
来週は誰かが俺と同じクラスになるはず! どうするのかは全く分からないが、一人でも女子生徒が来てくれることを望む。