131話 出陣
ぎり間に合いました(;´∀`)
【駿足】テオドル・チェルニーク視点
会議から三日。
【黒騎士】の討伐に割り当てられた俺、ジャック、レオンは、現在オーストラリア西部のパース付近上空をヘリで飛行している。
「やっぱり上からじゃ分からないね~」
「目の届かぬ場所に潜んでいるのかもな。仕方ない、一度降りるか」
「はっ! 腕が疼いてくるなあ!」
二人ともやる気のようだ。
逆に張り切り過ぎて、互いの邪魔にならないかが心配である。
それにしても場所が分からないのは厄介だ。
それというのも、上空の衛星は全て【黒騎士】に破壊されているのだ。その事実だけでも、奴の射程が400キロメートル以上ある事を意味し、戦闘時において不用意に距離を開くことが出来なくなった。
【黒騎士】という名の通り、奴は漆黒の鎧を纏った騎士の姿をしている。
一本の剣で戦う情報から、衛星まで届く遠距離攻撃は奴の持つ能力である事は明白。今回は倒せないまでも奴の能力を暴ければいいと俺は思っている。
「ここまでありがとうございました」
「いえ、ご武運を」
「はい」
いつ攻撃を受けるかも分からない危険な任務にも関わらず、ここまで送って頂いた操縦士に互いに敬礼し、ヘリのドアをあけ放つ。
「行くか」
「おう!」
「腕が鳴るねえ」
わざわざ着陸する必要はない。
俺達はそのままヘリから飛び出し、重力に任せて地面へと落下する。
ジャックは寸前で視界内の場所に転移剣で移動し、レオンはそのまま豪快に地面にダイブ、俺は地面に足が着くと同時に、全ての衝撃を受け流して着地を済ませる。
「ここで別れてもいいが、別に時を急いでいる訳でもない。三人で行動するか?」
「あ~ん・・・・・・そうだな、逆に一人になってヤられてもシャレにならねえしな」
「僕も異論はないよ」
いつもは一人で突っ走るレオンだが、今回は流石に心の内に思い留めたようだ。梅干を食ったような表情をしているのが、奴の心中をそのままに表している。本当に戦闘狂には勘弁して欲しいものだ。
その後、三人で周囲を警戒しながら、パースへと足を踏み入れる。
「死んでいるな」
しばらく歩き、最初に出た感想がそれだった。
都市の機能は完全に断たれ、生物の鼓動一つさえ聞こえない。
草木が生い茂る街道に、斜めに歪んだビルなどを見ていると、地球が終わりを迎える時はこんな光景だろうかと思い、先程の言葉が出てしまった。
「まあ、事実として、生活圏としては終わった都市だからね。取り返せたとしても、以前のように、っていうのは難しいだろうね」
と、街道の端で倒れている白骨死体に合掌しながらジャックが言う。
確かに、この都市は死んでいると言っても過言ではない。
だが、例え以前のように戻れないとしても、俺はせめて亡骸ぐらいはきちんと弔ってやりたいと思う。現状は、【黒騎士】が闊歩している中で、親族を弔う事の出来ない者達が大勢いる。
世界の状況がどうのというのは、些細な成因に過ぎない。これは、その人達の為の奪還作戦だと俺は考えている。故に、表には出さないが、二人同様に静かに燃えている自分がいた。
「そういや、パースの魔女てのは本当に実在した、していると思うか?」
「ん? 珍しいなレオン。お前がそんな話題とは」
「いやなに、俺、というか俺達の身近に、最近まで無能力者だと言われていた坊主がいるだろ? だからちと気になっただけだ」
「あははっ! 無能力者どころか世界地図変えるぐらいの化け物だったけどね!」
パースの魔女――【黒騎士】を産み出したと言われる無能力の少女だ。
苛烈な環境と、誰も、家族さえ手を伸ばしてくれないという絶望の末、発狂しながら絶叫した。そして、奴は現れる。
少女の頭上に亀裂が入り、鎧を纏った騎士が姿を現す。
その先は、言わずともわかるだろう。俺達が見ている光景が結果だ。
現在も噂では少女が生きているのではという噂があるが、衛星もなにも機能していない状況ではなにも確かな情報はない。
そして、これは機密情報に該当する事だが、
少女が迫害されていたのは、なにも無能力者だった、だけではないらしい。
というのも、少女の体はどのような傷を負っても直ぐに回復し、少女の周囲ではいつもなにかしらの事件が起こっていたとか。
これがなんの能力を持たないはずの少女と言うのだから驚きだ。誰もが気味悪がり、彼等は身近なもので少女を判別したのだ。
――この少女は怪物に違いないと。
全く、俺としては馬鹿げているとしかいいようがない。
「存在しようが居まいが関係ない。俺は唯々自分の物差しでしか少女を量れなかった周囲の人間に失望するだけだ」
「まあ、それにゃ同意だが、力のない人間はどうしようもなく視野が狭くなるもんだ。怪物を全部消せばこの悲劇も消えるか・・・?」
・・・ああ、なるほど。
レオンはユリウスの事件の事も思い浮かべているのだろう。
確かに、怪物がいなければあの事件はそもそも生まれる事なかったものだ。
しかし、それは仮定で、実際に事は起こってしまった。
「かもしれないね。だから僕達は怪物を屠り続けるのさ。最期の一体が滅びるまでね」
間髪入れずにジャックが即答する。
軟派で気に食わない奴だが、こういう時はいつもとは違う存在感を醸し出す。嫁を三人も囲っているのは倫理的に同意できんが、見た目だけでなくこういう面があるからこそ多くの女性に好かれるのかもしれないな。
「はっ! 言うじゃねえか。ならどっちが最後の一体を狩れるか勝負しようぜ!」
「望むところだよ。今の僕は調子に乗りまくっているから、そう時間はかからないかもしれないね」
「おいおい、お前等は一体何年後の世界の話をしてるんだ」
とは言うものの、かく言う俺も生きているうちに怪物を滅ぼすつもりではいるのだが。
(ならばまずは一体、SSを屠ろうか)
過去SSランク級が討伐された事例は一件のみ。
【覇王】と【千変万化】によるテュポーンの討伐だ。
映像を見る限り、SSとSの間では隔絶した差があるように見えた。
【覇王】が傷を負ったのがなによりの証拠だろう。あの無敵超人が傷を負う姿など、誰も想像してなかったに違いない。
そして、その後に現れた新人の力もまた想像だにしていなかったものだが。
(全く、笑わせてくれる!)
いかんな、思い返せば無性に気が昂ってしまう。俺は二人を制御しなければ、この衝動に身を委ねるのはいけない。
「ふぅ・・・ん?」
ふと、空気が変わった。
何んでもないような空間が、突然肌のひりつくような殺気に満ちる。
二人をみやると、先程の楽観した表情は消え去っている。
「獅子宮」
「来てくれ、フレーリア」
レオンは能力を発動し、両腕にガントレットを身につけると、その表情を獰猛なものへと変える。
ジャックも同様に能力を発動すると、冷気を伴った剣を召喚する。
僅か数十メートル、立ち並ぶビル群を抜けると、大きな広場に出る。
――その中央に、剣を地面に刺して仁王立ちしている漆黒の騎士の姿があった。
俺達の姿を視界に入れると、頭部の鎧の隙間、人間の目の位置に澱んだ紅の光が灯る。
「早々に見つけたな。俺も久々に全力を出すか」
数十メートルは離れているというのにここまで伝わる殺気。
なるほど、これがSSか。一流の者でも眼前に立てば恐怖に呑まれるというのも頷ける。
しかし、この場にいるのは人外だけだがな。
「いいなぁ! なぁ、最初は俺だけで様子見しねえか!」
「相手が剣で戦うんだ、それは僕の役目じゃないか?」
全く、呆れるほどに頼りになる馬鹿共だよ。
さて、俺もつっ立っている場合ではないな――蹂躙を始めるとしよう。
「英雄」
直後、天から雲を裂き、一筋の落雷が落ちる。
否、それは落雷ではない。
俺の体の横に降るそれを、地面に到達する寸前で、右手で掴み取る。
空気を焼き、僅かな電気を纏ったそれ――トネリコの槍を肩に担ぐ。
「じゃ、行くか」
二つ名から能力に気付いていた人もいるかもですね(*´▽`*)





