129話 メロン
かなり期間が空いた気が・・・
欲望のサブタイトルにしてしまった(>_<)
諸君、おはよう。
DT連合会長柳隼人です。
「・・・どういう状況だこれ」
そんな名誉ある称号を持っている俺は今、目覚めると、目の前に巨大メロンが宙に鎮座しており大変混乱している。
寝ぼけまなこを擦り、視点がはっきりしてもそのメロンは消えない。
「・・・すぅ・・・」
万有引力の如く引き寄せられる視線をメロンから何とか外し、少し上にずらすと、そこにはボクっ子美女ことソフィアさんの幸せそうな寝顔があった。
(い、一体なにがあったというんだ)
一旦状況を整理しよう。
昨日はジャックさんの戦闘の後、なんとか【大天使】で腕とジャックさんを回復した後、家に転移した。
ふらふらしていたから、間違えて蒼が入っている状態の風呂を開けてしまい、コークスクリューブローを鳩尾に喰らったまでは覚えている。あれは芸術的なまでに素晴らしいコークスクリューブローだった。世界中の人にも見せたかったほどだ。
そして現在。
自分のベッドで眠ってはいるが、隣にソフィアさんがいると・・・状況を整理したはずが余計に分からなくなってしまった。
「・・・ん・・・すぅ」
いかん!
ソフィアさんが寝返りをこちら側にうった事で、ぴやぁあああ!!
くっ! 会長の俺には刺激が強過ぎる!
「・・・全く、風邪ひきますよ」
そうじゃないだろ、というツッコミはやめてくれ。
取り敢えず、放り出している布団をソフィアさんに掛けてはだけている服を隠し、俺はベッドから抜け出る。
「痛い。夢ではないか。この状況、蒼ならなにか知ってるか」
頬を抓るとしっかりと痛みを感じたので、どうやら夢ではないらしい。
自分が知らぬ間に、性癖ドンピシャの女性と同衾した事実が衝撃的過ぎて夢だと思ってしまった。
自分の服を見ると、寝間着になっている事に気付く。
気絶している間に蒼が着替えさせてくれたのだろうか。それに、汗のにおいもしないという事は、体も拭いてくれたのか? 全く、至れり尽くせりじゃないか。全部気絶してたからなにも知らないがな!
手早く着替えを済ませ、部屋から出ると階段を下りる。
「おっ、いい匂い」
リビングから朝食の香りが漂ってくる。
珍しい。俺と蒼はそこまで朝食にこだわらないからいつも質素な物で済ますのに、今日は機嫌でもいいのだろうか。
そんな事を思いつつ、リビングのドアを開ける。
「おっは、お兄ちゃん。それよりも見てよこの豪華な朝食!」
「あ、ああ」
興奮気味の蒼に苦笑しながら、俺は視界にあり得ない人の姿を見る。
「もうずっと家に居て下さい、シャルティアさん!」
蒼が瞳を輝かせながら台所の方へと目を向ける。
俺は決して見ないように顔を逸らすも、その女性自らが台所から出てきてしまった。
「いえ、あまり男性と一緒には居たくないので。それよりも柳隼人、今は朝の七時四十分過ぎですよ。少々弛んでいるのではありませんか? こんな可愛らしい妹がいるのですから、兄である貴方がしっかりするべきでしょう。だから貴方は虫なのですよ」
何故貴方が俺の家に居るんですか・・・多分任務だからだろうけど、わざわざ俺の家に来る必要が? ・・・必要あるか。相手が相手だしな。
とはいえ、荷物から虫にランク下がってるのは素直に泣きそう。
最早シャルティアさんの俺を見る目は人間のそれではない。汚物を見る女王様のような目だ。全く・・・これで新しい性癖に目覚めてしまったらどうしてくれるというのか。
「うっ、うっす! これからは改めさせて頂きます女王s、いえ、先輩!」
「・・・今なんと?」
「先輩と申しました!」
「・・・まあいいでしょう。名乗っていませんでしたが、私の名前はシャルティア・エードルンドと申します。以後お見知りおきを」
軽く会釈する姿は見惚れてしまう程綺麗だった。
それよりも・・・危っねぇ! 心の声が漏れちまう所だったぜ。
あの瞬間、女王様と言いそうになった事を認めれば、今頃リビングは俺の血の海だ。
ちらっと蒼を見やると、こちらの動向に全く興味ないとばかりに頬を膨らませて朝食を頬張っている。まるで服部さんだ。こちらは命のやり取りをしているというのにいい身分である。
ガチャリと、背後で扉の開く音がした。
振り返ると、寝間着姿のまま枕を抱えリビングへと入ってくるソフィアさんの姿が。やはり夢ではなかった。それよりもそのメロンをちゃんとしまって、いや服を着てるから一応しまってるのか・・・じゃあ、もうどうしようもねえな。
「・・・いい匂い~、シャルちゃん、ボクのもある?」
「ソフィア・アンティラ、貴方も居たのですか? ・・・はぁ、少々待っていてください。直ぐに作りますので」
「わ~い!」
おい待て、二人は別々で来たのか?
・・・家の警備、ざる過ぎるだろ。いや、相手が相手だから流石に難しいというのは分かるが、もうちょっと頑張ってくれたら俺が気付けたのに。
「・・・お兄ちゃん、その人は」
先程と打って変わり、食事の手を止めて無表情になった妹様が妙な威圧感を纏いながら俺にそう尋ねる。
「お、おう。しばらく行動を共にすることになった絶対者のソフィアさんだ。シャルティアさんから聞いてないか?」
「軽く事情は説明して貰ったけど・・・」
「あれ、君は確か――」
ソフィアさんが何か言おうとした瞬間、急いで席を立った蒼がソフィアさんの手を握り、強引にリビングから飛び出す。
なにがなんだか分からず置いてけぼりを喰らった俺は、一人静かに朝食の置かれた机の椅子(蒼の隣)に腰を掛ける。
「美味しそう・・・いただきます」
シャルティアさんは外国の方だと言うのに、出された朝食は和食だった。俺達に気を遣ってくれたのかもしれない。一口頂いた感想は、超美味かった。食レポは向いていないなと思いながら、次々に食事を口に運んでいく。
「そんなに急いでは喉に詰まらせますよ」
数分でソフィアさんの料理を仕上げたシャルティアさんが、台所から料理を運んで来る。
「シャルティアさん! ご飯すごく美味しいです!」
「ええ、知っていますよ。なにせ私が作っているので」
凄い自信だ。そして自信に裏付けされた最高の料理。これが四位か・・・敵わねえな。
「この任務が終わるまでは私が作りましょう。買い出しの必要があるので、後で手伝ってください。まさかここまで食材がないとは思いませんでした。一体これまでどうやって生活してきたのですか」
「あはは、お恥ずかしながら、簡単なフレークやら外食やらで食いつないでいました」
「はぁ、まあそんな事だとは分かっていました、何せ私が来たとき、貴方の妹が栄養も無いような菓子を食べていましたからね。見るに見かねて台所をお借りしました」
「あはは」
恥ずかし過ぎるだろ。
家の痴態を人様に曝け出してしまうとは。
頬を引き攣らせていると、戻ってきた二人がドアを開けて各々が椅子に座る。蒼はどっと疲れたような表情で、逆にソフィアさんは満面の笑顔だ、可愛い。
「二人はなにしてたんですか?」
「内緒だよ~ 乙女の秘密だからね」
そう言われると逆に知りたくなってしまうのだが。
「それは残念。それよりもソフィアさんは何故俺のベッドで寝てたんですか?」
「えっ?! お兄ちゃんのベッドで寝てたの!」
「ボクは起きるのが死ぬほど苦手だからね。もうそれならいっそ隼人君のベッドで寝てしまえば、自分の家から起きて支度しての作業を省けるし、君を護る事も出来るしでウィンウィンな訳だよ!」
「そんな事で男と同衾しないで下さいっ?!」
「貞操観念おかしいよっ?!」
どや顔を炸裂させるソフィアさんに二人でつっこむ。
そんなしょうもない理由でこれが続いたら俺の心臓が持たん!
「まあまあ、蒼ちゃんも一緒に寝ようよ」
「シングルに三人は無理です!」
そういう問題ではないぞ蒼よ!
「ソフィア・アンティラ」
「ほぇ?」
ソフィアさんの背後に悪鬼の如く覇気を纏いシャルティアさんが佇む。
そのまま片手でソフィアさんの頭部を掴むと、持ち上げてリビングから立ち去る。
「い、痛い! 痛いよシャルちゃん! 隼人君!ボクを助け――」
出された腕はドアが閉められたことで、俺に届かず空をきる。
俺と蒼はその場で合掌し、連れ去られたソフィアさんを見送った。
「あっ、じゃあ私そろそろ学校だから」
「おう、行って来な」
「うん、じゃあ行ってきます!」
これから先、一体どうなるのやら。
家の奥から轟く絶叫を聞きながら俺はそんな事を考える。
次話は18日予定(*´▽`*)





