125話 集結
完全復活!
E〇Eは凄いですね、頭痛が消えました(*´▽`*)
翌日の昼過ぎ。既に昼ご飯は食べ終わり、出発の準備も完璧である。
「にしても本当にいきなり過ぎるが・・・」
俺は他の絶対者については全く知らないのだ、人柄を知るくらいの時間は欲しかった。
昨日は新しく手に入れたスマホを使い、データベースで調べたりもしたが(パソコンは何故か壊れていたので修理中)、情報が全くない人もいるのでどうしたものかと困ってしまった。
そうこうしている時間は過ぎ、家のチャイムが鳴った。
「時間か・・・」
バッグを背負い自分の部屋から出ると、階段を下りて玄関へと向かう。
「にゃ~」
「行ってら~」
「行ってくる」
途中、リビングで寛いでいるルイの頭を撫で、ついでに隣にいた蒼の頭も撫でる。
今日一日付き合えない事の謝罪代わりだったが、ふぐみたいに頬を膨らませてはいるが、嫌がるそぶりは無かったので許されたという認識でいいのかな。
玄関を出ると、スーツ姿の女性が目に入る。
「柳様。お迎えに上がりました。準備はお済みでしょうか?」
「大丈夫ですよ。よろしくお願いします」
「では、転移いたしますのでお手を」
俺は右手を差し出し、女性は俺の手に触れると能力を発動する。
そして気付けば、場所は変わり、広い部屋の中に転移していた。お礼を言おうとするも、女性は既に消えており別の場所に転移したようだ。仕事人という奴なのかもしれない。
部屋を見渡すと、中央付近に大きな丸机があり、その周囲に九つの椅子が置かれている。更に言えば、俺が連れてこられる前に二人の先客がいたようだ。
「やあ、久しぶりだね少年」
「お久しぶりです。前回は本当に災難でしたね」
一人は俺の知っている人物。
【剣聖】ことジャック・グラント。現在六位の絶対者である。
今日も全開でイケメンオーラを醸し出しており、三人のお嫁さんがいる事を考えれば、見ているだけで嫉妬から血涙が溢れ出してきそうだ。
以前は結局、可愛い子を紹介してもらえずに別れてしまったので、次に個人的に会う事があれば是非紹介してもらわねばなるまい。
そして、もう一人。
空のように青い髪を持った女性だ。ただし、枕に顔を埋めている為、女性の顔を確認する事が出来ない。
・・・いや、待て。なんで枕? 会議中に寝る気満々じゃないか! ・・・やはり絶対者は個性の集まりなのかもしれないな。まともなのは俺と(推定)七位の人ぐらいか。一位のアランさんも少し戦闘狂っぽいしな。
「これってどこに座ってもいいんですか?」
「どこでも構わないよ」
取り敢えず、睡眠中の女性と、ジャックさんとの間の席に座る。
一息ついていると、空間が一瞬揺らぎ、誰かが転移してくる。
「はぁ・・・めんどくさ」
転移してきた女性は開口一番にそんな言葉を吐き出す。
灰色のパーカーを着た小柄な女性で、室内にもかかわらずフードを被っている。前面のフードの隙間から出ている金髪の髪が照明に反射して少し魅入ってしまった。
「うん? 知らない顔だな」
俺の姿を見ると、少女のような女性はそう言った。
フードから覗く赤い瞳が俺を貫く。なんていうか、ちょいヤンキーみたいな人という風情である。
「初めまして。二か月程前に絶対者となりました、柳隼人です。よろしくお願いします」
立ち上がり、挨拶をする。
それにしても小柄な人だ。おそらく身長は百五十ないだろう。
「そうか、お前が九人目か。私はアンネ・クランツ。初めに言っておくが私はお前より年上で成人している。阿呆な事を言ったら・・・潰すぞ」
こ、怖え・・・
容姿は載っていなかったが、名前はデータベースにもあった。
アンネ・クランツ、【孤高】の二つ名を持つ序列三位の絶対者だ。単騎で超凶悪犯罪者集団の根城に乗り込み壊滅させた逸話を持つ、それも無傷で。正真正銘の化け物である。
「あははっ、相変わらずだねえアンネちゃ――」
「おい、口を開くんじゃねえよ女の敵が」
ぐはっ、と精神ダメージを受けるジャックさん。
イケメンオーラも【孤高】の前には意味を成さないらしい。
アンネさんはジャックさんに眼を飛ばしながらぺっと吐き出すような動作をした後、空いている席に座り、スマホを弄り始める。
次いで、部屋に転移してきたのは二人組の男だ。
「危ねえ、鍛錬に集中し過ぎて忘れるところだったぜ」
「全くお前は。ギリギリまで国中を駆けまわる奴がいるか普通。俺が止めなかったら後で四位に殺されるぞ」
「ははは! 毎度悪いなあ!」
「笑い事ではないんだが・・・」
汗を流している暑苦しさ満載の赤髪の男――レオンさんともう一人。
縁の薄い眼鏡を掛けた知的に見える男性。服装もしっかりしたものを着ており、着崩れている部分が無い。その男性の姿に、俺は半ば確信を持って、彼が誰であるのかを理解した。
「あん? どうしたジャック? 腹でも痛てえのか?」
「いや、気にしないでくれ・・・」
「全く、スマホを弄ってる奴はいるわ、項垂れている奴はいるわ、あまつさえ寝ている奴までいるではないかっ! 問題児共が・・・うんっ? あぁ、君が柳隼人君かな?」
怒り心頭で額に青筋が浮かんでいる眼鏡イケメンが俺に目を移し、俺が答える前に名前を呼ぶ。
「初めまして。これからよろしくお願いします。テオドル・チェルニークさんでよろしいでしょうか?」
「ああ、俺の事はテオと呼んでくれていい。君の噂は聞いている、よろしく頼むよ。なにかと大変だろうが、もしなにかあったら俺に言ってくれ。問題児達が面倒だったら俺が絞めておこう」
立ち上がり、手を差し出すと、互いに握手を交わした。
テオドル・チェルニーク。
【駿足】の二つ名を持つ現序列七位の絶対者。
槍を武器とし、数多の怪物を蹂躙する姿は圧巻。しかし、その槍捌きは恐ろしく精密で、狙った場所には0コンマ1ミリの誤差すらないという人間離れした技術を持つ。
更に、これは真実かどうかは定かではない情報だが、彼は不死だという噂も流れている。
事実かどうかは分からないというのが微妙だが、噂が流れているという事はある程度の事実も存在するのではないかと思う。
(ま、まともだ・・・!)
少し喋って分かったが、予想通りこの人はまともな人間であるようだ。
戦闘狂やハーレム野郎と異常な存在と連続で遭遇してきたから、絶対者は全員が頭のおかしい狂人ぞろいなのではないかと思っていたが、俺以外にもまともな人間がいてくれたッ!
「うっうっ、ぐすん。ありがとう、ございます」
「ど、どうしたんだいきなり泣き出して?」
「いえ、テオさんのようなまともな人が居て下さって感動してしまって」
「そ、そうか。まあ、君が最初に出会ったのは脳筋らしいから、絶対者に変な誤解が生まれてしまったのかもしれんな」
「あ? 誰の事だ?」
レオンさんの疑問の声にテオさんの額の青筋が濃くなる。
「お前だよ阿呆がッ?!」
「ははっ、レオンは毎度問題ばかり起こしてるからな~」
「人の事が言える立場かッ?!」
「ちょっとうるさいんだけど、今ボス戦なんだから静かにしてくれる?」
「お前ももうスマホしまえッ?!」
テオさんは頭を抱え、はぁ、と大きく溜息を吐き出すと空いている席に腰を下ろす。
俺は彼の哀愁漂う姿に驚愕を禁じ得ない。
・・・す、凄い。この人は毎度一人でこんな問題児達を相手にしているのかッ?! 俺では到底到達できない領域だ。ゴクリッ、少々評価を上げなければならないな。
「・・・はぁ、あと三人か。・・・っ、丁度来たか」
テオさんの言葉の通り、新たに二人の姿が室内に現れる。
「おっと、少し遅れてしまったかな? 研究に集中し過ぎて迎えに気付かなかったんだよ。あははっ」
白衣の服を着た女性。
身長は百七十近く、足元まで伸びる綺麗な金髪を腰の辺りで一本に縛っている。見た感じ、カッコイイ理系女性といった感じだろうが。俺の理系に対するイメージが一般かどうかは置いておく。
「うむ、儂が最後か。」
白髪の老人。
忘れるはずもない。テュポーン戦で共闘した第一位、【覇王】アラン・バルトだ。俺と一緒で何かしらの後遺症が残っているのではないかと思ったが、全くそんな事はなく、完全状態のようで、「ふはははっ! すまぬな!」と豪快に笑う。
(最後? あと一人はまだなんじゃ・・・)
室内を見回し、俺は目を丸くする。
いつの間にか、俺が全く気付くことなく、一人の女性が席に座っていた。
色素の薄い白髪を肩口まで伸ばしたボブカット、氷のような青い瞳は見るものすべてを凍てつかせるようだ。学校での二階堂先生の眼光を思い出す。無表情ともいえる感情のない顔だが、ビスクドールのように美しい、天使の血を引いていると言われても信じてしまいそうだ。
そして彼女と同じように、いつの間にかそれぞれの席にカップが置かれており、中には飲み物が入れられている。いや、少し訂正だ。どうやらジャックさんのカップの中は空のようで、困った顔を浮かべている。
「あ、あの、シャルちゃん? なんで僕にはコップだけ――」
「喋りかけないで頂けますか? 貴方の声を聞くだけで耳が腐り落ちてしまいそうなので」
「がっはッ?!」
今日一番の口撃がジャックさんを貫く! ジャックさんは一撃で倒れた!
横目でジャックさんの亡骸を見ながら俺は自分のカップの中を確認する。
(水だ・・・)
これは、まだセーフなのか? 匂いから察するに、紅茶が入れてあるカップもあるようだが・・・
う、うん。まあ、ただ空のカップだけを置かれるよりはマシだな!
白衣の女性とアランさんが席に座る。
アランさんが全員に視線を送り、両手を机の上で組み僅かに口角を上げる。
「ふっ、それでは始めるかの」
ここに人類の頂点達による会議が始まった。





