121話 出来レース
九章開始(*´▽`*)
誕生日の夜。
蒼に甘えて盛大にはしゃいだ俺は、戦闘の疲労もあってか途轍もない眠気が押し寄せ、風呂から上がると直ぐに眠りについた。
そして、現在。
気づくと俺は、いつかの白い空間に立っていた。
「おいっ、もう一戦だっ! さっきのは軽いウォーミングアップだっ!」
「ふははっ! いいだろう。幾らやろうともこの我が負ける未来などありはしないがなっ!」
「抜かせッ!」
・・・なんか、目の前で近寄りがたい暑苦しい人達が腕相撲してるんだが。近くには太陽神と武御雷も見える。
腕相撲している一柱は戦神、対する存在もまた神で、以前にはここにはいなかった存在だ。
頭に冠を被り、王が着るような法衣を纏っている。
俺が会うのは久しぶりだが、あの方が英雄神だ。
相変わらずの滅茶苦茶な力で、戦神との腕相撲で互角に渡り合っている。
「いや~ ごめんね。あの二柱が盛り上がっちゃって。取り敢えず座りなよ、後で話に入ってくるだろうから、先に僕等だけで話を進めておこう」
突然、後ろから肩に腕を回され、左から何者かが頭を出す。
つばの広い旅行帽をくいっと指先で上げると、その顔が明らかとなった。
「お久しぶりです。伝令神様」
「様付け何て堅苦しいな~ もっとフレンドリーにいこうよ。僕と君との仲じゃないか」
別にそこまで親しい訳でもないのだが。
優しそうな青年の顔をした神――伝令神。神々の伝令史とも呼ばれる存在だ。
促されるままに俺は白い地面に腰を下ろす。
離れている太陽神と武御雷も俺達を見て、傍に寄ってくる。
二柱に挨拶を済ませ、残りの神に目を向けるも、今も尚叫びをあげて腕相撲をしているようだった。先に空間がズレないかが心配になってくる。
「俺が呼ばれた理由は、昼の敵についてですよね」
確信を持ってそう尋ねる。突然呼ばれたのだ。それ以外に思い当たる節がない。
俺の能力について、という可能性もあるが、十年前にも一度発動しているようだし、神ならば既に知っている事案だろう。
「その通り。どうやら向こうさんも動き出したみたいだから忠告はしておこうと思ってね。全能神からも頼まれている事だし、君に死なれると困るんだ」
「好都合ではないか! 敵は全て燃やし尽くせ。灰も残らず世界から葬るのだ!」
「太陽神よ、少し落ち着け。主の力は被害が大きすぎる。あのレベルの敵が相手なのだ、手加減も出来ぬことも考えれば主の力の使用は限定せねばならぬ」
「そんなもの、俺の力を使いこなせれば障害にすらならんわっ!」
ここにも脳筋が一柱。
まともに話せる神は二柱しかいないのか・・・せめて女神がいてくれれば場が華やかになり、心が癒されるのに。
熱くなっている太陽神を無視して伝令神は話を進める。
「まあ、我々の権能を使わずとも今の君なら早々に死ぬことはないだろうけどね・・・」
「【大天使】のみでは勝てない敵がいると?」
「ああ、いる。君が戦った破壊神も含まれているよ。君が戦った状態は本来の彼の力と比較すれば、七割といった具合だ。大方、憑依している素体が悪いのだろうね。いや、憑依できるだけでも相当なものだが、君と比べると数段格が落ちる」
あれで力の一部?
本当に神って奴は厄介な存在だな。
しかも伝令神の物言いから、強敵がまだ存在しているのだろう。これはそろそろ一人ではキツイかもしれん。
「俺が狙われてる理由って、選定者だからですよね? 返還とかは出来ないのですか?」
「後悔するぞ」
頭上付近から戦神がそう答える。
どうやら腕相撲は終わったみたいだが、汗だくのままで近寄って欲しくない。
文句を言いたいが、戦神の真剣な表情を見て、出掛かった言葉を呑み先程の回答の意味を尋ねる。
「地上にお前以上に神との親和性が高い人間は存在せん。もし、他の人間が選定者になれば、おそらく一瞬で殺されるのがおちだ。そうなれば・・・後は分かるだろう」
成程・・・俺以外の人間は神の権能を殆ど引き出す事が出来ない訳か。
となると、あれらの相手は難しい、どころか不可能だろう。
唯一、絶対者であれば可能かもしれないが、神々が選んでいないという事は、なにか基準があるか、器に二つ目の能力が適応できないという事だ。
と、なれば考えられるのは最悪の事態。
ここで重要なのが選定者の役割だ。
俺の任された仕事はただ一つ、ある神殿の守護だ。
神殿の奥には一つの特殊な石板が存在するのだが、その能力が非常に厄介となる。
――書き込んだ事象を全て叶える石板。
その内容がどのようなものだとしても、全て現実となるというもの。
もしこの石板が奴等に奪われでもしたら。
まあ、後悔するだけでは終わらないだろう事は確実だ。
そして、俺としては最悪で、絶望的な内容が、その神殿は選定者が死ぬことで出現するという事だ。
つまり、俺という存在自体が神殿の鍵の役割を担っている訳である。
これが選定者に任された役割だ。神殿の守護――文字通り命を懸けての任なのだ。
「我が手を貸すというのになにを不安に思う事がある? 安心せよ、貴様が死ぬことはない!」
傲慢に、法衣をふわりと翻しながら英雄神が高らかに叫ぶ。
力の化身。圧倒的なまでの力がかの神の自信に繋がっているのだろう。
俺も【魔王】に能力が反転している時は似たような状態になれるのになあ、などと思いつつ、何故か俺の前でストレッチをしている英雄神に眉を顰める。
「あの、一体なにをして」
「貴様のその弱気をぶちのめしてやろう。さあ、立て、拳を握れ、この我が直々に相手をしてやる」
追い打ちかけないでくださいよっ!
くっ、や、やべえ。せめて少しぐらい手加減してくれるんだろうな?
というか他の方々も見てないで助けて下さいよ!
「隼人・・・」
「戦神様!」
腕を組み、戦神が俺に声を掛ける。
思わぬ場所から助け船が来た、と思ったが、
「本気でやらねえと死ぬぜ」
「助けて下さいよっ!」
「最後に嬉しい情報だ。封印の解かれた今のお前であれば、一日数分間であれば我等を憑依させる事が可能だ。権能を理解するという意味を含め、何度か憑依させて慣れておけ、俺が憑依した時のようになにか掴めるかもしれんぞ」
いや、確かに重要な事ですけど・・・
今はこの状況をどうにかして欲しかった。
ぐっと右手でサムズアップする戦神の顔をいつか殴ってやろうと決めた夜だった。
◇
「・・・寝た気がしねえ」
朝、案の定目覚めは最悪である。
あの後、最終的に英雄神だけでなく伝令神以外の神々と幾度も手合わせした。しかも誰も手を抜くことはない為、現実空間であれば優に三桁は死んでいるだろう。
「ふぁ~ 後で二度寝するか?」
頭を掻きながら階段を下りる。
リビングのドアを開けると、蒼が机にご飯を置く体勢で不自然に止まっていた。
顔はテレビの方へと向いており、そんなに気になる報道でもしているのかと俺もテレビに目をやる。
『昨日の午後十四時、脱獄したと考えられる犯罪者集団が・・・』
テレビに映っているのはド派手に破壊された街並みだ。
明らかに超常の存在が戦ったとみられる光景が写されている事に俺は口を歪ませる。何より、場所が家の近場である事がマズイ。
「や、やっぱり俺はもうちょっと寝て」
「お兄ちゃん」
普段の蒼からは出ないハスキーボイスが音量が低いにも関わらず、リビングの空間全体を震わせる。
朝ご飯の盛られたお皿を机の上に置くと、細い腕を下に向け地面を指さす。
「ここに正座して」
「えっ、いや・・・」
「しろ」
「はい!」
チーター張りの速度で地面に正座する。
恐る恐る蒼の表情を見上げると、冷徹な瞳が俺を見下ろしていた。
『少し待っててね』と蒼はリビングから出ると、二階に上がり、目的物を見つけると再度リビングへと降臨する。
蒼の手には、何故かピコピコハンマーが握られていた。
どかりっ、と俺の前に椅子を持ってくると、そこに座り足を組む。
はしたないと言うべきか、ここは何も言わず時の流れに任せるべきか。
・・・なんか怖いから流れに身を任せよう。
蒼はそのままピコピコハンマーを振り上げると、俺の頭に振り下ろし、ピコッと軽快な音が鳴る。
「それでは只今より妹裁判を始めます」
どうやら裁判が始まったようだ。
一体被告人は誰なのか? ・・・まあ、俺だろうな。
「被告、お兄ちゃん。貴方は自分の犯した罪を理解していますか?」
「えっと、テレビに映っている戦闘の件でしょうか」
「それは勿論です。全く、記憶が無かったというのになにをしているのですか。その件に加え、貴方には複数件の訴えがあります。そちらについては?」
「・・・すいません。分かりません」
なにかしただろうか。
残念ながら記憶にない。今日の蒼は恐ろしいから早くご機嫌を取らなければ。
「あの、裁判長」
「黙りなさい。貴方に勝手な発言を許した覚えはありません」
「は、はい」
機嫌を取る隙もない。
またしてもピコンと頭を叩かれる。
「頭がハッピーな貴方の為に罪状を教えてあげましょう」
「は、はあ」
「被告、お兄ちゃんは、妹である私に何度も心配を掛けました。これは重罪です」
えっ、なんかしょぼい。
俺の反応にピクリと蒼の眉が動く。
「今、しょぼいと思いましたね?」
「ッ?! いえいえ! そんな事は!」
「言っておきますが、罪状はこれだけではありませんよ! この頃、仕事と称して妹をほったらかしにしたり、部屋に巨乳美人のグラビア雑誌があるのも知ってるんだぞこっちは!」
蒼の声が荒れる。
ば、馬鹿な! あれは厳重に保管していたはずだ、見つけられる訳がない!
このままではマズイ。流れを変えなければ恐ろしい判決が下されてしまう。
「裁判長! これは不公平です! 弁護人を要求します!」
「・・・ほう、潔く罪を認めればいいものを。いいでしょう、弁護人もいますので、その方に弁護してもらいましょうか」
そう言うと、蒼はポケットから俺のサングラスを取り出し、顔にかける。
「弁護人の蒼です」
「いや、蒼は裁判長だろっ?!」
「私は裁判長であり、弁護人と検察でもあるの」
完全な出来レースじゃないか。
こんな横暴な裁判は歴史上初だよ。
「被告、お兄ちゃんの罪は重いです。私では庇う事が出来ません。全て裁判長にお任せします」
仕事投げちゃったよ。
サングラスを外すと、三度目のピコピコハンマーを俺の頭に振り下ろした。
「判決。お兄ちゃんには一か月の死闘を禁じます。ただし、国の要請があった場合のみ、複数人での任務は許可します。・・・後は、もっと私と遊んで」





