118話 選定者
多くの感想感謝です(*´▽`*)!
神速の一撃が奴の腹部にめり込み、全力の力を込め腕を振り抜く。
「模倣――守護者」
宙に障壁を展開すると、その上に着地して、吹き飛んでいく奴を追う。
途中、奴が吹き飛ばされながらも権能で周囲を崩壊させて、瓦礫に限らず住宅やビルが丸ごと俺目掛け降りかかる。
周囲の生命反応を確かめ、生命の反応がない事を把握すると、眼前に迫る全ての障害物を把握し、意識を極限まで集中させながら天網久遠に命令を下す。
「切り裂け」
――空間が一斉に両断された。
瞬く間に、そう見間違うほど空間全ての瓦礫がずれる。迫っていた巨大なビルですら、全て粉微塵に切断され元の姿が跡形もなく消えた。その隙間を縫うように障壁で移動する。天網久遠は全ての距離と大多数においても強力な武器だ、使いようによっては強度上で勝るのならば同時に数百体の怪物を屠る事も可能である。いくら瓦礫が降ってこようとこの武器の前では意味を成さない。
瓦礫を抜けると、体を捻じり体勢を戻した奴の頭上に七枚の障壁を展開し、腕を振り下ろす動作と同時に、障壁を奴目掛け上から圧し潰すように叩きつける。
障壁の上から下方を見下ろすと、忌々しい霧が見える。どうやら元の場所に戻ってきたようだ。
あの、霧さえどうにかすれば、こちらは万全になるのだが、それを易々と見逃す敵ではない。
「少々、侮っていた」
硝子の割れるような音が響く。
叩きつけた七枚の障壁が破壊され、周囲にその残滓が舞い落ちる。
砂塵が晴れる。クレーターの中心に立つ奴の様子は俺の予想とは違い、非常に落ち着いたものだった。顔を上に向け、俺を見上げる表情からは怒りよりも、信念に近い意志を感じる。
「どうだ? いつも見下している人間に見下される気分は」
「挑発には乗らん。ようやく貴様が選ばれた理由を理解した」
地面を悠々と歩く奴の雰囲気を感じ取り、俺は頬を少し引き攣らせる。
どうやら全力を出していなかったのはあちらも同じであったようだ。奴の額がおもむろに開く。それは、目だった。第三の目。確か神話では破壊神の第三の目は欲望を断つ真実の目であると伝えられていた気がする。
真実とはなんなのか分からないが、厄介な能力を持っている事は確定だろう。
「貴様の才能は危険だ。この場で確実に消しておかねばならん
これはマズイな・・・少々強引に技を繰り出すか。
「天網久遠、いざよ――」
技の発動を止める。
眼前に迫る足を防御せんと障壁を展開するが、紙のように軽く破られると、潜り込ませた俺の腕に直撃し、宙から地上へと落とされる。
「おいおい、速っやいなあ!」
地面にぶつかる寸前で、自身の体を糸で受け止めると、破壊された左腕を再生してすぐさま立ち上がり、糸で砂塵を吹き飛ばす。
奴の姿を把握しようと顔を上げると、俺の正面には既に奴が右腕を振りかぶっている姿が映る。
「模倣――加速」
脳の処理速度を加速させ、景色が一段色褪せると、移動速度を加速してその場から一度退避する。そして、何故かその場から一歩も動かず、両目を瞑っている奴の姿が目に入った。ただ、額の目だけはしっかりと開いているのが逆に不気味だ。
(まあ、でもこの速度なら早々捉えられることはないだろう)
――その認識の甘さは、自分の顔をめり込んだ奴の拳で一瞬にして消し飛んだ。
地面を抉りながら転がり、頭部を再生しながら捉えられた理由を考える。
まず、間違いなく奴の第三の目の能力だろう。ならば、レオンさんのように未来を見ているのか? それとも、俺に幻覚を見せる事で誘導している?
・・・いや、確か真実を見る目だったか。
まさか、心を読んでいるのか?
「その通りだ」
ようやく体が停止したところで頭上から声がした。
見上げると、宙に飛び上がった奴が空中を蹴りながら俺を蹴り殺さんと、右足の踵を振り下ろそうとしている。寸前で、地面に手を突いた反動で回避する。振り下ろされた踵が地面を大きく屠り、衝撃で辺り一帯が揺れ、体勢が崩れた俺に追撃を仕掛けにくるのを、体に糸を巻き付け横に体ごと引っ張る事で逃れる。
宙で回転しながら音を立てずに着地すると、どうしたものかと考える。
とは言っても、その思考すら読み取られている訳だから、あまり深く思考するわけにもいかない。
(ああ、考えるな・・・とは言っても無我の境地なんかに至れるわけでもない。単語で考えよう。取り敢えず、『避ける』、『消す』、『任せる』だな)
方針を決めると、加速しながら戦場を縦横無尽と疾走する。
「無駄だ。幾ら思考を放棄しようとしたところで、必ず動作に伴う心の揺れは存在する。その音さえあれば、貴様の動きは手に取るように把握できる」
視界に奴の姿が入り込む。
「――詰みだ」
奴の蹴りが腹部に突き刺さったかと思えば、吹き飛んだ先に素早く移動した奴が追撃し、ピンポン玉の如く空中で死に体の体が不出来な人形のように無様に踊る。
『3』
その数字が聞こえたのだろう。
奴は訝し気に眉を寄せると、その身に纏う神気を増大させて構えを取る。
「六番、災禍の狂想曲」
「かはッ!」
細胞一つ一つが破壊される感覚に口の端を引き攣らせながら、全力の再生力で対抗する。
とはいえやはり相手の破壊力が上回っている為、体が次々に崩壊していく。
『2』
「模倣――守護者」
障壁を俺の出せる最大数の十展開し、自分を守護するように前面に連立させる。
奴の拳の一撃により、四枚の障壁が破壊される。無数の細片が飛び散り輝きながらその姿を消していく。
『1』
「三番、破獄螺旋」
二撃目、残りの六枚の障壁が一撃で破壊され、それだけに留まらず衝撃で俺の体は地面に叩きつけられ、見事なクレーターを作り上げる。本当に厄介な権能だ。十五位の能力を模倣した障壁が全く役に立たない。
しかし、その絶望的な現状とは反して、視界の端がチカチカと点滅した状態で俺は口の端を吊り上げる。
『0』
準備は整った。
「天網久遠――誘ぎ、深淵」
体を倒れ伏した状態で両腕を掌を向かい合わせる形で前面に突き出す。
俺の動作に、奴ははっとしたように頭上を見上げる。
――そこには、糸で作り上げられた陣が組みあがっていた。
その大きさはこの戦場全体を覆う程の規模を誇っている。
そして、陣の効力が発揮される。陣の内部全体が伽藍洞のような虚無の世界を作りだし、下方に吹き荒れる突風が瓦礫を吸い込んでいく。
「ッ!・・・貴様、まさかッ!」
力を分散させている為、奴にはほぼ効力のない攻撃だ。奴はその事に疑問を抱くも、周囲の光景にようやく俺の目的を理解する。霧が吸い込まれていく光景を見て。
「・・・ぎりぎりだったな」
霧が次々に吸い込まれていくのと比例して俺の力が元に戻っていく。
思考を読まれないかが不安だったが、単語だけならば露見しなかったようだ。まあ、霧を吸い込む攻撃など、普通は発動する前に容易に止められるだろう事を考えれば、そこまで意識していなかったのかもしれない。わざわざ時間をかけて大技を放ったかいがある。
事態の深刻さを察知した奴は今までで最速の動きで俺に迫る。
ただ、一歩俺の方が早かった。
――位階上昇――起きろ、戦神。
俺の髪が白髪に変わり、体を闘気が包む。
そして、左腕が一瞬掻き消えたかと思えば、奴の体が三部分発光し、次の瞬間遅れるように訪れた拳の威力が炸裂し、奴の体を後方に吹き飛ばした。
「これで、俺のハンデは零だ。見せてやるよ、これが選定者だ」
魔王の力と神々の権能を併せ持つ、最強にして最凶。
十年の時を経て、ようやく完全な姿となった。
118話にてようやくハンデがなくなりました(*´▽`*)





