12話 因果応報
「おい、いつまで寝てんだ! 起きろゴミ野郎!」
朝、いやもう昼になっているだろうか。
俺は五月蠅い怒声によって起こされる。
「はっ! 逃げずにいたのは誉めてやろう。まあ、その首枷がある限り何処にいてもわかるがなあ!」
なんかピーピー言ってる方に顔を向けると、俺をボコボコにしてくれたパリピ糞野郎君と無能警察官二名が檻の向こうで立っていた。
もう学校は終わったのか、それとも近くの地域でここまでの被害が出たから休校になったのか。まあ、どちらにしろこんな場所まで足を向けるなんて余程暇なのだろう。ちなみに警察署は昨日リッターに両断されて大きくずれているので太陽の光が直に俺に当たってくる。
「で、なんのようっすかね?」
「はっ! そんな生意気な態度をとれるのもそれで最後だぞ!」
別にそんな風にした覚えはないが、奴には俺がどう映っているのか。
「昨日Aランク級の怪物が暴れたことで町はめちゃくちゃだ・・・大勢の人が亡くなった、なのになぜ貴様のような無能な存在がのうのうと生きている!」
「この悪魔め! お前が怪物を呼んだんだ! パースの魔女の仲間なんだろ!」
とは無能な警官達の言い分である。
それにしても面白い事を言うな。
パース、西オーストラリア州の都市で人口は百六十万人を超える大都市だ。いや、大都市であったというのが正しいだろう。
その都市には俺と同じ無能力者の少女がいたそうだ。
その少女も俺と同じく他者から見下される人生を送っていたらしい。
家族からは見放され、手を差し伸べる者は誰もいなかった。
そして遂に・・・壊れた。
彼女は叫んだ。人々が行き交う中で喉が張り裂けんばかりに。
すると、彼女の頭上で空間に罅が入る。
そこから現れたのは漆黒の鎧を纏った騎士であった。
その騎士はたった一騎で、都市の住人その尽くを滅ぼした。
それがパースの悲劇を呼んだ魔女と呼ばれる少女。
今だにパースにはその騎士と少女が蔓延り、奪還には至っていない。
そんな存在と俺が同じに見えるか?
まあ言うつもりもないし、信じてもらえないだろうがその怪物倒したの俺だし、よっぽどお前たちよりは働いている。だがまあ怪物を呼んだというのは完全に否定はできない。この頃の俺の怪物遭遇率はおかしい。本気で何かに祟られているのかもしれない。ここから出たら一度御祓いに行こうと思う。
それよりもパリピ君の様子が何やらおかしい、何処かたがが外れそうなそんな感じだ。
誰か知人の死体でも見たのだろうか? この場所はうちの学校からはそれなりに離れているので、クラスメイトではないと願いたい。あんな奴らでも将来大事な戦力になるかもしれないからな。できれば肉壁は多ければ多いほどいい。俺が戦わなくてもいいようにするには欠かせない存在である。
「そこでよう、俺はお前を殺すことにしたぜゴミ野郎。お前を殺したところで怪物のせいってことになるだろうし、お前みたいな災禍の種はここで摘むのが世の為ってもんだろう!」
と手を鳴らしながらそんな事をのたまいだすパリピ君。何がそこでよう、なのかが意味不明だ。
・・・どうやら遂に一線を越えようとしてるらしい。
マジかよと思うが、あの様子だと嘘という訳ではなさそうだ。これに対して俺の取れる選択肢は思いつくだけでも三択だ。
まず、選択肢一。
パリピ君の言う通り大人しく殺される。しかし、俺には守らなければならない家族がいるので却下だ。
次に選択肢二。
この場から逃走する。誰も血を見ずにすむ一番平和的な方法だ。欠点としては逃走したところで数値『0』の俺がまともな生活が出来る場所があるのかということだ。
そして、選択肢三。
目の前のこいつらを殺す。
出来れば最も避けたかったことだが、こうなってしまえば仕方ないだろう。俺の“星穿”であれば跡形もなく消すことができるだろう。証拠がなければ俺を捕まえることも出来ないはずだ。
「戦神」
誰にも聞こえないように密かに能力を発動させる。
闘気をその手に収束させ――
と、その途中。ドゴンっ! という鈍い音とともに建物が大きく揺れる。また怪物かよと思ったが、次に聞こえた知らない声にその考えを改める。
「は~い おじゃま~」
「失礼するっすよ!」
俺も目の前の三人も等しくその声が聞こえる方へと顔を向ける。
そこには金髪のギャルっぽい少女と緑色の髪をサイドテールにした活発そうな少女が頑丈な壁をぶち破って中に入ってきていた。
しかし、その美しい容姿よりもその胸のワッペンの方に俺の意識は集中する。
(龍のワッペンって・・・)
そのワッペンには覚えがあった。いや、俺だけではないだろう、超有名だし、大抵は誰もが憧れるものなのだから。
そして、俺の驚愕をおいて無謀にも警察官が彼女たちに近寄る。
「おいおい、お嬢ちゃんたちこれどうしてくれるんだ! 壁が完全に壊れちゃってるじゃないか!」
「器物損壊だよ。ちょっと奥の部屋まできてもらおうか!」
二人の警官の瞳は劣情の色に染まっており、話を聞くことが目的でないのは明らかだった。対する少女達は呆れかえった表情をしており、目の前の警官をまるでゴミでも見るかのような目で見ている。
警官の未来を予想した俺は心の中で静かに合掌した。
「はぁ、あんたらこれが目には入んないの?」
と金髪少女がワッペンを指さすことでようやくその存在に気づく愚か者三人。
その表情は驚愕に染められ目を大きく見開く。
「そ、それは特殊能力部隊の!」
「いや、こんな少女が?!」
「すげー!!」
三者三様に興奮した様子で目を輝かせている。
全く、能天気なやつらだな。
彼女達がこんな場所に来るという異常性に気づかんのか?
彼女たちに救いを求める人たちは五万といる。そんな中わざわざこの場に来たということは、ここにそれほどの何かがあるということに他ならない。しかし、俺にもそれが何かは分からない。まさか、昨日の戦闘を見られたか?と考えるが、あの時近くには俺以外の人間は近くにいなかった。まあ、衛星なんかで見られていたのだとしたらどうしようもないが。
金髪少女はその三人を一瞥し、ため息を吐く。それからファッションセンスの高い鞄から何やら紙を取り出すと、それを読み上げる。
「田中 亮。学校では日々いじめを繰り返しており、それによって登校拒否となった学生は相当数存在する。また、父親が警察庁長官だということを利用し、窃盗、暴行、その他の犯罪行為をもみ消している」
ここでパリピ君の顔が壮大に引き攣る。
俺もなぜパリピ君のことをわざわざ調べたのかに驚く。ていうかパリピ君は田中って言うのか、初めて知ったわ。
「そして警官二名、自分たちの気に入った女性を職務だと言って部屋に連れ込み強姦を繰り返す屑野郎。その数は十を超えるっと。あんたら本当に屑ね」
「そ、そんな事する訳がないだろう!」
「言いがかりだ!」
とたまらず反論する警官。
それもそうだろうここで黙ってしまったら自分たちがやったことを認めてしまうことと同義なのだから。しかし、その蒼白になっている顔がなによりも真実であると証明していた。
「言いがかりぃ? こっちには十分な証拠がそろってるんすけど」
と緑髪の少女が資料の一部を三人の足元に投げ捨てる。
それを見て、どんどん顔が青くなっていく三人。見てるこっちが思わず心配してしまうほどだ。
「なんでこんな奴がのうのうと生きてるのかマジ分からないわ。私たちはあんた等みたいなゴミの為に戦ってるわけじゃないっての」
「ていうかさっき檻の中に入ってる彼の事殺す的な事言ってなかったすか? 殺人未遂っすねえ。まだ罪を重ねようとするなんてどんだけドエムなんすかぁ」
おおぅ、煽る煽る。
俺があんなこと言われたら確実に号泣するわ。
パリピ田中君の顔が屈辱からか赤く染まりフシュ―と何やら可笑しな声を漏らしている。
「この糞尼が! 殺してからぶち犯してやるよ!」
と怒りの頂点に達し、緑髪の少女目掛けて走り出す勇者田中。
やめろ! その先は地獄だぞ!
俺の思いは届かず、勇者田中は少女の目の前まで来ると左手を前に出し吠える。
「死ねや!」
その手からは巨大な炎が飛び出す。
その炎は真っすぐ少女めがけて飛翔する。少女に衝突する刹那、少女の腕が掻き消える。
「しっ!」
それと同じくして、存在していたはずの炎の塊は消え去り、
「がああああああ!!!」
敗北者田中の絶叫が響き渡る。
「まあ、私も散々煽ったのでさっきの愚行は見なかったことにしてあげるっす」
「がああああああ! いてえ!」
田中君の左腕はあらぬ方に曲がっていた。痛みに慣れていないのか、泣き叫んでいる。
彼女がやったことは単純だ。視認するのも難しいほどの速度で服の下から短刀を取り出すと迫りくる炎を切り裂き、返す刀の柄の部分を使って田中君の左腕の骨を砕いたのだ。
その間僅か一秒にも満たない。まあ、速過ぎたためか骨を砕くだけでは終わらず、違う部分が折れて腕が変な方向を向いてしまったようだが・・・
「もう、五月蠅いっすねぇ。なんすかもう一本の腕もやって欲しんすか? 麗華先輩やっちっていいすか?」
「やっちゃえば? 別にどうでもいいし」
「ひぃ!!」
そこにいるのは紛れもない暴君だ。蒼がかわいく思えてくるぜ。
田中君は悲鳴を上げて後ずさる。警官二名もその圧倒的な存在を前に恐怖に駆られ歯を鳴らす。
咎められていないはずの俺の体もあまりの恐ろしさにカタカタと震えだす。・・・もふもふに会いたい。
「ああ、ちなみに君のお父さんは逮捕されたっす。まあ、それも当然っすよね。息子の罪を隠蔽してた訳っすから。そこの警官二名は家族からは離縁。結婚もしてたみたいっすけど、どちらも離婚するみたいっす。まあ、こんな屑と家族だとは思われたくないでしょうから超納得すね」
やめてあげて! 彼らのライフはもうゼロよ!
三人とも、その顔は青を通り超して既に白色になっている。もうライフがマイナスになってるかもしれないな。
二人の少女は彼らを見下すように視線を一蹴すると、歩き出し何故か俺の入っている檻に近づく。
・・・え、なんで? 俺何も悪いことしてないんすけど。
俺は体を丸め、瞳を潤ませて己が無害であることを必死に訴える。
その思いが通じたのか緑髪の少女が微笑む。俺も微笑む。
「よっと!」
しかし、俺の希望は叶わなかったのか。
少女は短刀で檻を切り裂くとずかずかと中に入ってくる。
「俺なにもしてないです! 何かしていたというのなら全力で償います! だからころさないでーーーー!!!!!!」
「・・・・・・もしかして私たち怖がられています」
「いや、怖がられてるのは鈴奈っちだけでしょ。うちなんもしてないし」
緑髪少女は心外とばかりにその頬を膨らませると、俺に顔を戻し優しく語りかける。
「柳 隼人君でいいっすよね?」
違います!と答えようとするが、その嘘がばれた時の事が恐ろしすぎて震えながらも頷く。
少女はそれに微笑むと俺の手を優しく握る。美少女に手を握られるというのは童貞の俺には刺激が強く顔が赤く染まる。
「貴方をスカウトしにきたっす。少し話を聞いて貰えないっすか?」
混乱していてなんのスカウトか深くは考えていなかったが、
「は、はい」
と俺は答えていた。
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