11話 見ちゃった
隼人の戦闘に決着がつき、踵を返している頃。その遥か上空には一機の飛行船が飛んでいた。
乗船者は五名、操縦者が三名とその他二名という組み合わせだ。そして、その二名は等しくその顔に驚愕の表情を浮かべていた。
「先輩先輩! 見たっすか今の! 彼一人で倒しちゃったすよ!」
「ええ、見ていたわ。まさかAランク級の変種を一人で倒すとは驚きだわ」
緑色の髪をサイドテールにして興奮冷めやらぬ様子の少女と、それに冷静に返す黒髪ロングの美女。二人の胸元には龍を模した小さなワッペンがあった。そのワッペンは彼女たちが特殊能力部隊の一員であることを示していた。
緑髪の少女の名前は服部 鈴奈。10歳にして特殊能力部隊に入隊した神童であり、現在は17歳となり隼人より一つ年上だった。
黒髪の美女の名前は吉良坂 涼子。その瞳は冷徹で見るものを委縮させる。隼人がここにいたら【メデューサ】の親戚かと疑っていただろう。
彼女たちは今回、Aランク級が出現したということで現場に駆け付けた。
しかし、彼女たちが怪物と相対する前に既に一人の少年が戦闘を開始していたのだ。はじめはすぐにでも自分たちも参戦しようとしたが、少年が互角に戦いを繰り広げているのを見て、その歩みを止める。
少年の力がどれほどのものなのか興味を持ったからだ。
そのまま少年は怪物を空高く蹴り上げると、何やら構えをとりその一撃を怪物へと浴びせた。
それにより怪物は上半身を消し飛ばされ絶命する。それを見た時の鈴奈の興奮はマックスで、それはもう五月蠅かった。
しかし、残念ながらそれで終わりとはならなかった。
Aランク級の怪物がその傷を再生して復活したのだ。それも最初の頃よりも明らかにレベルアップした状態で・・・
少年もそれにはたまらず一方的にやられ始める。
流石に潮時だろうと二人が現場に降りようとするが、そこで少年の様子が変わる。体から淡く輝くオーラを放ち、悠然とたたずむ。
ここで二人が動かなかった理由はそのただならぬ覇気にわずかに魅了され目が離せなくなっていたからだ。
そこからは完全に攻守が逆転し、少年が怪物を圧倒する。いや、それは圧倒ではなく蹂躙と呼ぶにふさわしいものであった。
怪物の攻撃は一つとして少年には届かない。逆にまるでハエでも払うかのように少年が手を振るだけで怪物の体はちぎれ飛ぶ。
そして、数度怪物を屠ると。そのオーラを纏った状態で、少年は初めて構えをとると、襲い掛かる怪物に対しその拳をぶつける。
結果はその目で見た通り、完全な消滅だ。
肉片の一つも残すことなくこの世界から消えた。
涼子は右手を顎に持っていくと思考を始める。
「どうしてあれほどの能力者がこちらに来ていないのかしら?」
「確かにおかしいっすよね~ 確実に特殊能力部隊に入れるだけの力は持っているし・・・ていうかそもそも彼の情報も知らないっすよ?」
一定以上の能力数値を持つものは自動的にその情報が特殊能力部隊に伝達され、スカウトすることができるのだ。しかし、彼のデータは今まで送られてきたことはない。
「この国の人ではないのかしら? それともつい最近能力の数値が激増したとか?」
自分で考えながら、その答えを否定する。
彼の顔は日本人のそれであったし、口の動きから日本語を話していた。
なにより能力の数値が激増したとしても、いきなり実践でうまく使えるとは到底思わない。
「鈴奈ちゃんは彼をスカウトしたい?」
可愛い後輩に一応尋ねる。
「そりゃあもう! あれほどの力を持ってたら私たちの生還率も上がりますしね!」
その意見には同意する。特殊能力部隊は確かに圧倒的な戦力を誇るが、それと同時に依頼されるものも難易度が高いものばかりだ。生還率はおよそ七十パーセントほどしかない。その数値は高いように見えるかもしれないが百回出動すれば三十回は死ぬということだ。それを考えればあの少年の戦力は喉から手が出るほど欲しい。
涼子は思考を整理すると帰還したらあの少年について少し調べてみることに決めた。
◇
「どういうこと?」
拠点に戻りあの少年の事を調べると、そこには到底ありえない情報がのっていた。
「能力数値・・・0? ありえないわ、それではあれほどの力の説明がつかない。」
しかし、どこからどう見ても0の数値は変わらない。
近くでお菓子を食べている鈴奈にも尋ねる。
「ねえ鈴奈ちゃん? 彼で間違いないわよねえ?」
とパソコンの情報を見せる。
「はい、間違ってないっすよ? て、ええええええ!能力数値『0』?! そんなわけないじゃないっすか! もしかしてバグってます?」
その数値を見た鈴奈も同様に驚く。それも当然だろう能力数値が『0』ならば最弱のFランク級すら倒す事が奇跡であるとも言えるほどなのだから。
「そうよねえ、絶対おかしいわよねえ。しかも彼、今何故か警察署に居るみたいよ?」
「え? 悪い人なんすか?」
「いえ、それが少しおかしくてね、詳しい情報が全くないのよ」
「・・・嵌められてるってことっすか」
鈴奈の声が低くなる。能力数値が低い者が他者にどういう扱いをされているかを考えたら、冤罪をかけられている事も十分にありえる。
「まだ、確定じゃないけどね・・・今から調べてみるわ」
「あれ~ 鈴奈っちと涼子っち怖い顔なんかしてどうしたの~?」
どこか能天気な声で呼びかける人物に目を向けると、そこには金髪をポニーテールにしたギャルのような少女がいた。彼女の胸にも龍を模したワッペンがあることから特殊能力部隊の一員であることが分かる。
「はあ~ 麗華ちゃん、その服の着崩しをなんとかしなさいと毎度言っているでしょう?」
「ぶ~ 別にいいじゃん! 服は自由でしょ! ていうか何調べてたの?」
「ちょっと変わった男の子についてね・・・」
涼子はその少年の事を麗華に語ると、彼が面倒ごとに巻き込まれているかもしれないことも伝えた。
「ふ~ん、なるほど。じゃあもしその子が冤罪かけられてた証拠とか見つけたら教えてよ」
「? どうするの?」
「え? そりゃあそいつら終わらせに行くんだよ?」
と手で首を切るジェスチャーをする麗華。その顔は笑っているようで瞳は全く笑っていなかった。
どこか軽薄そうであるが、誰よりも不正やいじめを嫌う。それが麗華という少女だ。
涼子はそんな仲間を見ると、なんだか嬉しくなって微笑む。
そして事の真相を探るべくパソコンのキーを叩いた。
次話、ざまあ予定。
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